「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.721~私の好きな曲その2~】
少し前にこのコラムで「わたしの好きな1曲」として、ジミー・ヒースの書いたファンク調の好ナンバー「ザ・タイム&ザ・プレイス」を紹介した。そうするとこれが結構受けたみたいで、知り合いやジャズ関係者などからリアクションあり。「あの曲いいよね...」とか、「日野ちゃんが昔ピット・インでやったこの曲凄かったね...」等々、数人の方からメール等を頂いた。そう言えばぼくもまだ局員になり始めの半世紀以上前、即ち新宿ピット・インが誕生して間もない頃、日野~村岡健の2管コンビにピアノは確かコルゲンさんこと鈴木宏昌などの凄腕達によるユニットでの、この曲の演奏は圧倒的な迫力だったことを思い出した。あの頃の日野ちゃん、「本当に素晴らしかったなー」と今も懐かしく思いだす。
と言うことでこの前もお伝えしたように、この私の好きな1曲、気の向いた時に書き連ねるシリーズ...なので、今回はその2回目になる。このシリーズは、なるべくジャズメンオリジナルをメインに取り上げようと思うが、今回はぼくをジャズの道へと誘った大事な1曲...、と言うことで誰もが知る有名なスタンダードソングを...。
その曲とは「ソフトリー・アズ・イン・ア・モーニング・サンライズ」。邦題は「朝日の様に爽やかに」。ジャズの代表的なスタンダードソングであり、ジョン・コルトレーンやウイントン・ケリーなど名演も数多い名曲で、「恋人よ我に帰れ(ラバー・カンバック・トゥ・ミー)」などと同じく、オスカー・ハマーシュタイン(詞)&シグムンド・ロンバーグ(曲)のコンビが作ったミュージカル「ニュームーン」(28年)の挿入歌。高校生の頃のぼくは洋楽好きで、ラジオの洋楽番組(S盤アワーなど)等も良く聞いていたし、高校では映画同好会と洋楽同好会なる同好会の中心メンバーで、洋楽ならば彼に聞け...と言われるぐらいに結構なマニアでもあつた。ある日偶然にラジオ番組で聞いた曲、これがなかなか良くて耳に残った。当時実家のある高円寺には駅前にレコード屋があり、その主人はうちの親父の知り合い。結構安くアルバムを買えたので、この気になる曲のアルバムを...と思いレコード屋に向かうと、ドーナツ盤(EP盤)は無しとのこと。これならば...と渡されたのがMJQと言うバンドのLPアルバム。どうやら黒人4人組バンドらしいが、実際は余り良く分からない。だが丁度その時は手許に金があった時で、思い切ってLPを買ってしまった。家に帰ってこの「朝日の様に...」を聞いてみると、最初あの心惹かれたメロディーは出て来るが、それが終わると全く分からない演奏に変わってしまう。これがアドリブなどと言うことはついぞ分からず、これは全く大失敗した...と、勧めてくれたレコード屋の店員を恨んだものだった。ところがかなり高価なアルバムだったので、この「朝日の様に...」を何回か聞いているうち、そのヴァイブとピアノの演奏に何か引き込まれていく魅力を感じる様になる。そこからは一気にアルバム全体の曲と演奏も興味深いものとなり、このグループの名称も「モダン・ジャズ・カルテット」と言い、モダンジャズの最も優雅なユニットなのだ、などと言う知識も、音楽本などから仕入れるようになる。そこからはジャズの蠱惑の世界へと...引き込まれていく訳だが、その端緒となったのがこの「朝日の様に...」と、それを演奏するMJQの面々。特にジャズの魅力を伝えてくれたのは2人のリーダー、ジョン・ルイスのピアノとミルト・ジャクソンのヴァイブ、その魅力だった。今でも時々むしょうにこのMJQの演奏を聴きたくなる瞬間がある。そして実際久方振りに接してみると、やはり他にはない素晴らしいユニットなのだと言うことを、強く再確認出来る。
高校時代にMJQに出会わなかったとしても、その後のどこかでジャズの魅力に触れ、のめり込むようになっただろうことは想像に難くない。ただ殆んど周りにジャズなどを聴くのがいなかった高校時代、そして受験勉強に明け暮れその合間にジャズ喫茶に入り浸った浪人時代、やはりジャズそしてなによりMJQはぼくの「ロンリー・ハート・フレンド」だった。そして大学でジャズ研に加わり、そこで初めて良き音楽(ジャズ)仲間を得られたこと、これはやはりぼくの人生にとっても大きな意味を持つことだった。その原点のMJQの「朝日の様に爽やかに」。やはり一生モノの名曲・名演です。
【今週の番組ゲスト:ヴァイオリニストの金原千恵子さん チェリスト 笠原あやのさん ギタリスト 三好"3吉"功郎さん】
M1「Waltz for Debby」
M2「First of All」
M3「Love Song」
M4「New Blues」