「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.713~演歌の女王亡くなる~】
TVのワイドショーを何気なく眺めていたら、「演歌の女王亡くなる...」と言ったテロップが流れ八代亜紀の死亡を知らされた。ぼくよりも6,7才ほど年下なので70台はじめ...と思っていたら、享年はやはり73才とのこと。決して若くはないがやはり死亡のニュースを聞くにはまだ早い感は強くある。このところ歌謡番組(殆ど見たことは無いが...)やバラエティー番組などでも顔を見ない感じで、どうしているのかーといささか気にはなっていたが、昨年夏ごろに難病に侵され闘病生活を余儀なくされていたことなどとは、ファンでもないのでつゆ知らず。ここは静かに、演歌の女王に黙祷‼
「舟歌」「雨の慕情」などヒット曲も沢山あり、八代亜紀と言う歌い手はその存在や実績など、確かに女王の名称に相応しいもの。しかし晩年(今となってはこういう言い方しか無いが...)の彼女は、その歌い手の原点でもあったジャズに、かなり焦点を当てた活動も展開しており、実態は演歌が9割でジャズが1割位の割合だったのでは...。熊本の八代市出身の彼女は、良く知られているが地元のバスガイドから演歌の女王まで上り詰めた立身出世の歌い手。熊本や博多で歌の仕事を始めたが、その頃は地元のクラブでジャズ(ポップスも含む)を歌っており、上京して後の銀座のクラブ歌手時代も、半分ほどはジャズがそのレパートリーだったとも聞く。それ故に彼女の歌う演歌は、ど演歌では無いある種のモダンさをその歌に感じさせる...、そこら辺が一般の共感を得たのでは...とも思われるのだが...。
彼女のジャズ関連アルバムと言えば、「ピチカート・ファイブ」の小西康陽がプロデュースした『夜のアルバム』(2012年)が良く知られ、その好評に味をしめたのか『夜の続き』なる続編アルバムも出されている。『夜のアルバム』はスタンダードがメインで、それに歌謡曲のジャズバージョンも一部含む構成で、彼女のジャズ好きの一面が良く出た好アルバムだった。特に一番のお気に入りだと言うハスキーな美形シンガー、ジェリー・ロンドンの十八番「クライミー・ア・リバー」と「ジャニー・ギター」が収められているのが印象的だった。世間ではこのアルバムによって、再び彼女のジャズへの関心が蘇ったと思われているが、実際はその前からコンスタントに仲の良い前田憲男(p)等と共に、気楽なジャズコンサートを銀座のホールなどで続けており、その結果としてこのアルバムが誕生したと言う次第。
ぼくは彼女とは30年ほど前、一度だけ特別番組を一緒に作った覚えがある。局の営業部員から「小西さん八代亜紀の番組ちゃちゃっと作って下さいよ...」と頼まれ、まあ仕方ないなーと引き受けたのだが,どうやら彼女を追っ掛けているカメラマンがいてその人の八代作品集が仕上がり、それを記念しての特別番組だったと思う。彼女のコンサートとインタビューをメインに確か1時間の特番だったが、今は別れてしまった彼女の旦那兼プロダクション社長だった人も、一緒の仕事だった。彼女自身は実に気の良い人(演歌系の人は難しい人も多い...)で、結構インタビューなどもしやすく、それなりに気持ち良い仕事ではあった。一番印象に残っているのは、彼女が「プロデューサーさんはジャズに詳しいってお聴きしたんですが、私も昔はジャズ歌っていたんですよ」「当然知ってますよ...」「特にジェリー・ロンドンがお気に入りで、今でも彼女の十八番歌うこともあるんですよ...」等と、ジェリー・ロンドン話など軽いジャズ談義を交わしたことである。それから10年後ぐらいに『夜のアルバム』が登場して、実に懐かしく思ったものだが...。八代亜紀~ジャズ好きな演歌の女王。安らかに眠れ...。
【今週の番組ゲスト:キングインターナショナル低音シリーズプロデューサー 森川 進さん
Brian Brombergの新作『ラファロ』より