「テイスト・オブ・ジャズ」は、今週より毎週日曜19:00~19:30での放送となります。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.651~武満徹と高樹レイ】
日本のクラシック音楽(現代音楽)に於ける最高の存在...となると、少しでもこの分野に関心のある人ならば、ほぼ全員がまず武満徹の名前を挙げるに違いない。1996年に66才の若さで惜しくも亡くなった武満徹、その存在がそのまま日本の現代音楽とでも言った感じで、世界中の音楽ファンから認識されているこの小さき天才「世界のタケミツ」は、なんと作曲術など音楽の全てをほぼ独学で学んだ...とも言われる努力の人。その数多くの著作(「音、沈黙と測り合えるほどに...」等々)により、知の音楽家=音楽哲学人とも目されている人でもある。
ぼく自身この現代音楽と言う分野にそう詳しい訳でも無いし、彼の著作は数冊読んだのだが知的なアフォリズムに溢れた、その詩的な文章に圧倒されっぱなしだったと言う訳で、彼について何か語ると言うのもおこがましい限りでもある。ただ一つ言えるのは音楽に関する許容量の広い彼は、ジャズ大好きな人でもあり、また映画音楽の作曲なども数多く手掛け、(ポップス)歌曲の作品も幾つか残している...と言った感じで、そこら辺でぼくが接点を持つことも可能な人でもある。
そしてもう一つ彼との接点は、彼が夏の期間を過ごし作曲活動等を展開した別荘が、ぼくの追分の山荘から車でほど近い場所にあり、かつて一度だけその別荘にインタビュー取材で伺わせてもらったことがある...ということ。御代田町の普賢寺地区にある文化人別荘地域の一角に位置する、その落ち着いてこじんまりした別荘で、当時担当していた法務省録音教材(受刑者向けの教材番組)の15分程の人生談(私の生き方と言ったタイトルだったと思う)で、作曲に関してや音楽の魅力などをお伺いしたのだが、緊張しっぱなしで優しい人だなーと言う印象位で、その詳細について残念なことにほとんど思い出せない。
そんな武満と言う偉大な作曲家の仕事の中でも、先に記した(ポップス)歌曲と言うものは、ある種独特な輝きを放つ仕事でもあったと言える。良く知られる「翼」や「死んだ男の残したものは...」など全部で10数曲なのだが、そのどれもが珠玉作とも言える素晴らしいものばかりであり、小室等など多くのシンガーがこぞってタケミツ歌曲集を取り上げているが、中でも世評の高いのは武満自身がプロデュースして彼のリクエストにより誕生した、石川セリ(井上陽水夫人)の唄う作品集『翼』だろう。淡々と変な作為も無く唄うセリの歌声、これがタケミツ歌曲にピッタリでぼくも大好きなアルバムの一つなのだが、最近ジャズサイドからこのタケミツ歌曲集に挑戦するシンガーが現れた。これまで番組にも何回か遊びに来てくれている高樹レイさんである。彼女はファンから武満の歌曲を勧められライブなどで取り上げ始め、いつかはそのアルバムを出したいと言う強い希望を持っていた。それが九州在住のギタリストとブルース・ハープ(ハーモニカ)奏者のユニットと出会い、彼らもタケミツ大好きということで意気投合し、今回アルバム誕生と言うことになったのである。
『武満ソングス』とタイトルされたそのアルバムは、「翼」や「3月のうた」「小さな空」など全部で10曲ほどで構成されており、レイさんとアニバーサリーの面々のタケミツ愛が詰まった素敵なアルバムで、レイさん自身もその仕上がりに自信満々。その自信作を携え久しぶりにスタジオに遊びに来てくれた。たまたまだがぼく自身も、ジャズ専門誌のレコードレビューでこのアルバム評を担当、かなり褒めておいたのだが、彼女もスタジオで嬉し気にお礼を述べてくれた。武満徹、この素晴らしい素材を見出したレイさん、何時までもこの珠玉の作品群を大事に歌い続けて欲しいものです。
尚皆様にお知らせ。「テイスト・オブ・ジャズ」は今月から日曜日夜7時~に移ることになりました。お休みのひと時、心に余裕を持ってジャズを目一杯お愉しみ下さい。
【今週の番組ゲスト:ジャズシンガーの高樹レイさん】
ANNIVERSARY 名義でリリースされた「武満徹Songs」から
M1「三月のうた」
M2「死んだ男の残したものは」
M3「MI・YO・TA」
M4「翼」