「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.705~ブギウギ~】
NHKの鉄板アイテムでもある朝ドラ。この所、取り上げる人物に音楽関連も色々あったのだが、ぼくは広瀬すずが主演した「夏空」以降は見ることも無かった。ただ今放送中の「ブギウギ」、これだけは忘れなければ見るようにしている。と言うのもこのドラマのモデルである笠置シズ子。彼女こそは日本が生んだ本格的女性ジャズシンガーの草分け的存在...と信じているからで、この朝ドラは戦前~戦後直ぐの日本ジャズ史そのものを描いている...、と思っているからに他ならない。
戦前の女性ジャズ歌手...と言えば、まず名前が挙がるのは「青空」「月光値千金」などで知られる川畑文子となる。彼女はカリフォルニア育ちの日系3世。本場で歌手修業を積み、それなりの人気も獲得していたが、それに目を付けた日本のレコード会社コロンビアが、昭和7年の初来日と同時にかなり強引に日本在住を意図し、本格的シンガーとして売り出しを図り、日本へのジャズ音楽導入に大きな貢献を果たした歌手だった。ただ彼女はやはり本場で研鑽を積んだ人で、外来音楽のジャズを日本本来の和ジャズとして作り上げた人では無かった。それだけに笠置シズ子と言う大阪の少女が東京の舞台で歌った「ラッパと娘」(昭和14年)、これが日本で初めての本格的ジャズシンガーの誕生として画期的なものだったのだ。
笠置シズ子はブギウギの女王としてぼくも中学生の頃から当然その存在は知っていたし、高校や大学の頃は、歌番組の審査員などをする気のいい大阪のおばちゃんとして、TVなどにも良く登場していた。だがジャズ歌手としてこんな鮮烈なステージを展開していたとは、ついぞ知らなかった。それだけにこの「ラッパと娘」を、30年ほど前に耳にした時には正に圧倒された。朝ドラ「ブギウギ」でも主役の趣里(好演‼)が作曲者の羽鳥善一(草彅剛演ずる服部良一役)のバックでこの歌を歌う場面があり、それも素晴らしいシーンだった。
この画期的ナンバー「ラッパと娘」を、ぼくが長年担当している中野区のジャズ講座で初めて紹介した時に、ジャズには余り関りの無さそうなおばちゃんが、あれ笠置さん...と名前を挙げたのにはびっくりしたものだった。今年もまたジャズ講座を今月末にやることになっているが、そのテーマはやはり「ブギウギ」で笠置シズ子に焦点を当てたものにしようと今思っている。最初の時にはこの唄の存在を知っている人は皆無(名前を当てたおばちゃんはいたが...)だったが、今は多くの人がこの服部良一&笠置シズ子のこの唄を知っており、その意義などにも気付いている。少しやりにくい面はあるがまあ仕方ない所だろう。
それにしても朝ドラ「ブギウギ」には、笠置シズ子を真似することによって、世に登場した歌姫=美空ひばりをモデルにした女性は登場しないと言われる。ひばりの存在がこのドラマで、笠置シズ子の自伝と言う形を取らなかった、大きな要因となっているのは想像に難くない。笠置自身も又ひばりの存在で引退を余儀無くされたのだった。この天才2人の葛藤・絡みは、日本芸能史にとっても大変に興味深いのだが、そこが描かれないとしたら大変に残念なことと言わざるを得ない。でもドラマ自体は趣里の好演も相まって、かなり面白いものなので、そこは許すこととしようか...。
【今週の番組ゲスト:トランペッターでGaumy Jam Record主催の
7月発売のTomonao Hara Goroup 3枚目のアルバム
M1「What Is In Your Mind Next To」
M2「There Is Nothing But Everything」
M3「Sea Raccoon/平倉初音」(『Tears』より)
M4「Black Dragon 」
尚、今年のJazz EMPは12月10日(日)開催です。