


2025年春、イギー・ポップが17年8ヶ月ぶりに日本にやってきた。もちろんライブのために。この"日本空白期間"にイギーおよびザ・ストゥージズがリリースしたスタジオ録音アルバムは次の6枚だ。
「Préliminaires」 (2009)
「Après」 (2012)
「Ready To Die」 (2013) *Iggy Pop and The Stooges
「Post Pop Depression」 (2016)
「Free」 (2019)
「Every Loser」 (2023)
非ロックへ大きくシフトした「プレリミネール」、3年後には大手ヴァージンから拒絶されマイナー・レーベルからのリリースとなったシャンソン作「アプレ」、再結成ストゥージズとして2作目にして最終作となったハードなROCK作「レディ・トゥ・ダイ」、ストーナーロックの雄ジョシュ・オムとタッグを組み70年代後半「ベルリン期」作の続編かつ決着を付けたヘヴィーな「Post Pop Depression」、JAZZトランぺッターPan Amsterdamを迎えた静逸な「Free」、若手辣腕プロデューサーAndrew Wattを迎えたラウド系サウンド「Every Loser」、こう並べてみると常に自身の前例から外れた「意欲作」をマイペースに制作してきたことがよくわかる。年齢を重ねてなおクリエイティヴィティが枯れていないのはスタジオ作品から明らかだ。
一方でライブパフォーマンスはどうか?我々日本にいるファンにとって20年弱ぶりのステージとなったロックフェス「PUNKSPRING」(2025.3.30)、日本では31年ぶりのソロ名義・単独ワンマンとなった東京ガーデンシアターでのライブ(2025.4.2)この2公演を最前列のモッシュピット、また2F席から俯瞰して体験し見えてきたのは次の通りだ。── 過半がストゥージズ期の楽曲で20世紀に作った曲が大半ながらサウンドメイキングにおいては明らかにアップデートされたアンサンブルだった。具体的には「厚み(thickness)+重み(heaviness)」と「従来のライブver.よりも落としたテンポ」と「オリジナルのスタジオver.にかなり近付けたアレンジ」により渦巻くようなグルーヴが生じ、「二管ホーンセクション(トランペット、トロンボーン)」が加わることによる「原曲にはない新鮮な響き」が醸成されていた。これはかつて1960年代を絶滅(wipe out)させたと豪語した1970年代初頭のザ・ストゥージズの2025年版・進化形とでも表現したくなる紛れもなくイギー流のROCKサウンドだった。
IGGY POP live tour 2025 member
Iggy Pop - vocal
Leron Thomas - trumpet
Corey King - trombone
Nick Zinner - guitar
Ale Campos - guitar
Seamus Beaghen - keyboards
Brad Truax - bass
Urian Hackney - drums
今回のライブ・セットリストで、それを最も強く実感し象徴的だった曲は「Raw Power」だ。イントロの印象的なローコードによるギターリフが完全に1973年作の原曲を彷彿とさせるヘヴィネスとタメがあった。この曲は1972~73年当時のライブ、リハ―サル音源で聴くと既にスタジオver.よりかなりテンポを速めた疾走するビートで演奏されていたし、再結成したストゥージズでジェームズ・ウィリアムスン自身がライブで弾く場合もオリジナルよりBPMは上げていた。 今回のライブでこのリフを弾いていたのが米オルタナティヴ・バンド「ヤー・ヤー・ヤーズ」のギタリストNick Zinnerだ。ギターはツインで、サイドギターはイギー・ポップの住まいがあるマイアミをベースに活動するAle Campos。この2人が織りなすギターサウンドは完全に中低音域重視で凄まじく厚みがある。二管の特にトランペットに高音域を任せて、ギターやベースはひたすら重低音に徹しているかのようだ。背後に設置していたのはマーシャルのスタックアンプではなくフェンダーのコンボタイプ(恐らくDeluxue Reverve)が3~4つ並んでいた。写真や映像で見た限り、Nickはヤー・ヤー・ヤーズでのメインギターであるFender Japan製ストラトキャスターではなく、
ギター1つ取っても、こういったサウンドメイキングはイギー・ポップ自ら細かい指示を出していたと思っていた。2016年のアルバム「Post Pop Depression」の制作過程でイギーはジョシュ・オムに1976~77年当時「The Idiot」「Lust For Life」制作時のノート(記録)を提供し、事細かに"ベルリン・サウンド"の奥義を伝授していたことを踏まえれば容易に想像がつくではないかと。【追記】ところがNick本人に確認したところ
"いや、イギーはただ「演奏してくれ」って俺たちバンドメンバーに頼んだだけだよ。でも俺たちは皆、本物っぽく聴こえるようにすごく時間をかけて準備したんだ。"
つまり、厚く重く太いサウンドはイギーの指示ではなく、バンドメンバーが自発的に「どういうサウンドを志向すべきか?」を時間をかけて試行錯誤した結果行きついた、というのだ。これは意外な気もするし非常に興味深い証言である。更に「スタジオ録音のオリジナル」ver.に近いアレンジで演奏している点について、それがイギーの意図したものか?と尋ねたところ
"それは俺たちバンド側の意図だったと思う。だって自分がファンだったとして「どんな演奏が聴きたいか」って考えたら、やっぱり"本物"を聴きたいってなるでしょう?それがクラシックで、それこそ神がかった(godly)音楽なんだから。だから出来る限りオリジナルに忠実にやりたかったんだよ。"
これも1つ前の問いへの回答と同じで、イギーから具体的な指示はなかったという。興味深いのはNick個人というよりバンドメンバーで話し合った結果ではないかと思うが「クラシック」と彼が呼ぶ超名曲群へのリスペクトと、ファン目線でどんなアレンジが望ましいか、の両面から「オリジナルに忠実」なアレンジになった、と説明している。なるほど、この2点からわかったのは、イギーというよりバンドの意図としてオリジナルに忠実なアレンジかつ厚く重く太いサウンドを志向し、そこに二管ホーンセクションが加わることで、ストゥージズ曲を中心とした旧曲のリブートに成功している、と言えるのではないだろうか。とはいえ、イギーとバンドメンバー間のコミュニケーションの中に"指示"という形はなかったとしても、イギーによるバンドメンバーの人選そのものが、そもそも彼のサウンドメイキングの方向を示していたと思っている。ギターで言えば、2023年ツアーのSarah Lipstate、Greg FからNick Zinner、Ale Camposに変わった(ベースもドラムスも変わった)のは単にメンバーのスケジュールや都合によるものだけではなく、イギーの頭の中にあったサウンド志向が影響したことは間違いないと思う。【追記ここまで】
さて、それでは2025年のイギー・ポップがライブでどのような意図を持った選曲と音作りをしているのか、見ていきたいと思う。
まずセットリストにストゥージズの曲が多い点はラジオNIKKEIが3月に行った単独インタビューで明確に回答している。まず前提として、ストゥージズ曲の多くは「イギーが一人で作ったもの」が多く(※註:実際は2ndアルバム期の曲を指すと思うが)ソロ曲とストゥージズ曲は「イギーの中では分け隔てがない」としている。そして自身の「キャリアが終盤に差し掛かっている」なかで「最近は、"自分の曲"を演奏することに喜びを感じてるんだ」と発言している。その上で、
"ストゥージズが始めた当時、バンド同士の争いや競争っていうのは「誰が一番ライブでブチかませるか?」「誰が一番すごいか?」しかなかった。とにかく「誰が一番ライブで魅せるか」ってことしかなかったんだ。最初はレコードのことなんて考えなかった。だからこそ、俺たちは──というか俺自身はライブでとにかく強烈に響く音楽を作るようになった。その結果が、ストゥージズの音楽が今でも残ってる理由なんだと思う。(今回のセットリストにストゥージズ曲が多いのは)ただ単純に、ぶっ飛ばしたかっただけなんだよ。Kick some ass! ってやつだ。"
このように述べており、半世紀前に自身が作った「ライブ志向」の楽曲でぶっ飛んだステージパフォーマンスをしたい、というのが78才になろうというイギー・ポップの現在地なのだ。では、自己完結型の懐メロ志向なのか、というとまったくもってそうではない。
"(今回のセットリスト終盤にある)「LA Blues」って曲では、ライブ中に「Nightclubbing」を流しながら、即興的なフリークアウトとミックスして曲を"分解"していく。わざと"メチャクチャ"にして、今の時代の感覚をぶつけるんだ。 そうやって、ストゥージズの曲を今に引きずり出してる。"
これは2025年3月24日のシカゴ公演から加わった「Apocalypse」とタイトル付けされた短いインプロ・セッションパートだ。直近イギー・ポップのLIVEパフォーマンスのテーマは、まさに「ストゥージズの曲を今に引きずり出す」という彼の言葉に集約されていると思う。これには2つの側面があり、まず1つめは単なる旧曲の再演ではなく、ライブ志向で制作した曲を2025年のセンスと感覚と機材とプレイヤーで発展形としてライブパフォーマンスする、ということ。そこには50年というロングスパンだけでなく足下の1年2年という短期的にもUPDATEがなされている。そして2つめは、UPDATEしたストゥージズ曲と直近リリースした曲も並べて違和感がないことで「俺の曲には新しいも旧いもない、同じ価値観が宿っている」ことを証明したことだ。
まず1点目のUPDATEでは、やはりこのバンドの最大の特徴である二管ホーンセクションに触れないわけにはいかないだろう。JAZZトランぺッターのPan AmsterdamことLeron Thomasはイギーが毎週ホストを務めるBBC6のラジオ番組「Iggy Confidential」で曲をかけたのが縁で2019年のアルバム「Free」では大半の収録曲を作曲するに至ったイギーの重要なパートナーだ。更にNYを拠点に活動する気鋭のシンガーソングライターCorey Kingがトロンボーンを担当。音源リリースされた2023年モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブで既にイギーBAND入りしていたこの二人は、JAZZ/SOUL界隈でも尖った存在であり、イギーの審美眼はさすがである。そして私の気を引いたのは、ROCKバンドにホーンセクションが入った際にJAZZ/FUNK的なアレンジ変更で音が軽やかになる傾向が感じられない点だ。"出過ぎない"けど存在感のあるトランペット&トロンボーンという印象だ。前述の通り、今回のセットリストの大半でスタジオ録音オリジナルver.に近いアレンジ、近いテンポで演奏されている。そしてリズム隊だけでなくツインギター含め中低音部が分厚いサウンドを形成している。これはこれで、イギーとしてはストゥージズ曲に新たな化学反応が起こるのを楽しんでいるようにも見える。なお、バンド編成としてはほぼ同じ2023年モントルー・ジャズ・フェスティバルでは、テンポがもう少し速く、サウンドの厚みと重みはそれほどでもなく、ホーンは25年より前に出ているように思う。ホーンセクション2人以外は25年とは異なる人選なのでサウンドが変わるのは当然だが、23年の方がJAZZ/FUNK味が強く感じられる。
少し話は逸れるが、ストゥージズの楽曲を巡っては2010年代半ばに"リメイク"企画が浮上していた。「1973年リリース「Raw Power」に収録されなかったが当時ライブで定番だったIggy & The Stooges名義曲が素晴らしい出来ながらきっちりした収録がなされず、ブートレグの酷い音質のものが出回ってい」た状況で、スタジオで収録し直そう、という話だ。当初イギーは本心ではやりたそうながら中々首を縦に振らない状況が続き、業を煮やしたジェームズ・ウィリアムスンが何と「イギー抜き」で曲ごとにゲスト・ヴォーカルを迎えるスタイルで収録・アルバムリリースを断行したのだ。ジェームズ・ウィリアムスン名義で「Re-Licked」というタイトルで2014年10月にリリースされた。妄想を膨らませるなら、イギーはジェームズにしてやられた「ストゥージズ曲のリメイク」を、ライブパフォーマンスの形で今2025年にやっている、と捉えたくなる気持ちもある。
2点目の「UPDATEしたストゥージズ曲と直近リリースした曲を並べて」互いの相性の良さから新しさ/旧さを感じさせない、についてはイギーが単独インタビューでずばり触れている。
"俺は今のツアーで、最新アルバム『Every Loser』からも何曲か演ってるんだけど、その曲たちはすごくフレッシュな感じがあって、ストゥージズの曲と並べてもまったく引けを取らないんだ。しかもそういう曲を好きな人たちは、昔の曲と同じように新しい曲もちゃんと楽しんでくれる。でも、もし「Every Loser」アルバム全体をそのままライブでやったらそうはならないと思う。"
セットリストに入っているのはシングルカットされた「Frenzy」と「Modern Day Ripoff」の2曲だ。どちらもアップテンポでヘヴィーなギターを中心に据えた曲で、ライブでもいわゆる「アゲ曲」となっている。イギーの発言からもわかるように、自作曲の50年もの時の差を楽しんでおり、実際ストゥージズ曲と並べても、曲が始まった途端に「あ、これ最近の曲!ちょっとな」という感覚は微塵もない。
イギー・ポップはストゥージズ(Iggy & The Stooges)解散の2年後、1976年の暮れ「The Idiot」完成直後にBBCのインタビューでストゥージズのライブサウンドについて次のような趣旨の発言をしていた。
・ストゥージズのサウンドやステージのパフォーマンスは、イギー自身の"生き残るための方法"だった
・今もそうだ。イギーにとってこの"サウンド"は生きるために必要なもの
・だからそれをステージで出し切る。観客にも、そしてイギー自身にも
恐らくこのスタンスは2025年現在の「今」も変わらないだろう。
さて、ラジオNIKKEIによるイギー・ポップ単独インタビューは2025年5月5日の祝日特番「IGGY POP Invitational~完全版」でオンエアする。日本文化との出会いと認識、ストゥージズ/ソロ曲への思い、英BBCラジオ「イギー・コンフィデンシャル」のDJ裏話、音楽的好奇心の源泉、音楽産業・批評界、ファンとの関係性などについて非常にリラックスした雰囲気で行われたインタビューの完全版をぜひcheck it out!
IGGY POP LIVE setlist (2025.4.2 at TOKYO GARDEN THEATER, Tokyo Japan)
01. T.V. Eye (The Stooges)
02. Raw Power (Iggy and The Stooges)
03. I Got a Right (Iggy and The Stooges)
04. Gimme Danger (Iggy and The Stooges)
05. The Passenger
06. Lust for Life
07. Death Trip (Iggy and The Stooges)
08. Loose (The Stooges)
09. I Wanna Be Your Dog (The Stooges)
10. Search and Destroy (Iggy and The Stooges)
11. Down on the Street (The Stooges)
12. 1970 (The Stooges)
13. I'm Sick of You (Iggy and The Stooges)
14. Some Weird Sin
15. Frenzy
16. Apocalypse / Nightclubbing Mix
17. Modern Day Ripoff
18. I'm Bored
19. Real Wild Child (Wild One) (The Dee Jays cover)
<ENCORE>
20. Five Foot One

