「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.693~トニー・ベネット】
以前このコラムでMPB(ブラジル・ポピュラー・ミュージック)の大物達や妖花ジェーン・バーキンと言った、ぼくの大好きな歌い手達がほぼ同じ頃に逝去してしまったことを取り上げた。するとジャズ関連コラム(特にそうと言う訳でも無いのですが...)ならば、ある大物シンガーが亡くなったのを見逃しているのでは...との指摘あり。当方としては別段忘れていた訳でもなく、別の機会に...と思って取って置いた...と言うのが実の所なのだが、そうしたこともあって今回はその人物の逝去にスポットを当ててみたいと思う。
そのシンガーとは現代最高のポップスシンガーにしてジャズシンガーでもあるトニー・ベネット。7月21日に生まれた街NYで96才の生涯を終えた彼、まさに人生を謳歌した大往生振りだった。イタリア系移民の彼は、95才6カ月でアルバムを発表...という珍しい記録も持っており、それからおよそ半年後の逝去となるが、70数年と言う余りにも長い現役生活、もう何も言うこと無しだった筈である。「想い出の(or霧の)サンフランシスコ」や「ストレンジャー・イン・パラダイス」など数多くのミリオンヒットを誇り、グラミー賞も数多く獲得している彼は、同じイタリア系の大御所シンガー=フランク・シナトラからも高く評価され、賛辞を送られていたが、イタリア系らしく堂々のベルカント唱法(オペラなどの唱法)で多くのファンを魅了しつくした。
ところでベネットとシナトラ、この2人の大物は共にイタリア系でマフィアとの繋がりも噂されるなど、何かと問題のあった面々ではあるが、ベネットの方は若い頃はイラストレーターの仕事もしていたらしく、後年は画家としてもそれなりの評価を受けていた。この2人は御大シナトラにしてもベネットにしても、ポピュラーシンガーの一面もあればジャズ歌手としての評価もある...と言った具合で、その境界を見極めるのも中々に難しい。まあそれはそれとして...、ベネットの純生ジャズ歌手としての仕事としては、やはりあの名ピアニスト、ビル・エバンスとの共演が最も有名だろう。2人の共演盤は確か2枚ある筈だが、どちらも素晴らしい出来栄えだし、その他にもNYで売れっ子ピアニストとして活躍のビル・シャーラップなどとも共演を果たしており、彼とジャズとの繋がりには長く深いものがある。
80年代から90年代にかけては、ベネット自身の評価も余り芳しいものでは無かったのだが、21世紀になるとまた不死鳥の様に力強く蘇る。その契機となったのが有名ポップス&ロック歌手達とのデュオ共演で、このデュオアルバムは大好評だった。中でもアメリカ随一の人気シンガー、レディー・ガガとは大いに気が合ったようで、わざわざ2人のデュオアルバム『チーク・トゥ・チーク』も制作、これは2人の仲の良さを裏付ける素敵なアルバムでその売れ行きも抜群。大御所ベネットの存在感をファンに遺憾なく印象付ける結果にもなった。
彼はこれ迄に何回も来日公演を行っており、ぼくも数回聴きに行っているが、やはり忘れられないのは1988年のブルーノート東京のこけら落しライブ。BN東京も出来た当時は青山骨董通りの中ほどにあり、今よりもかなり狭いライブスポットで、その後現在のかなり広い場所に移転した訳だが、その狭いライブ空間は招待客で溢れ、ぼくは少し遅れていった為に席には就けず入り口の階段に座って、1時間半ほどのライブを聴いた。だがその時のベネットはこの有名ライブハウスのこけら落としと言うこともあって乗りまくり、本場のエンターテイナーとしての凄味をフル稼働させる、実に印象深いステージ振りだった。終わってからも招待客を送り出し、確か外に出て来て挨拶してくれたと思うが、その客あしらいの上手さにもまた驚かされたものだった。BN東京はここからスタートしたと言う、想い出多き忘れられない伝説のステージだった。多くのファンに愛され続けた偉大なシンガー~トニー・ベネット 合掌!
【今週の番組ゲスト:NY在住 Snarky Puppyのドラム&パーカッション 今年グラミー賞3度目の受賞をされた小川慶太さん】
M1「African Mask / JSquad」(『JSquad Ⅱ』より)
M2「Blis / Bokante」(『History』より)
M3「Sol / Martha Kato」(『Soluna』より)
M4「Ghost Song / CécileMcLorinSalvant」(『Ghost Song』より)