「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.708~音が聞こえない打楽器奏者~】
エヴェリン・グレニーと言う女性打楽器奏者がいる。スコットランド出身(父親は農場主でアコーディオン奏者でもあった)の世界的打楽器奏者でもある彼女は、なんと難聴...と言うよりも完全に耳が聞こえないのだと聞く。それなのにフルオーケストラと共演したりクラシックのソロ公演を行ったり...、またポップスの分野でもビョークやスティングと言ったビッグネームと共演を果たし、更にジャズシンガーなどともライブを開いたりしている。実に幅広い分野で活躍を展開している名打楽器奏者で、半トンもの打楽器群を抱えて世界を飛び回っている。来日公演も何回か行っている彼女は、日本も大のお気に入りで大量の打楽器類を東京のどこかに隠し置いている...との話もある程。
ぼくは一度あの話題の子供向けTV番組「セサミ・ストリート」で、子供たちと共演している彼女の映像を見たことがあるが、そのテクニックセンスの鋭さなどに驚いたものだった。故郷スコットランドの広い農場で動物たちと育った彼女は、8才の時に耳の障害が起き12才で殆ど音が聞こえなくなってしまったが、不断の努力でスコットランドの有名音楽院に入り、打楽器奏者としての地歩を徐々に固めて行き、グラミー賞を2度ほど受賞、エリザベス女王からも音楽叙勲を受けたのだった。
そんな彼女の半生を描いた絵本があると聞いて早速読んでみた。「心を開いて音を感じて...」(光村図書)と言うその絵本は、シャノン・ストッカーと言う女流作家が書いたもので、彼女自身も障害を抱えた人だけに、グレーニーの心情に寄り添った心根をベースにその半生を描いている。ここで何より素晴らしいのは、作画を担当したデボン・ホルスワースの絵作り。無邪気で愛らしい少女が、音楽院で「耳が聞こえないなら入学は無理...」と宣告された時のその表情など、なんともほろりとさせられる。美形の打楽器奏者として世界中を席巻しても、その伸びやかで自由な心を保ち続ける彼女の溌溂とした姿~まさに「心を全面的に開いて音を全身で感じ取る」、その姿が生き生きと描き出されており、中々に感動的な絵本でもある。
様々な国際的絵本賞を獲得しただけある、彼女の打楽器音が実際に聞こえて来るような、素敵な忘れ難い味わいのお勧め絵本として、ぼくは何時までも読み続けたいと思っている。
【今週の番組ゲスト:ジャズ喫茶いーぐるのオーナー後藤雅洋さん】
『ジャズ喫茶いーぐるの現代ジャズ入門』https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0652908/
M2「Welcome To My World / Ezra Collective」(『Where I'm Meant To Be』より)
M3「La Cumbia Me Esta Llamando(クンビアが呼んでいる) / Nubya Garcia」(『Source』より)
M4「Sankofa / Amaro Freitas」(『Sankofa』より)