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「第11回「安全血液」(2015年2月17日放送分)」
<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)
宮本:宮本 英樹(国立国際医療研究センター/医師)
■ オープニング
ヨーコ:お元気ですか? グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。国際医療協力にかかわる人たちが通うカフェってちょっと変わっていませんか? ここのマスターはとっても面白いので、私、気に入って通っています。それでは、さっそくカフェに入ってみましょう。
■ 意外と知られていない「献血」の重要性
ヨーコ:こんにちは、マスター。
マスター:ああ、ヨーコさん、いらっしゃい。
ヨーコ:あれ、マスター、どうしたの腕、血液検査?
マスター:いやいや違う。これ献血してきたんだ。
ヨーコ:ふーん。
マスター:ヨーコさん、献血したことある?
ヨーコ:はい、私は何回かやったことあるんだけど、いまってなんかあんまり輸血しないんじゃないかな?って思ってしまって、実際、私が献血した血って役に立ってるんですか?
マスター:いやあ、それは役に立ってますよ。
たとえば、大出血をしているときの緊急手術でどうするかというと、とにかく出血しているところをまず手で止めるんです。「血はまだか?」と言いながら手術するわけです。
それで、そこに血液が届いて初めて、看護師さんに「とにかく早く入れてくれ」と、「血液を搾りながらでも入れてくれ」と、そういうことが起こる。それくらい輸血というのは大事なんです。
ヨーコ:すごく重要なものなんですね。血液というのは、ふつうにいつも病院にあるものではないんですか。
マスター:そうですね、日本の場合、たとえば献血車というのが街に出てたりしますけれども、献血車で集められた血液は日本赤十字社の血液センターに送られて、そこで検査をした後、病院の求めに応じて病院に送るわけです。
ヨーコ:そういう仕組みになっていたんですね。
マスター:そう。
■ ミャンマーで「血液」の仕事に携わってきた宮本さん
マスター:ところが国によってはそういうことが 全然できないという国があるわけです。
ヨーコ:日本はいいけれども、他の国はできない国もある。
マスター:そうそう、たとえばあそこに座ってる宮本さんは、ミャンマーで血液センターとかその検査にかかわる人たちと一緒に仕事をしてきた人なんでぜひ紹介します。
宮本:ミンガラバー、宮本です。こんにちは、みなさん。
ヨーコ:いまの言葉は何ですか?
宮本:ミャンマーで使うあいさつの言葉ですね。よく使います、ミンガラバー。
■ ミャンマーの人は積極的に献血してくれるけど......
ヨーコ:宮本さん、ミャンマーに行ったのはいつですか?
宮本:私がミャンマーで仕事を始めたのはだいたい2004年から2005年くらいの頃なんですけど、当時はミャンマーはバリバリの軍事政権下でして、なかなか状況は厳しかったですね。
行ってる最中もたとえば、私がよく行くスーパーマーケットだと爆弾騒ぎで爆破されたりとか、そういうときにはさっき言ってた血液センターなんかにたくさんの人が運ばれてみんなが輸血を本当に必要としてました。
幸いなことに、ミャンマーの人というのは非常に熱心な仏教徒の人が多いので、他人のために献血をするということが非常に一般的です。
ヨーコ:なるほど、お互いに助け合うということがすごくできるということは、その善意があればそんなに難しい問題はないんじゃないかななんていう気がしちゃうんですけれども、課題っていうのもあるんですか。
宮本:そうですね、1つは当時、非常に医療スタッフの給料なんかも安くて設備も悪いし、病院が非常に疲弊している。血液センターもやっぱり状態は悪かったですね。
だけど、その、すごいなと思ったのは、たとえば自分の部下の生活が成り立たないくらい給料が安かったりとかするようなときでも、上司の、たとえばドクターたちが自分の身銭を切って部下たちの給料まで助けたりしてみんなを鼓舞して土曜も日曜も、たとえばお寺とか学校とかいろんなところで血液を集めて患者さんのためにいつでも使えるようにがんばってましたね。私は、すごく彼らの働き方には、芯が通った誠実さみたいなものを感じました。
一方で、献血する人がたくさんいるんですけども、もう1つ問題としてあるのはやっぱり感染症の問題なんですね。輸血を通して他人に悪い病気をうつしてしまう。具体的にはエイズだとか肝炎とか、やはり日本よりそういう開発途上国はそういう病気が多いですので、だから献血はするんだけど、他人のためにと思って献血するけど、やっぱりちゃんと感染症の部分がクリアされてないと他人のためにならずに、かえって他人に害を与えてしまうということがありますね。
だから、そういう感染していない血液を確保するための検査の態勢というのはものすごく重要ですね。
■ 血液が安心・安全に届けられる二重チェックの仕組み
ヨーコ:先ほどマスターが言った、血液が安心に届けられるということもそうなんですけど、安全な血液だということもとっても重要ということですよね。
宮本:そうですね。もともとさっき言ったように、地域の人たちが献血したいという人はたくさんけっこういるんですけど、なかにはやっぱり自分が感染しているか感染していないかわからないですよね。
だから過去に献血に来てくれて感染してない人、エイズとか肝炎には感染してませんという人を登録して献血者のプール、グループをどんどんつくっていく、そのためにいろいろな登録制度を活用するということですね。
あとは、そうやって感染してない人を集めた後、今度はその人たちから取った血液を正しく検査できるようにいろんな研修とかあるいは正しく検査ができてるかどうかを監督するようなことをミャンマーの人たちとやってました。
ヨーコ:まずその感染してない人を探すというのでしょうか、選ぶというのでしょうか、そういったことと、それからその後集めた血を検査する、二重のチェックということになるわけですね。
宮本:そうですね。検査が百パーセント正しいわけではないので、なるべく患者さんに届く血液を感染してない安全な血液にするために二重にチェックすることで、かなり感染のない血液を選ぶことができます
■ 地域の実情に合わせた献血者情報の登録方法
ヨーコ:具体的にはどんなことをするんでしょうか?
宮本:たとえば大きな病院で電気が安定して来ているような町ですと、非常に献血者もたくさん来るので、そういうところはコンピューターを入れて簡単なプログラムで献血者のいろんな情報が管理、登録できるような形にしました。
ただ実際、地方の小さな小さな町とか村にあるような病院とか診療所では電気が来てないことがほとんどなので、そういうところはもちろんコンピューターが使えないですから、そういうところは紙ベースで地域の献血者を登録していくような形でやりましたね。
■ 検査精度を上げるためのシステム
ヨーコ:そして、次に検査のシステムのほうなんですが。
宮本:ヤンゴンという大きな町に大きな検査施設があるんですけども、各地方にも小さな検査施設があるんですけど、このヤンゴンの大きな検査施設が地方の小さな検査施設を監督、指導するような仕組みをミャンマーの人たちと一緒にやってきました。
具体的には、実はヤンゴンから郵送で小さな血液を5つくらい送るんです。各地方の1つ1つの病院に送るんですけれど、受け取った地方病院の人はどれが陽性か陰性かわからないから目の前で、自分の仕事場でやるんですけれど、その結果を郵送でまたヤンゴンの大きな検査室に送ると。
それで結局、最後にあなたは何点取れました、正しく検査ができましたというのを出すんですけど、そこで正しく検査できてないところには直接その後行って指導したり、なんでそういうことができていないのかとか話し合ったり、そこで得られたことを次のいろんなトレーニングに活かしたりとか、そういうこともミャンマーの人たちは熱心にやってました。
ヨーコ:どうして間違えることがあるんですかね。
宮本:検査自体は実はある程度簡単なんですけど、やっぱりほかの検査とか仕事で忙しくしてて、たとえばだいたい何分たったら見なさいというのをそのままほったらかしにしていて、検査結果間違ったり、逆に忙しいからささっと早い時間で検査結果を見ようとしたりとか、あるいはその献体量を、血液を正しい量、入れてるか入れてないかとか、そういうちょっとしたことでも間違うこととか、あいまいな結果になることがありますね。
ヨーコ:中央ではどうして間違うことがあるんだろうと思っても、実際に行ってみるとその実情がわかるということですね。
宮本:そうですね。
■ 地方で活用される"walking blood bank"とは
ヨーコ:ミャンマーというのは小さな、先ほどの小さな村まで血液が届かないとか、そういったこともあったんじゃないかなと思うんですが。
宮本:そうですね。地方の病院とか地方の小さい診療所クラスになると、そういうところでも突然けがをする人とか、妊婦さんが突然出血して命が危なくなるとか、そういうことがあるので、どうしてもとっさのときに輸血が必要ということになるんですけども、そういうときは中央から血液が来るとか、そういうのは道路とか通信が発達してないとできませんから、ミャンマーはむしろ自分たち地方の小さい病院とかで周辺の住民と協力しながら献血してもらったり、それをその場で必要なときに患者さんに使ったりとかいう仕組みをやってました。
そのほうが実際にミャンマーの地方の実情には合ってると思うし、実際、病院の周りの住民の人たちも率先して一生懸命献血をしてましたね。
ヨーコ:そのときにも過去の献血歴とかそういった記録が残ってることがすごく重要ですよね。
宮本:そうですね。こういう型の血液が必要というときに、過去の記録とか登録されているから、どこどこの誰々さんを呼んで、この人だったら感染している可能性が少ないから、この人の血液を使いましょうということで、なるべく早く血を集めてその場で使えるというような態勢ができてますね。
ヨーコ:なんか献血の人材バンクみたいな感じですね。
宮本:そうですね。僕たちはそれを「walking blood bank」と呼んでました。
血を採った後、電気がないところでは冷蔵庫がないから保存ができないんですけれど、特に地方は電気がなかったら保存できないんですけれど、そこらへんを歩いている人がいわゆるblood bankになると、walking blood bankという言葉をよくミャンマーで使ってました。
ヨーコ:「歩く血液銀行」ということですね。
■ 献血する人と輸血される人を結ぶ仕組みが重要
ヨーコ:ねえマスター、日本の献血の仕組みってすごく大事だし、いいなあって今回の話聴いて思ってしまったんですけれども。
マスター:そうですね。薬っていうのは工場でできるけど、結局、血液というのは人の中でしかできない。人の中でしかできないその血液を他の人につなぐわけですよね。
だから、そこにみんなの善意、善意で成り立っているんだけど、そのことは非常に大事なんですが、そのことだけじゃなくてそれを実際に他の人につなぐという何かの仕組み、あるいはシステムが非常に大事なんじゃないかなと思いますけどね。
ヨーコ:日本で献血するときって、最初にふつうにアンケートみたいなものを取ると思っていたんですけれど、あれも実はすごく人を選ぶ、安全な血液を選ぶ大事なものだったんですね。
マスター:そうですね。ほんとに大事だね。
ヨーコ:いかがでしたか? 今回は「安全血液」をテーマに、国立国際医療研究センターの宮本英樹さんからお話をうかがいました。それではまた来月、第3火曜日午後5時10分にお会いしましょう。お相手は香月よう子でした。