「増額修正でも株価下落――"保有して決算発表を跨ぐは危険"の思惑広がる」
「コマツ、三菱自動車が大幅安」
「キーエンスは大幅高」
「決算発表前の"需給の傾き"に注意」
10月30日の日本株は下げました。米国株安を受けて、先週28日土曜日朝6時の日経平均先物夜間取引終値は440円安の30600円でした。その先物の動きを参考にすると、本日の日本株の動き・水準は、ほぼ予想通りだったのでしょう。
日経平均の動きは想定通りとしても、個別企業の株価動向は激しく、予想が難しい状況にあります。下方修正を発表したオムロン(6645)がストップ安となる一方で、7-9月期営業利益実績が8.8%減益となったキーエンス(6861)は大幅高です。
オムロンは27日、24年3月期の営業利益の見通しを450億円(従来計画1020億円)に下方修正しました。「予想利益が半分以下になって株価が急落」は、わかりやすい反応です。
しかし、オムロンと同様に「日本の設備投資関連株の代表株」と位置付けられるキーエンスの大幅高は、ちょっと説明が難しい。キーエンスの7-9月期業績は「中国の設備投資動向に不透明が強い中で堅実な内容」との評価が可能でしょうが、それが株価7%高の十分な説明になるのか、よくわかりません。
さらには、同じ上方修正銘柄でも、日立が大幅高となる一方で、コマツは大幅安です。コマツの大幅安は「上半期と比べて下半期の業績が下がる」と説明されます。
コマツの営業利益
上半期実績2969億円(+40%)
下半期計画2510億円(-10%)
こうやって上期、下期に分けると、下期が落ちることがわかります。
もっとも、こうした説明は、株価上昇の場合は上昇要因、下落の場合は下落要因を一生懸命探した結果、浮かび上がります。
学校の試験と違って、株価の動きは「正解が1つではない」のです。1つの答えを導き出して安心しても、あまり意味がありません。ああでもない。こうでもないと、色々考えて、決め打ちしない柔軟な姿勢が大切です。
個別企業の急騰・急落について、マーケットで聞かれる説明が腑に落ちない場合もあるでしょうね。その場合は、特殊な需給要因が株価を動かしているケースが多いのかもしれません。コマツであれば、増額修正を期待して買っていた投資家が多かったので、予想通りの増額修正では、買う材料にはならなかったのでしょう。
キーエンスの場合は、逆に売り持ちをして決算発表を迎えるファンドが多かったのでしょうか。キーエンスの信用売り残は4万株しかありませんが、日本証券業協会の公表データによると、20日現在、証券会社から投資家に約500万株が貸し出されています。株を借りて売っている投資家も多かったのでしょう。
決算発表前の需給の傾きによって、決算内容への反応も変わってきます。理屈を述べれば、「上方修正期待がない株が上方修正すると株価は大きく上がる」、もっと言えば「下方修正リスクの大きい株が逆に上方修正をすると株価は大きく上がる」のでしょう。つまり、決算発表後に上がる銘柄を見つけるのは難しいのです。
本日のように、大型株であっても決算発表後の急騰・急落銘柄が相次ぐと、決算前にポジションを持つことが怖くなってきます。個別株の荒い値動きが、マーケット全体の悪材料として意識されています。
本日の正午過ぎに業績見通しを上方修正した三菱自動車(7211)も売られました。営業利益見通しは300億円分上方修正ですが、販売台数は49000台下方修正しました。
三菱自動車は「台数減少」による営業利益減益要因198億円<「為替円安」による営業利益増額要因398億円――結果として営業利益上方修正です。しかし、株価は台数減少の方を重視しました。
コマツにしろ、三菱自動車にしろ、業績上方修正にもかかわらず、株価が大きく下がる動きを目の当たりにすると、株を保有して決算をまたぐこと自体が危険な行為に映ってしまいます。もっとも、上方修正は好材料のはずなので、悲観に傾き過ぎた後には、好感する場面がやってくるはずですが...。
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まだ、決算発表は始まったばかりです。ただ、先週末段階では、日経平均の予想1株利益は増加には向かっていません。日経平均採用銘柄225社の合計時価総額を予想利益で割って算出したのが日経平均予想PER。日経平均を予想PERで割って算出する数字が「日経平均予想1株利益」です。時系列で以下に示します。
日経平均 予想PER 1株利益
12日32494円66銭15.55倍2089円
13日32315円99銭15.33倍2108円
16日31659円03銭15.10倍2096円
17日32040円29銭15.23倍2103円
18日32042円25銭15.24倍2102円
19日31430円62銭15.01倍2093円
20日31259円36銭14.95倍2090円
23日30999円55銭14.83倍2090円
24日31062円35銭14.82倍2095円
25日31269円92銭14.93倍2094円
26日30601円78銭14.77倍2071円
27日30991円69銭14.98倍2068円
今週の総合商社、自動車、海運会社、電子部品メーカーの決算発表後、利益全体が増加するのか、注目されます。
ラジオNIKKEI解説委員 鎌田伸一
10月30日午後3時10分記