「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.696~長谷川きよし「アコンテッシ」】
このコラムでも再三書いているのだが、今は自身の終活作業真っ盛り。その中でも何より大変なのはやはり膨大にあるCDやアナログ盤の整理作業。追分の山荘の方にあるCDとアナログ(全部で3千枚以上)は人にあげたり廃棄したり...と、青色吐息でどうやらこの夏の間に処分もほぼ終了。今は国立の家の方のアルバム群だが、これがあまり順調には進まない。と言うのも気になったアルバムなどは、さんざん考えながら結局どうしても処分出来なかったりする。しかしまあ遅々ながらもこの秋には作業完遂...と、今一つの目標を掲げてはいる。子供達はこのアルバム群によって、これ迄迷惑を掛けられっぱなし...と言った被害者意識も強く、早くしろ・しろ...と煩いことこの上なし。こちらも弱みがあるだけに、なるべく早く作業終了...とは思っているのだが...。
さてこの整理作業は中々に大変なのだが、つまらないことだけでなく結構新たな発見などもあり、それなりに愉しみな面もある。その愉しさ...、それは全く忘れていたCDが、アルバムの膨大な山の中からひょっこりと見つかったりした時である。先日も長谷川きよしのCDが埋もれているのを発見、久々にターンテーブルに載せ聴いてみると、これがやはり期待通り...、いやそれ以上の素晴らしい内容なのである。一時はそれなりに人気のあったこの盲目のシンガー(&ソングライター)の存在、今の若い人はほとんど知らないのでは...。もしかしたら彼のデビュー曲にして最大のヒットでもある「別れのサンバ」。これなどは今でも少しは知られているかもしれないが、まあその存在自身にスポットが当たる...などと言うことはまず考えられない。
盲目のシンガーと言うとレイ・チャールス、スティービー・ワンダー、ホセ・フェリシアーノ、そしてジャズ界ではダイアン・シュアーと言った辺りだろうが、日本を代表する人と言ったらやはり長谷川きよしと言うことで、かなり貴重な存在なのである。彼が大きな注目を集めてのは1980年代~90年代にかけてで、もうかなり前のこと。デビューが和製サンバと言うこともあり、彼の関心は結構南方に向かっており、和製のサンバやラテン、タンゴ等々。そしてそこからフォーク、ロック更にクラシックやジャズ迄、その守備範囲は広くて深い。声量豊かに説得力のある旨口の歌唱で、聴くものを心地良い陶酔の世界へと誘う。年代的にはぼくよりも一世代下だが、もうかなりなベテランである。
今回見つかったアルバムは1993年に出された『アコンテッシ』。タイトル曲はブラジルの有名なサンバ歌手カルト―ラの良く知られた銘品で、起きる・生じる...と言った意味のポルトガル語。人生には宿命的にそうなって行くことが多い...と歌われる人生賛歌だが、長谷川きよしはそれを力強く歌いきる。このアルバムは番組(小室等さんの冠番組)の収録取材で、群馬県高崎市の倉賀野に当時彼が住んでいた自宅を、小室氏と共に訪れ取材した時に、彼がサイン入りでくれたもの。カルト―ラの曲以外にも、大ヒット曲「別れのサンバ・93」と題された93年版、そしてタンゴの鬼才アストール・ピアソラの書いた、ぼくも大好きな秀曲"忘却=オブリビオン"など、全部で11曲を収めたもので、彼の歌と共にバックを務めるフェビアン・レザ・パネ(p)、吉野弘志(b)そしてヤヒロ・トモヒロ(per)と言った、ジャズ&ワールド、ミュージック系のミュージシャン達のバックアップやソロ演奏もまた素晴らしいもの。ジャズアルバムとして聴いても十分に聴き応えのある、こんな名盤が埋もれたままになっているのは大変に残念...と言った感慨も強い。
長谷川きよしは今は、高崎から京都に移り住んでいるらしく、ライブ活動も関西圏が多いような情報がブログに出ていた。地道に活動を続けているのは嬉しい限りだが、もう少しこの盲目の歌い手に人々の関心が集まってくれれば...と今そのアルバムを聴きながら切に思う。まあこんなアルバに聞き惚れてしまうと、整理作業も遅々として進まなっくなってしまうが、そんなことはさておき長谷川きよし、やはり素晴らしい歌い手です。
【今週の番組ゲスト:新レーベル claudia 主催の曽根麻央さん シンガーAiriさん】
レーベル第一弾『CITY POP RENDEZ-VOUS (シティ・ポップ・ランデヴー)』から
M1「Midnight Pretenders」
M2「リバーサイドホテル」
M3「ワインレッドの心」
M4「都会」