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グローバルヘルス・カフェ

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聴く「第8回「お母さんの声が聴きたい」(2014年7月18日放送分)」


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)
小山内:小山内 泰代(国立国際医療研究センター/助産師)

■ オープニング

ヨーコ:お元気ですか? グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。国際医療協力にかかわる人たちが通うグローバルヘルス・カフェ、ここのマスターはとっても面白いので気に入って通っているんです。
今日はどんなお客さんと会えるのかな、ね、マスター。
マスター:うん、そうだね。


■ 助産師は"黒子"

小山内こんにちは。

マスター:いらっしゃい、小山内さん。ヨーコさんは初対面だっけ?

ヨーコ:はい。

マスター:小山内さんは助産師さんで国際協力をやっているんだ。

ヨーコ:助産師さんで国際医療協力? へえ。まずだいたい助産師さんってどんなお仕事でしたっけ?

小山内:たぶんヨーコさんは、助産師さんはお産を取り上げるだけって思っていませんか?

ヨーコ:たしかに赤ちゃんが産まれるときに何かいたような気がするようなしないような。

小山内:助産師はお産を取り上げるだけではなくて、妊娠中から産後まで、そして赤ちゃんのお世話までずっと続けてサポートするお仕事です。

ヨーコ:何カ月検診とか、何週とか、検診とかもするんですか?

小山内:そうです。もちろん赤ちゃんがおっぱい吸っていますよね。だから助産師は継続的にお母さんを診て、そして特にお産をするって助産師がするわけでなくて、お母さん自身がお産をしますよね。だから、お母さんが自分の力で産むことができるように、お母さんに寄り添って黒子になって支えるお仕事をしているんです。

ヨーコ:なるほど、黒子だったからあまり気が付いてなかったのかなあ。

小山内:そうですね。

■ マダガスカルの助産師

ヨーコ:そんな気がしますが、日本と国際協力をするような海外とでは助産師さんの役割はやはり一緒なんですか?

小山内:たとえば私が行ったマダガスカルでは、基本的に妊娠中から産後までやることは同じだし、むしろマダガスカルの助産師さんのほうが異常な産婦さんを診ているんですけれども、
一番大きな違いはやはり日本の助産師さんってお母さんにずっと寄り添って、お母さんが産めるようにサポートして、もちろんその経過で異常があればそれをすぐにお医者さんにサポートを求めたりとか、そういうことができるんですけれども、
私のいたマダガスカルとかでは、助産師さんはお母さんの側に寄り添っているということがほとんどなくて、お母さんが「産まれる」というその瞬間だけ登場するというのが、まさにマダガスカルの助産師さん...。

ヨーコ:産まれるときに、産まれてくればOKみたいな感じではあるんですか。

小山内:そうですね。だから、痛いときにずっと寄り添って背中をさすったりとか、そういうことをするようなことはまったくなかったですね。

ヨーコ:「寄り添う」という言葉をさっきから小山内さんすごい使っていて、キーワードなのかなという気がするんですけれども、背中をさするというほかに、具体的には「寄り添う」というのはどういったことなんでしょうか。

小山内:そうですね。その人その人、全然お産に対する希望というのが違うし、自分が「こんなお産をしたい」というのが全然違うので、その人たちの思いを受け止めて、そしてその人らしいお産ができるようにサポートして支援をするということで、
もちろん背中をさすって手を出すこともそうですけれど、励ましたりとか、お母さんの希望を聞いてその場をセッティングしていくという仕事もしていますね。

ヨーコ:そういう寄り添っていくなかで、やはり異常が見つかっていくということもあるわけですよね。

小山内:そうですね。もちろんそれがとっても重要な仕事で、やはり何もしてなかったら何も発見できないですね。
だからお母さんに関心を向けて、気持ちを向けて、そこがすごく大事で、そこのところがマダガスカルの助産師さんにはほとんどなかったというのが...。

ヨーコ:そうすると、けっこう危険なこともあるわけですよね。

小山内:本当に危険なことというのがあって、マダガスカルのお母さんたちというのは、日本のお母さんの何十倍ものたくさんの妊産婦死亡というのがあるんですね。だから本当に診てないと、本当に死んでしまうというケース、本当にありました。

ヨーコ:そうすると、心に寄り添うだけでなくて、重大な事故につながるということも考えながら、そこの部分、寄り添うということをマダガスカルに伝えていくというお仕事をされてきたわけですね。
小山内:そうですね。

■ 出産したお母さんの声を聴く


ヨーコ:そういう状況のなかで、小山内さんはどのように出産のケアというのでしょうか、そういったものをマダガスカルで改善していったのでしょうか?

小山内:そうですね、ケアを改善する、ケアは何のためにあるか、やっぱりお母さんのためだったりするわけですね。なので、一番初めに本当にお母さんの声を聴いてみたいというふうに思ったんですね。

ヨーコ:それは出産をしたお母さんの声ということですか?

小山内:はい、出産を終えてそのお母さん自身がどんなケアを受けて、そのときどういうふうに思ったのか、そこのお母さんの気持ちを私たちが受け止めてそれをケアの改善に活かしていこうというふうに思っていました。

ヨーコ:それは具体的にはアンケートを取るとか、そういった形ですか。

小山内:そうですね、実際にマダガスカル人のインタビュアーの子たちがお母さんのお家まで行って、やっぱりお産のことってすごくプライベートなことなので、もうマダガスカル語で気さくにしゃべれるように、1時間くらいかけてマダガスカルの子たちがお母さんの体験をずっと聴いてくれたんですね。

ヨーコ:それはだいたい何人くらいに聞いて、どんな意見というか声が、お母さんたちの声が出てきましたか?

小山内:今回、20人くらいのお母さんに聴いたんですけれど、本当にインタビューの結果を持ってきて、それを英語に訳してもらうんですけれど、もうそれを聞くだけで本当に涙がぼろぼろ流れてきちゃうような話とか。

ヨーコ:小山内さんが泣いてしまうという?

小山内:そうなんです。私が泣いてしまうような、本当につらい体験をしているお母さんたちもたくさん、そのほかもちろんすごくいいケアも受けたというお母さんたちも、もちろんたくさんいたんですけれども、やっぱりつらい経験をしたというお母さんたちの言葉に耳を傾けてみました。

ヨーコ:たとえば、どんな声があったでしょうか。

小山内:そうですね、たとえばですね、「その病院に行くと、私のことは全然ウエルカムしてもらえなかった」とか。

ヨーコ:入った瞬間から何かちょっと雰囲気が。

小山内:そうですね、私のことを受け入れられていないというようなことを感じ取ってしまったのでしょうね。

ヨーコ:それから、どんな声がありましたか。

小山内:それから、お産、陣痛、痛いですよね。そのときにも、「全然私のことなんて頭になかったようだった」とか、「話もしてくれなかった」「見向きもしてくれなかった」「全然私に関心を寄せてない」「本当に自分はこのまま死んでしまうのではないだろうかというふうに泣きたかった」とか、そんな声が意外とたくさんあって本当にそのストーリーを聴いているだけで涙が出てきました。

ヨーコ:本来、出産って女性にとって幸せなイベントというか、幸せな場面であるはずなのに、というのはすごく同じ女性としてつらいですよね。

小山内:本当にそのときは幸せに迎えられることじゃなきゃいけないわけですよね。

■ "お母さんの声"は後回しにされていた

ヨーコ:そのインタビューを受けて小山内さんはどんなことをなさったんでしょうか?

小山内:そうですね。それは本当に私の心のなかに留めておくだけじゃなくて、これをぜひ一緒に働いている病院のお医者さんや助産師さん、それからそこの地域の県の保健局のスタッフの方たち、総勢20名くらいですかね、
その人たちとぜひこの声をシェアしようということで、その方たちを呼んで、まずこの声をシェアしました。

ヨーコ:こういうみなさん方が集まるというのは、割とふつうの定例会のようなものなんですか?

小山内:これが本当に初めてのことだったと思います。
みなさん、いろいろ忙しく仕事をしていて、やっぱり妊産婦さんが健康になるための対策ってたくさんあるんですね。病院を整備しなければいけないことだったり、予防接種をしていかなければいけなかったり、たくさんのお仕事があって忙しいことなんですけれど、でもやっぱりこれは本当に大事なことだということで、みなさんを呼んで、みなさんが来てくれました。

ヨーコ:このインタビューを見て、集まった方たちはどういう反応があったのでしょうか。

小山内:そうですね、私にとってはちょっと意外だったのですが、みなさんこれを見て「知っている」「これはわかっている」というふうに言ったんですね。

ヨーコ:「わかっている」とは?

小山内:この声の全員分をみんなに読んでもらったのですけれども、やはりこれって日常のことなんですよね、やっぱり。
特別のことではなくて、本当はみんな知っている事実だったんだけれど、そういった事実にいままではふたをして、ずっとやってきたというふうに、ある保健局の方がおっしゃって、やはりいままでふたをされてしまったところ、それをいま開いて、「やっぱり、そこ、やんなきゃいけないんだね」というところで、やっとそのお母さんの聞かれていなかった声というのに注目を集めてきたというところですね。

ヨーコ:知っていたけれども、やっぱり忙しさとか、ほかのやることたくさん、環境整備とかいろんなことでちょっと置き去りにしていたなというのが一気に出てきたという感じですね。

小山内:そうですね。優先順位が高くないお仕事だったというふうに位置付けられていたのかもしれないですね。

ヨーコ:それがけっこう優先順位が高くなったというか、これを見ることによって、という感じだったのでしょうか。

小山内:やはり、何を目指すかというところがすごく大事だと思うんですよね。やることは同じであっても、目指すことを共有して、自分たちは何のためにやらなければいけないのかというところが共有されたのではないかなというふうに思います。

ヨーコ:そこからどんなふうに集まった方たちというのはどんな行動というか、どんなことをなさっていったのでしょうか?

小山内:そうですね。私はマダガスカルには1年ちょっとしかいなかったのですが、その間に、その声をみんなで聞いて、じゃあ自分たちはこういうことができるんじゃないかっていうところまで分析をして、こういうことをしようというところまで、私がいたときにはやってきました。

■ 「人間的な出産ケア」を言語化する

ヨーコ:難しかった点というのはありますか?

小山内:やっぱりですね、はじめどういうことをしていこうかというときに、共通の概念をみんなで共有していくというのは本当に難しくて、やはりそれぞれがいろいろなやりたいことというのはあるんですけれど、
たとえばこの場合だと、人間的な出産ケアをしていきたいという声が上がってきました。
それは、そのマダガスカルの病院の産科の部長さんが実は日本に来て、その産科の部長さん自身がその人間的な出産ケアというのをやってみたいというような思いがあったんですね。

ヨーコ:日本でやっていることが、人間的な出産ケアだなということに、その産科の部長さんは気付かれて、それでやってみたいなという。

小山内:はい。

ヨーコ:小山内さん、でも人間的な出産ケアって難しくないですか?

小山内:難しかったところはそこなんですね。やっぱり、人間的な出産ケアって何なの? っていうところですね。やっぱり、それは一言では言い表せないことで、その産科の部長さんは自分で、実は日本にいるときに彼自身が入院されたんですね。

ヨーコ:なるほど。

小山内:そのときに自分が受けたケア、それが非常に「ケア、これだ」というような感覚を持った。その前に彼はマダガスカルの妊産婦死亡を下げたい一心で、帝王切開を寝ないで、朝も晩も呼ばれればずっとやっていた。でも、帝王切開をやってもやっても妊産婦死亡が下がらない、どうしたらいいんだという気持ちで日本に来て、
そして何と入院されてそこで受けたケア、それでご自身でも「これだ」という気持ちがあって、それをマダガスカルに持ち帰って、そこからみんなで、じゃあ、人間的な出産ケアって何だっていうのを言語化していく作業、それがすごく難しくて、それに非常に時間をかけてマダガスカルの方たちは取り組んでいました。

ヨーコ:なるほど。これ、結局、言語化という作業は、お帰りになるまでにかなったんでしょうか?

小山内:そうですね。なかなかやっぱり難しかったと思うんですね。マダガスカルの方たちもはじめはいろいろ言葉よりもロールプレイをして、それを住民の人に見せて、いいケアってこういうこと、いままでしていた悪いケアってこういうことだよね、みたいなのをロールプレイをしながら自分たちのなかでも言語化に近付けていって、
そしてそれが最後に、2年後ですかね、プロジェクトが終わったときにですね、私はまたそのプロジェクトに呼ばれてマダガスカルの方から言葉をもらいました。

■ 「女性の気持ちを感じる」ことに気付く

ヨーコ:素晴らしいその言葉がいまここにも、現地の言葉というよりフランス語で書かれているんですか。

小山内:そうなんですよ。「スワンヒューマニゼ(Soins humanises)」というフランス語の言葉に合わせて、言葉を考えてくれたんですけれども、
たとえば日本語にすると、「彼女たちは女性の気持ちを感じ取って、彼女たちの感じていることを理解する、そしてそれをケアに活かしていく、彼女たちの苦痛、持っている苦痛に応えていく」とかそういった言葉、最後には本当に出産のときって恐怖とか不安、自分が死んじゃうじゃないか、赤ちゃんは大丈夫だろうかと本当に不安がたくさんあるんですけれども、
恐怖とか不安をなくして温かくお母さんたちが安心できるようなケアを提供していくということを最後に言語化してくれました。

ヨーコ:これ、何項目くらいあるのですか、15項目くらいかな、10項目くらいにわたる言語化したものを渡された小山内さんですが、これをもらって、人間的な出産ケアって彼らが考えたものですよね。それを見せてもらったとき、どういうふうに思いましたか?

小山内:本当に、私たちがやっていこうとしたことが共有された、本当にうれしい気持ちでいっぱいで、本当にまた違う意味で涙があふれてきました。

ヨーコ:この項目のなかで小山内さんが一番「これが入っているんだ」と思ったものはどれですか?

小山内:やっぱりですね、「女性の気持ちを感じる」という一番初めにあったところですね。やはりそれは女性一人一人に関心を向けるということが一番大事なんだということで、
それに関しては、言葉だけでなくて実際に分娩室で働いている師長さんが「以前は、お腹が痛がっているお母さんがいてもまったく気にならず前を通り過ぎていたけれど、いまではお母さんが『痛い、痛い』と言っていると、本当に側に行かずにはいられない」というようなことを言ってくれて、本当にそういう気持ちをシェアしてくださったこと、本当にうれしく感じました。
いただいた言葉もそうですけれど、本当に実際に現場が変わってきているんだということに感動しました。

ヨーコ:こういったことが言語化できたとか、成功したという、成功したポイントはいま振り返ったらどこだと思いますか?

小山内:そうですね。ほんと、要所要所であったと思うんですけれど、やっぱりマダガスカルの人自身が、自分たちが変えていきたいと思ったこととか、自分たちのなかの気付きがあったことというのがすごく大きいと思いますし、
やっぱりマダガスカルのお医者さんも助産師さんも、元々フランス語で教育を受けていて、ある程度いろいろな概念を持っている人たちだったので、いろいろなことが共有されていって、それが具体的に言語化されていくことにつながったのかなというふうに思っています。

ヨーコ:そういう気付きを引き出してあげるという役目が小山内さんだったんですね。

小山内:そうですね。

■ 助産師の仕事と国際協力の共通点

 

ヨーコ:ねえマスター、助産師さんって、お産のときに急に出てくるというイメージしか私なかったんですよ。

マスター:そうだね。

ヨーコ:でも、ずっとお母さんに寄り添って、お母さんの産む力を引き出すためにサポートしているんですね。

マスター:そうですね。お母さんの力を引き出すというのは、助産師さんのあり方はけっこう相手の力をやっぱり引き出すという国際協力のあり方、あるいはそういう取り組み方に似ているのかなと思って聞いていました。

ヨーコ:なるほどね。マスター、たとえばどういうところを引き出す力、国際医療協力と似ていると思われました?

マスター:たとえば、国際協力、考えがちなのは相手の人に何かをやってあげる、そのときに何ていうかな、たとえば物をあげる、あるいはこちらがすべてやってあげちゃうということが一見、協力みたいに見えますけども、そうするとその支援者がいなくなったら終わりですよね。
でも本来、そこの人たちが持っている力、それをいかに何ていうかな、伸ばしてあげる、それは国際協力をやっている人もたぶん黒子だと思うんですよ。
だからそういう意味で、お母さんが持っている力と同じようにそこの人たちが持っている力をいかに自分たちでできるように、あるいはよりよくできるように、というような働きかけをするという意味で似ているのかなと思いました。

ヨーコ:なるほど。何かばーんと物をあげに行ったりとか、そのほうが自分も何かヒーロー感があってすごく楽しいけれども、時間はかかるけれど、黒子ということは非常に大事。

マスター:大事なんじゃないかと思いますけどね。

 

ヨーコ:なるほどね。グローバルヘルス・カフェはホームページもあります。ぜひチェックしてくださいね。

グローバルヘルス・カフェ。今回は「お母さんの声が聴きたい」をテーマに、国立国際医療研究センターの小山内さんからお話をうかがいました。それでは、またお会いしましょう。

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