「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.722~川嶋哲郎~】
「テイスト・オブ・ジャズ」今回のゲストは久々の登場である日本のジャズテナーの第一人者、川嶋哲郎である。前作のリリースが4年前でその時スタジオに遊びに来た筈だから、およそ4年ぶりの登場となる。今回も新作を携えてのお目見えだが、今度の新作は『ア・ウオーク・イン・ライフ』。人生を歩く...はたまた、人生の散歩道...とでも訳すのだろうか。タイトルチューンはアルバム2曲目に収録されているが、アルバム全体の、ひいては川嶋と言うミュージシャンそのものを象徴する良いタイトルでもある。
前作『ウオータ―・ソング』は、洗足音大の教え子達と精緻に刺激的に絡み合ったりと...、聴かせ所満載の挑戦的アルバムだったが、今回の新作はラテンジャズの世界などでも活躍するバイオリン奏者、さやかがリーダーの「チャカ・ストリング・カルテット」と言う小編成ユニットを相方(曲によって岡部洋一のパーカッションも加わる)にしたもので、組曲作りに拘る彼らしく「熱望」「調和」など4部構成の「組曲エモーション(情感)」をメインに据え、これ又聴き応え充分な全9曲の構成。前作とはバックの規模の大小と言う違いはあるが、その曲作りや(ストリングス&自身担当の木管アンサンブル等)編曲の妙など、様々な面でその成果を更に深化させたもの。川嶋は番組の中で、このアルバムから4曲を紹介してくれたが、それらの曲はあの未曽有のコロナ禍を乗り越えた川嶋哲郎と言う卓抜なサックス吹き、現在の率直な心情や人生への向き合い方(歩き方)を、聴き取り・読み取ることも出来る。ある意味で前作がサックスによる情景描写としたら、こちらは卓抜な心象表現とでも言った感じか...。
川嶋自身は今回ストリングスカルテットと組むと言うことは、あまり意識していなかったと言う。プロデューサーがストリングスと組んだら面白いんじゃない...という提案をしてそれに沿って作・編曲も考えたのだと言う。自身がこれをやりたい...と言うよりは、人が進めた企画をより深く詰めて行く方が...おもしろい結果になることが良くあるんだ...とも彼は言う。そう語るその姿は、やはりプロ中のプロと言った感じだ。
悠々として力みのない、風格に満ちたサックスの歌い上げ。優し気にそのプレーに寄り添い、時に少し厳しめに相対する、躍動感溢れたさやか以下の手練れストリングス陣。なによりこの両者の親和性が心地良く嬉しい。新作『ア・ウオーク・イン・ライフ』は、やはり好漢川嶋ならではの印象的な逸品だったが、同時に彼はしゃべり手としても無類な達人であり、書き手としてもジャズエッセイなど無類の書き手でもある。そんな彼の独壇場とも言える30分間。彼の人生哲学にも触れることも出来、実に楽しくも有益な時間であった。皆さまもこの哲学者&サックス吹きの御高説、充分に愉しんで欲しいと切に思います。
【今週の番組ゲスト:テナーサックス奏者の川嶋哲郎さん】
新譜『A Walk in Life』から
M1「Dear Days」
M2「Sunrise Flight」
M3「Desire」
M4「A Walk in Life」