「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.691~夏の読書】
この所このコラムも2週続けて訃報関連。そんな辛気臭いものではなく何かもっとパッとした話題は...と、このコラムの結構熱心な読者でもあるジャズ関係者から小言が届いた。いやー書き手がチャンジ―(爺さん)だけにどうしてもそちら関連も多くなってしまうのだが、その点はご容赦の程...。
さてそこで少し手前味噌だが(ぼくや山本郁にとって)結構明るいニュースをまずお伝えしようか...。我が「テイスト・オブ・ジャズ」は昨年の暮れ辺り迄、およそ1年半以上の長きに渡ってラジコのタイムフリー(1週間自由に聴取できる...)ランキングで、全国のラジオ番組の中でも3位ないし2位と言った望外とも言える好位置を確保していた。しかし番組の時間移動に伴って、その後は残念なことにランキングから外れてしまっていたのだが、どうしたことかこの5月調査の時点でまた3位に返り咲き、6月調査分ではなんと全国第2位にランクアップしたのだと言う。ぼく自身はこのところ局に顔を出していないので、この事実を知らなかったが後輩の某君が知らせてくれた。まあ皆様にとってはどうでもよいニュースかも知れないが、我々にとっては結構安堵...と言うか嬉しくも明るいニュースなのです。
...と自慢話を一つかました所でここからが本題...。今年の夏は本当に暑い。となると本来は一時の救い(涼)を求めてジャズでも...となるのだが、今は終活の一環としてのジャズアルバム整理の時期。下手に聞き入ってしまうと整理もままならない。そこでここはおとなしく緑陰読書でも...。と言うことで今回はこの夏に読んだ印象的な本の紹介をさせてもらう...。
まずは和製ハードボイルド小説の一極地とも言える、俊才黒川博行の最新作「連鎖」。元々高校の美術の教師と言う異色派で関西在住の彼は、浪速の極道や刑事などを主役に軽妙にしてスリリング、実に卓抜な犯罪&警察小説を描く。TVシリーズでも評判を呼んだ大阪やくざと土建コンサルのコンビによる疫病シリーズ、堀内・伊達の関西バディー~悪徳警官シリーズ等々、彼の作品に登場する関西ゴロ達の軽妙な会話、機敏で予想外な行動、悪徳ながらもどことなく憎めないキャラクター設定など、いつも本当にワクワクして面白くも止められない読後感。ぼくは警察小説大の苦手派なのだが、こと彼の警察モノだけは出るとすぐに手に取りたくなってしまう。「連鎖」も上坂・磯部と言う大阪の暴力犯対応の刑事コンビによる、手形詐欺事件からの展開・発展なのだがまさに一気読みの超エンタメハードボイルド巨編。上坂と言う若い刑事はどうやらこれが3作目の登場で毎回違う刑事と組むのだが、大学も映画関連を出た異色派で猛烈な映画フリーク。いつも相棒に映画の話をして煙たがられる...設定だが、その知識量と面白い会話で少しも飽きさせない...。暑すぎるこの夏にはお勧めの一作で、彼の作品を未読の方には是非...。日本のハードボイルド小説の変形ではあるが、ある極地とも言える。
そしてもう1冊は劇作家・小説家・エッセイスト・TVパーソナリティーなど、多彩な顔を誇る鴻上尚史の新作「愛媛県新居浜市上原一丁目三番地」。何とも長いタイトルだが、これは彼の自伝的小説とも言えるもの。ぼくよりも一世代若い彼は、早稲田大の名門演劇サークル「劇研」~演劇研究会の出身で、学生時代からその才を高く評価され、劇研から独立し「第三舞台」を設立、紀伊国屋劇場などで多くの観客を集め、一躍時代のヒーローにもなった。その彼とは残念なことに面識はなし。いろいろな行き違いがありで、会うこと叶わず今に至っているが、彼の芝居は結構見ており、ぼくも大好きだ。その上第三舞台の女優さん~贔屓の長野里美や筒井真理子などはラジオ特番のパーソナリティーで起用もしているし、また彼は山下洋輔さんのアメリカ殴り込みツアーにも客分として参加、色々噂話も聞いたりもしており、彼の周辺との繋がりは深いものがあるのだが、肝心の彼とは面識なしなのである。
その彼の珍しくも自伝的要素の強いこの小説は、タイトルからしても愛媛県出身の彼の子供時代の話だと分かるが、それから長じて引退した両親(共に教師だった)の見取りに至る迄を綴る、面白くも泣ける小説なのである。これに大学劇研~第三舞台立ち上げ時代の「新宿区早稲田鶴巻町大隈講堂裏」、そしてつい最近の離婚(彼が離婚していたとは全く知らなかった...)以降の住処、「東京杉並区××二丁目四番地」と言う、二つの私小説がプラスされ、全部で三つの小説からなる作品集で、鴻上と言う男のトータルな姿が浮き上がる仕組み。彼はある時代の寵児(=早稲田演劇の星でもあった)だが、その今を知る格好の含蓄多い小説集となっている。彼もそろそろ高年期を迎え、色々考え・感じるところも多いのだろうが、そうした私小説として読んでも実に興味深い。さすが鴻上尚史である。
ところで彼の鮮烈なデビュー作品「朝日のような夕日を連れて...」は、こんな印象的なセリフでラストを迎える。「沢山の人と手を繋ぐことはとても悲しいことだから 朝日のような夕日を連れて 冬空の流星のように ぼくはひとり...」今一人になった鴻上、その心境を40数年前のこのセリフが裏打ちしている様でもあり、考えさせられるところ多々でもある。
【今週の番組ゲスト:3週連続 ラテン特集② ピアニスト、アレンジャー 畠山 啓(けい)さん】
M1「Caminando por el Malecon / EL SWING 」(『Esperanza』より)
M4「Celebremos esta noche / Banda Coribantes」(『Banda Coribantes』より)