お知らせ:

グローバルヘルス・カフェ

番組へのお便りはこちら
※音声はこちらからお聴きいただけます。

■ カフェへようこそ!

香月:お元気ですか。グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。

「グローバルヘルス」、世界の国の人々の健康を守る、そんな名前のついたカフェって、ちょっと変わってませんか?

でもここのマスターはとっても面白い人だし、お客さんも国際医療協力でいろいろな国に行っている人が多いので、私とっても気に入って通っているんです!

今日もマスターはいろいろなお話を聞かせてくれるかな。では、さっそくカフェに入ってみましょう。

■ 治療だけが「グローバルヘルス」ではない?

香月:マスターこんばんは。

マスター:ああ、よう子さん、いらっしゃい。

香月:ねぇねぇマスター、「グローバルヘルス」って、特に途上国の人の健康を守ることだと言ってたじゃないですか。このあいだ本屋さんで『世界を救う7人の日本人』という本を見つけたんだけど、この本のなかに出てくる藤田さんてお医者さん、もしかしてマスターの知り合い?

マスター:ああ、そうね。藤田さんはアフガニスタンで働いていたときの話を、たぶんその本に書いているんだよね。

香月:ということは、戦争でケガをした人を治しに行くような仕事?

マスター:必ずしも、治療したり、手術したり、注射したり、ということが仕事というわけではなくて、どちらかというとそれがどうやったらうまく動くのだろうかとか、そういうことをやるということも重要な仕事なんだよね。

香月:何か具体的にどういうことをするかということを思い浮かべるのが、ちょっと難しいかも。

マスター:そうね。藤田さんは国立国際医療研究センターの元々は産婦人科の先生なんだけど、ちょうど彼女がいるからちょっと聞いてみたらいいんじゃないかな。

■ 発展途上国では妊娠は危険なこと

香月:藤田さん、こんにちは。

藤田:こんにちは。

香月:藤田さんのことが書いてある、日経BP社から出ている『世界を救う7人の日本人』、これは池上彰さんの本ですけれども、読ませてもらいました。アフガニスタンのことで、イスラム圏で女性の出産などにかかわる仕事ってすごく大変だなぁと思ったけれど、アフガニスタンのほかにも藤田さんは行ったところはあるんですか?

藤田:そうですね。カンボジアとかタイとビルマの国境、最近はアフリカでのお仕事をしてますね。

香月:初めて行ったのは?

藤田:初めて行ったのは、カンボジアの国立母子保健センターという病院だったんですね。私は日本の産婦人科の病院で10年以上働いていて、そのときカンボジアでは女性が妊娠・出産で亡くなることが非常に多かった。特に、妊娠中に血圧が上がり高血圧になって妊娠中毒症で亡くなることが多いので、その治療法を導入するから、そのお手伝いに来てくださいと言われてカンボジアの病院に行ったんですよ。

香月:なるほど。私も出産を経験していますが、日本では妊娠とか出産で亡くなるなんて考えないですね。

藤田:日本は、本当に妊娠・出産でお母さんが亡くならなくなった国ですが、やはりカンボジアのような発展途上の国々は、まだまだ妊娠はすごく危険なことなんですね。その病院で、最初の日に病棟を回ったら、ちょうど血圧が上がって、けいれん発作を起こして目の前でバタバタしているというお母さんがいて、私はそんな光景を日本で見たことなかったのね。

香月:お医者さんなのに見たことなかったのですか?

藤田:日本だとそういう状況になる前に予防する。そういうことが進んでいるけれど、それが進んでない。だから、「カンボジアで予防・治療の方法を導入してください」と言われて、薬があるので、それを時間おきに打てばいいのかなと思いました。

■ カンボジアの病院の状況

香月:妊娠中毒症を治すには薬を時間おきに打てばいい?

藤田:薬を使う方法があるのね。それをやればいいのだろうと思って行ってみたら、お医者さんが病棟にいない。なんでだろうと思うと、お給料が安くて病院で働いているだけでは生活ができないわけですよ。病院にいる時間以外に、自分でアルバイトをしないと食べていけない。そんな状況で、薬を時間おきに使うというのは難しいし、薬がそこに常にあるとも限らない、薬が必要なときにあるということも実は難しいことだったのね。そういうなかで治療法をお手伝いしてくださいと言われると、結局、病院の運営管理を一緒にやっていかなければいけない。それで病院の院長先生たちと一緒に仕事をしていたのです。印象的だったことは、最初のうちは「これ、どうすればいいんですか?」「あなたはどう思いますか?」と聞かれたことです。日本からやって来た私たちのことを、自分たちがわからないことに対して答えを教えてくれる人だと思っていたようです。

■ カンボジアの人たちが自ら考えて答えを見つけていく

香月:なるほど。手伝いに来たというよりも、指示をしに来てくれた人みたいな感じ。ノウハウもよく知っているし、日本の先生だからということで聞かれることが多かった。

藤田:そうですね。だけど、実際に現場で見ると、日本だと当たり前にある、水や電気や薬、それからスタッフだとか、あって当たり前の物がないわけですよね。その資源の無いなかでどんなふうにやっていけばいいかというのは、実は彼らのほうがよくわかっている。だから、我々は「ああしなさい、こうしなさい」じゃなくて、「じゃあ、どうすればいいと思う?」というような聞き方をしながら徐々に仕事をしていったのですね。最初のうちは何か問題があると、「あなたどう思う?」「どうすればいい?」「教えてください」ということだったけれど、徐々に自分たちで考えていくようになると、「こうすればいいと思うんだけど、どう思うかなぁ?」というようなことを言うようになってきたんですね。"Do you agree with my idea?"と言われたんですよね。

香月:なるほど。もう一度お願いします。

藤田:"Do you agree with my idea?"

香月:その意味は?

藤田:「自分はこう思う、こういうふうにしたい。だけど、本当にあなたはそれで僕の意見に賛成してくれますか?」ということですね。私たちは先進国で知っていることを教えに行くのではなくて、そこの状況に合ったもの、その現場で使えるものを一緒に探していくというか、一緒に見つけていく、一緒に考えていくということになるのだと思います。

香月:なるほどね。まさにこれは人を育てていくということなんですね。

藤田:そうですね。

■ ジャコウネコの腸で発酵したコーヒー

香月:ところでマスター、今日のコーヒーは何ですか?

マスター:これはね、フィリピンのコーヒーでけっこう珍しいやつですよ。

香月:どういうものなの?

マスター:ワイルドキャット、ジャコウネコの一種と言われているんだけど、猫が食べたコーヒー、それが糞に出てきますよね。腸の中でいろいろな細菌が付いてコーヒー豆がちょっと発酵する。そうした豆を集めてコーヒーにしているんですよね。

香月:えー、それはちょっと珍しいですけれども、飲んでみましょう。

マスター:けっこう甘みというか、マイルドな感じで、なおかつ濃い感じ?

香月:本当!そして、香りがすごく立って、コーヒーの香りが立ってますよね、おいしい。

マスター:なかなか高いですよ、このコーヒーは。

香月:マスター、ありがとうございます。

マスター:たまにはサービスしないとね。

■ 共に考えることも「グローバルヘルス」

香月:藤田さんは、女性や子供の健康を守るために、様々な活動をしてきた産婦人科の先生なんですね。マスター、こうやって考えると、藤田さんは産婦人科の先生とはいえ、やはりお医者さんをしに行くというわけではないですね。

マスター:さっきも言ったけれど、「グローバルヘルス」って、どうやってその国が動いたらいいんだろう、あるいはどうやって動けるんだろう、みたいなことを一緒に考える。特にこれは日本の特徴ですが、一緒に考えて、一緒に悩んで、一緒に解決法を見つける、みたいなことをやっている。

香月:なるほど。そうやって、その国の人たちを、人材をつくってきているということなんですね。

マスター:そうですね。

■ 女性への教育が健康の基盤となる

香月:藤田さん、心に残っている言葉があるそうですが。

藤田:アフガニスタンでの話です。ご存じかもしれませんが、アフガニスタンは20年近くずっと戦争をしていて、2002年に国際社会の人たちが一緒にお手伝いして助けましょうということになって、タリバンの時代から変わってきたのです。最初に日本の厚生労働省に当たるようなところの人たちと話をしていたときに、「私たちは外国の人たちがやって来て、『これをしなさい、これがいいからこれを使いなさい』というような材料を使って、いわゆるプレハブの家を建てるつもりはないんです。土台のしっかりした家を建てたいので、ぜひ一緒に建てるのを手伝ってほしい」というようなことを言われて、この人たちと一緒に仕事をするのは本当にやりがいがあるんだなと思いましたね。

香月:なるほど。実際に行ってみて、藤田さんの考える土台のあるしっかりした家というのはどういうものだと思いますか?

藤田:アフガニスタンというのは、タリバンの時代に女性が学校にも行けない、外にも出られないというような時代が5年間続いたんですよね。そうすると、女性が中学校、高校に行くことができない。やはり女性の健康の状況が非常に悪かったのだけれども、女性自身が自分たちの健康のことを考えられるようになるということが必要ですね。そのためには女性たちがまず学校に行って教育を受けて、そうすれば家族のことも考えられるし、自分たちの健康のことも考えられるようになるという、やはり教育が基本だと思うのですね。アフガニスタンはイスラム教の影響が強いので、病院に行くのにも男性の付き添いがないと女性は行けない。女性は具合が悪くなっても自分で具合が悪いとは言えず、女性の医療スタッフが非常に少ないという状況です。そこで、看護師、助産師の学校を全国に建てましょう、それを国際社会の人たちが支援をしましょうということが始まったのです。そして学校の建物は建った。そこで実際に教育をしましょうと始まって、学校に行ってみると、その学校に入学できるような女性がいなかった。たとえば日本であれば、看護師さん、助産師さんというのは高校を卒業して入学しますよね。その地域には、高校を卒業する女性がいなかったんですよ。

香月:建てたはいいけど、入る人がいない、なるほど。ということは、本当に、小学校、中学校、高校のちゃんとした教育も必要で、ただ建物を建てる、それだけだとさっきのプレハブという状態になってしまう。

藤田:実際に土台を動かしていくのは人ですし、その人が自分たちで考えられるような、そのために必要なのは基礎教育です。特に女性の健康を考えるときには、女性の教育は非常に重要だと思います。

■ 詳しい情報はNCGMのサイトで!

香月:同じ女性として特に感じられたことはどういうことですか?

藤田:そうですね。アフガニスタンの厚生労働省の大臣は女性でしたし、私もアフガニスタンに6年くらいいたのですが、実際に仕事をした相手の女性の人たちは非常に優秀で、何とかこの国の状況を変えていきたいと思ってやっていたので、こういう人たちと一緒に仕事ができたことは本当に幸せだったと思いますね。

香月:とても興味深いお話ですね。もっと詳しく知りたいときは?

藤田:そうですね。国立国際医療研究センターのホームページがあるので、そこをご覧いただくといろいろな情報が出ていますので、ぜひ見てください。

香月:ぜひチェックしたいと思います。

香月:ねえマスター、今日もいろいろなお話を聞くことができてすごく楽しかったです。

マスター:よかったです。

香月:グローバルヘルス・カフェ、いかがでしたでしょうか? 今回は、国づくりは人づくりと題して、開発途上国、特に紛争後の国家をテーマに国立国際医療研究センターの藤田則子さんからお話をうかがいました。お相手は香月よう子でした。それでは、またお会いしましょう。

お知らせ

お知らせ一覧