10月7日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2017/10/06(金) 19:00 番組スタッフ
テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.378~ある天才ドラマー】

 かつて一人の天才ドラマーがいた。15才でプロデビューを果たすと「天才少年ドラマーあらわる!」と称えられ、当時の様々な人気バンドに参加、その後バークレー音楽院帰りの渡辺貞夫バンドに招かれ、サダオさんと共に日本のモダンジャズの黎明期を担い、最高のドラマーとして自他ともに認める抜群な存在だった。富樫雅彦である。その彼が亡くなったのは2007年8月、享年67才。

 
ぼく自身は彼の最盛期のプレーを同時代では耳にしたことは無く、たぶん数回だと思うが、それでも豪放にして繊細、凄みあるそのドラミングは実感できた。まさに鬼才にして天才だった。彼は若くしてプロになった人だけに、あの古き良き悪しき時代のジャズの風習~様々に荒れたジャズライフにべったりと浸かった所もあり、少しの間「塀の中」にもいた筈(?)である。そんな彼が70年に不慮の事故(女性に刺される)で半身不随になってしまい、ドラマーとして再起不能か...と言う話まで出たが、ある特殊なドラムを開発、車椅子生活ながらもドラム打楽器奏者として見事にカムバックしたのだった。ただこの事故で脊髄がダメになってしまったことなども影響し、2002年には現役引退、以降は作曲・絵画制作に専念した。

 
この不慮の事故(?)をよく覚えているのは、その事故を知らされたのが当時の人気ジャズ雑誌「スイング・ジャーナル」が毎年正月明けに開催するホテルでのジャズ・ディスク大賞授賞式の場だったからである。確か富樫さんのアルバムもその候補作に入っていたのでは...と思われるが、パーティでの立ち話の最中このニュースが知らされ、多くの参列者が一瞬青ざめたのである。「もうドラムを叩けないのか...」等悲痛な声も上がり、みんなが心配した場面を今でもはっきりと覚えている。

 
それからの闘病と新しいドラムでの修練の日々。両手だけで演奏する独特のスタイルを獲得するまでは、本当に大変だったと思われるが,天才は見事に復活、スケールの大きな幽玄とも呼べそうな独特な富樫パーカッション・ワールドを築き上げたのだった。ただ思う様にプレー出来ないのと病の進行もあり、ついにスティックを畳んでしまうこととなり、作曲と絵画にのめりこんでいったのだった。その彼が書いた作品が素晴らしいと、彼の死後仲の良かったピアニスト、トーサさん(佐藤允彦)が気付き、自身のアルバムで数曲取り上げ、それがちょっとした評判を呼んだ。それを聴いたあるレコード・プロデューサーが、トーサさんを始めサダオさん、洋輔さん、日野さん、そして厚ちゃん(峰厚介)と言った、日本を代表する彼のかつての仲間達5人を招き、彼の書いたバラードナンバーを取り上げるアルバムを作りあげたのだった。

 
『マイ・ワンダフル・ライフ』。この作品は当時のスイング・ジャーナル誌「ジャズディスク大賞/日本ジャズ賞」に輝くことになる(ぼくもこの作品をべストに推した)。そして今年はこの天才ドラマーの没後10年目、そこでこのオリジナルアルバムに富樫さんのドラムソロを前後に2曲配置し、新たな形でこの名盤のEX盤と言う形で再発することが決まったのだった。

 番組ではこのプロデューサー、「ラッツパック・レコード」代表、棚橋まきと氏をスタジオに招き、色々と富樫さん自身やこのアルバム企画動機などについて、お伺いをすることにした。彼のそしてその作品の素晴らしさは、トーサ・洋輔と言う2人のジャズ界を代表するピアニスト達の言葉に表されていますよ...と棚橋氏は言う。「彼と共演すると、身体中の細胞が洗い直され、磨き直される感覚がある」(山下洋輔)、「たった一音聴いただけで誰と分かる、音楽を創るものの最高評価を、彼ははるか以前から獲得してしまっている」(佐藤允彦)。これ以上の誉め言葉はない。この審美的で創造的でもあるジャズアルバムは、今年の芸術祭レコード部門賞の大賞候補にノミネートされているとも聞く。アルバムが芸術祭賞を受賞、真の天才でもあったこの富樫雅彦と言うドラマー・打楽器奏者に、再びスポットが当たることを切に願っています。


【今週の番組ゲスト:ラッツパックレコーズの棚橋牧人さん
】7月20日にリリースされた『My Wonderful Life EX富樫雅彦バラードコレクション』から5曲紹介します。
M1My Wonderful Life / 佐藤允彦 渡辺貞夫」
M2
Reminsce'63 / 佐藤允彦 日野皓正」
M3
Memories / 佐藤允彦 峰厚介 」
M4
Waltz Step / 佐藤允彦」
M5
My Wonderful Life / 山下洋輔」

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