8月17日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2019/08/16(金) 19:00 番組スタッフ
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜22:30~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.475~追分通信19-②~世界最長の物語を書いた人】

 前回の追分通信で追分の御影用水のはぐれ鴨について記した。ここ数年3羽いた筈のはぐれ鴨(たぶん親子)の群れだが、その内の2羽はどこかにいなくなってしまったと地元の方の話だったが、先日鴨の根城である御影用水の入口(細い水路が用水として拡張される場所)付近に行ってみると、なんと10数羽の鴨が群れているではないか...。そしてその下流にも8羽ほど...。いやー久しぶりにこんな数の鴨達を見た。その中ではぐれ親鴨は、ただ一羽悠然と泳いでいた。これを見てホッと一安心。


 さて追分山荘での愉しみの一つが、軽井沢など近隣図書館から借りまくった10数冊の本を読み漁ること。山荘にはTVが無い為、これが実にスムースに読み進められる。その中で特に印象に残った一冊が、早川書房からつい最近出された「栗本薫と中島梓」と言うノンフィクション。里中高志と言う40代前半のフリージャーナリストが書いたもので、彼は栗本=中島の早稲田大文学部の後輩にあたる。「世界最長の物語を書いた人」と言うサブタイトルの付いたこの本は、栗本薫=中島梓没後10周年、不朽のヒーローファンタジー「グイン・サーガ」誕生40周年の記念出版本で、版元は当然「グイーン・サーガ」全130巻と外伝22巻と言う、気の遠くなるような長編サーガ(伝奇物語)を出し続けている早川書房と言うことになるが、この「グイン・サーガ」は彼女のお弟子さん達によって現在もまだ続行中なのである。


 まあどうしてぼくがこのノンフィクションを...となるのだが、このコラムでも大分以前に記したが、中島梓(栗本薫)とは数年間ほどラジオ特番を通し、結構親しい関係にあったからに他ならない。良く知られる(?)様に、彼女は「文学の輪郭」と言う評論で群像新人文学賞を獲得、評論での新人賞は珍しいと言うこともあって、中島梓は当時一寸した時の人でもあった。この数年後「ぼくらの時代」と言う推理小説を、栗本薫と言うペンネームで発表し江戸川乱歩賞を受賞、以降世界でも最長・最多の小説を書く稀有な小説家へと変貌を遂げる訳なのである。

 
ところでこの群像新人文学賞は、前年が村上龍、2年後に村上春樹と言う日本の戦後文学の概念をひっくり返すような、若手の双璧=両村上が颯爽と登場した文学賞なのだが、特に評論と言う分野で新人がクローズアップされることは珍しかった。その当時ぼくは紀伊國屋書店が提供する、ラジオたんぱにしては珍しい高等カルチャー番組を、高平哲郎氏を起用して制作していたのだ。そのゲストにまさにぴったりの存在と言うことで、早速「群像」編集部を通して彼女にアプローチ、その話題の評論を読むことも無く、彼女に出演依頼し、快諾してもらった。局の打ち合わせ室で初めて会った彼女は、結構インタビュー慣れした小生意気な女性だったが、ぼくが早稲田の先輩で「ジャズ研」上がりだと知り話が弾み、自身が「ハモソ(ハーモニカ・ソサイエティーの略)」でピアノを担当していだと言うことを、恥ずかしそうに打ち明けた。ハーモニカ中心のこのアンサンブルサークルは結構歴史のある音楽サークルで、確かハイソ(ハイソサエティー・オーケストラ)と音楽長屋で同室の筈だが、音楽素人も多く他の音楽サークルからは、一段格下に見られる所もあったので、彼女もやや卑下した感もあったのかもしれない。だが肝心の文学論になると激しく、鋭く、噂通りの才媛と言った感じで凄い女性だと認識させてくれた。 

 
新聞のインタビューなどは多かったが、大好きなラジオから依頼があったのは初めて、その上音楽長屋の先輩にもあたり、これからは「どんな依頼でも、小西さんに頼まれれば...」等とうれしい事も言ってくれる。そんなこともあり、くだんの文芸番組をはじめ、4~5年位の間ちょくちょく特別番組に登場してもらった。特に若者の政治意識を探る...(「明るい選挙推進協会」と言う選挙啓発団体が主催で、当時は当然政治にも先鋭的な関心を持つ若者が多かった)などと言う、1時間特番(大きなスタジオに30名ほど学生や若い社会人が入り議論する)では、進行役のアナウンサーでは議論に収集かつかなくなり、ほとほと困り果てていた時に、彼女が一言絶妙な助け舟を出してくれ、どうにか一件落着などと言うこともあった。
 その彼女との最後の仕事は、確か彼女と糸井重里の2人にスポットを当てた3時間を超える特番で、伝説の四谷の酒場「ホワイト」で中島~糸井のメイン収録をしたことは今や懐かしい想い出。京成線の青砥にある彼女の自宅にも打ち合わせで何回か訪れたこともあった。しかしその後ぼくが制作現場から、一時離れてしまったこと、また彼女も売れっ子になり連絡を取ることも無く長い時間が過ぎてしまった。その間にも世界に冠たる壮大なファンタジー「グイン・サーガ」を愛読したり、また彼女の略奪愛(結局その相手と結婚する)などが週刊誌のゴシップ欄を賑わせたりしたのを横目で眺め、彼女も大変だなーなどと嘆息していたりもした。


 仕事を共にしたころから彼女の才は図抜けたもので、ぼくなんぞはただ従うと言った感じだったが、小説も扱う題材がSFから恋愛もの、ハードボイルド、歴史物などまさに何でもこなす多彩さ。中でも男性どうしの同性愛を描いた一連の小説(ぼくは一つも読んでいないが)は彼女独自のもの。その上芝居の脚本・演出やオペラ&ミュージカルの演出、更に和もの音曲(三味線、長唄、日本舞踊など、どれも名取のはず)にも通じるなど、まさに天才の名にふさわしい活躍振りだったが、文壇からは異端の存在ともみられがちで、マスコミもまた同じような扱いだったのは、この不世出の女傑に対して本当に残念なこと。


 そんな彼女も晩年は癌でかなりな闘病生活をしいられたが、闘病中でも執筆活動と同時に、ジャズピアノにも目覚め、東大の原子力工学出身と言う異色のインテリピアニスト、嶋津健一に師事し(彼はスタジオにも数回登場している)、銀座のジャズクラブなどで定期的にライブもこなし、ジャズアルバムも発表したりもしていた。そんな話をある知り合いから聞き、是非我が「テイスト・オブ・ジャズ」にも...と、連絡を取ってみたが返答なし。余り病が芳しくなかった時だったかも知れないが、彼女とはそれっきりになってしまい、もう再び会うことも適わなかった。2009年5月26日に彼女は亡くなってしまい、ぼくは新聞のニュースでその訃報を知ったのだった。享年56才。


 里中のノンフィクションからは、この天才の色々な姿が浮かび上がり、デビュー直後の彼女を知るだけに感慨深いものも多く、特にその本名が山田純代だったとははじめて知った。そんな彼女の追悼会では、嶋津を始め水上まり(ボーカル)加藤真一(ベース)など、ぼくのジャズ知り合いも多数追悼演奏を行ったとある。
私はと言えば天性のストーリー・テラーであった。私の頭の中に浮かんでくる、ありとあらゆる壮大なドラマの万華鏡に、私の頭と手が追い付かなかった」(中島梓) 
 本を読み終え久しぶりに嶋津氏のトリオ佳品『ザ・コンポーザーズ』を聴いてみたくなった。知的なコントロールの効いたグッドアルバムなのだが、残念ながら追分の山荘には見付からない。まあこれも運命か...。

【今週の番組ゲスト:東京ジャズ事務局の前川樹里さん】 
 
今年も東京ジャズ近づいてきました!第18回東京ジャズフェスティバル。NHKホールを中心に、渋谷〜代々木公園周辺で830日(金)〜91日(日)開催されます。
今年の特徴は、NHKホールでの4ステージは、レジェンドと話題のアーティストを組み合わせたこと...だそうです!91日の昼公演は、なんと、あのカマシ・ワシントンと、チャールス・ロイド

M1Fists of Fury / Kamasi Washington
M2Passin' Through / Charles Lloyd
M3Love Hurts / Julian Lage
M4Sunday /  Wojtek Mazolewski


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