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グローバルヘルス・カフェ

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聴く第15回「アフリカでの検査技師活動~精度管理を充実させるために」(2015年10月20日放送分)


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
橋本:橋本 尚文(国立国際医療研究センター/臨床検査技師)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)


■ 臨床検査技師って何をする人?

ヨーコ:お元気ですか、グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。国際医療協力にかかわる人たちが通うカフェってちょっと変わってませんか。ここのマスターはとても面白いので、わたし気に入って通っています。それではさっそく、カフェに入ってみましょう。

マスター:グローバルヘルス・カフェ、マスターの明石です。あそこにいるのは橋本さん。臨床検査技師という、まあ国際医療協力ではあまりなじみのない、あまり聞いたことのない人ですね。
ヨーコ:マスター、何ぶつぶつ言ってるの?
マスター:あ、ヨーコさん、こんにちは。
ヨーコ:こんにちは。
マスター:ようこそ。臨床検査技師って知ってる?
ヨーコ:うーんと、レントゲンとかやる人だよね。
マスター:あー、それは放射線技師さん。
ヨーコ:え。
マスター:臨床検査技師さんていうのは、たとえば病院でいうと採血とか、おしっこを取ってくださいとか、検査しますよね。そのときに、バックヤードで検査をしてくれる人です。
ヨーコ:けっこう重要なお仕事ですね。
マスター:そうですね。
ヨーコ:そういう人も国際医療協力に関わったりするんですか?
マスター:そうですね。彼はマラウイとかザンビアとか、アフリカでね主に活躍している人ですが。
ヨーコ:臨床検査技師、なんだか難しそうなお仕事だけど、ちょっとお話聴いてみようかな。
マスター:そうですね。ぜひ聴いてください。

■ 夜中でも検査の呼び出しがかかった

ヨーコ:橋本さん、こんにちは。
橋本:こんにちは。
ヨーコ:橋本さんは臨床検査技師として、マラウイにまず行かれたそうなんですが、これどんなお仕事をなさったんですか?
橋本:はい、1991年4月から93年4月までマラウイの病院の検査室で主に検体検査をしていました。検体は、たとえば血液とか尿とか、それとか喀痰とか糞便です。
ヨーコ:そういったものの検査をするお仕事をしていたということなんですね。
橋本:はい。
ヨーコ:日本と違うところってどんなところなんですか?
橋本:はい、日本と違うのは、当時は、いまもそうですけれど、HIVの患者が多くてそれに関する検査、特に輸血検査とか、あとはマラリアとかの寄生虫の検査、そういうのが非常に多かったです。
ヨーコ:けっこう日本にいてはあまりやらない検査というのもすごく多かったということですか?
橋本:はい、それは寄生虫の検査とかそうですけれど、HIV関連の検査は特に多かったです。日本ではあまりいまないです、マラウイと比べたらないですけれど、向こうはそれが日常茶飯事で、当時は薬もなかったので入院する人はみんな亡くなるという状況でした。
ヨーコ:まだ治すというか、治療方法が確立されてないころ......
橋本:薬はあったんですけれど、途上国に行き渡るほどの価格ではなかったということがあります。
ヨーコ:では、すごくお忙しかったんじゃないですか?
橋本:昼間働いて、夜は待機して、呼びに来たときに検査室に戻って夜中検査するということです。
ヨーコ:え、夜中も検査するんですか?
橋本:はい。
ヨーコ:それはどういうことですか?
橋本:それは、夜とか早朝にかけては、重症な患者さんが連れて来られて、特に輸血関係が多いんですけれど、たとえば赤ちゃんの重度のマラリアとか、あとは妊娠して出産で異常出産での大量出血の事故とか、そういうときはすぐ血液が必要になって、そういうときはその患者さんの肉親が付いてきて、その方の肉親の血液を調べてすぐ患者さんに入れないといけないんですね。
ヨーコ:待機していて、電話が急にかかってきたりする?
橋本:電話じゃなくて、直接、病院敷地内に宿舎があったので、そこにいますと、夜中、ドアを叩いて......
ヨーコ:ドンドンドンドンと?
橋本:ハシモト、ハシモト!
ヨーコ:そうすると、パジャマを着ててもすぐ出て......
橋本:もうパジャマ着てないで服の上に......
ヨーコ:いつでも行けるようにして......
橋本:行けるようにして......
ヨーコ:そのまま寝ぼけ眼でもいつでも行けるようにして外に出ますよね、真っ暗ですね、どんな感じで、走って?
橋本:走って行くときもあるし、自転車で行くときもあるし。雨のときは傘さして走って行くけれど、そうじゃないときは自転車で行きますけど、真っ暗なときは見えなくてドブに落ちたということもあります。
ヨーコ:ドブに落ちてその後やっぱり行くんですか?
橋本:行きます。そのときは服脱いで......
ヨーコ:服脱いで......
橋本:ドブのところは臭くて汚いんでね。
ヨーコ:そのまま裸で走って検査をして......
橋本:緊急なんで。
ヨーコ:一刻を争いますからね。まず橋本さんがいて検査をしない限り、その輸血はできないわけですね。
橋本:できません。血がない。
ヨーコ:そうすると、もうドブに落ちようが何しようが、もう這い上がって走って行く。
橋本:はい。
ヨーコ:すごい生活をされましたね。

■ 「セイドカンリ」って何?

ヨーコ:精度管理というのを私初めて聞いた言葉なんですね。「せいど」というと、みなさんシステムのほうの制度を想像するかと思うんですが、正確さとか精密さという意味の精度ですね、米偏に青の。これは一体、何なんでしょうか?
橋本:はい。要するに、たとえば、体重を量るときにまず体重計を持ってきて、動くかどうかみて、必ず目盛りをゼロに合わせますね。
ヨーコ:はい。
橋本:本当だったら、1㎏だったら1㎏を指すように、たとえばペットボトルの1㎏の水を置いてみて、1㎏を指す。それからまあ体重とか量るのが筋なんですけれど、要するにそういうことですね。検査もそういうことでちゃんと機械が動いているか、すべての試薬を設定して、精度管理の試薬を入れたら、たとえば精度管理の試薬が指定している値が出るか、その値が出てはじめて検査ができるという感じになります。
ヨーコ:患者さんの検査の血液とかそういったものは、まず試薬で確かめてから検査をする。
橋本:精度管理用試薬を検査して、その値が基準内に入っていたらそれでOKで、はじめて患者さんの検体を検査するという手順になります。
ヨーコ:では、ザンビア、最初に行ったときはどういう感じだったんでしょうか?
橋本:ザンビアは2004年くらいから主にアメリカのお金で、特にHIVの患者さんに対する検査の強化ということで大規模にいろいろな機械が入ってきました。その機械が入る前は、ザンビアの検査技師というのは、そういうふうに精度管理をちゃんとするということなしに、割と検査していたんですけれど、そういうのがいきなりドンと入ってきて、こういう検査する前にはちゃんとそういう精度管理をしないといけないんだよということにまず慣れることに時間がかかったんですね。で、わかってもなかなかうまくできないとかあって、私が赴任したときは、ようやく機械が入ってから4年くらいたったんですけれど、ある病院の検査室では全然しないとか、あるところではしても、なんか精度管理している割にはあまりにも値がおかしいとか、そういうことが頻発していました。

■ 「ハシモトの血を使え」

ヨーコ:いくらやっても値がおかしいというのをいろいろ調べてわかった、その調べ方はどういうふうに調べたんですか?
橋本:はい、それは一応、基準となる検体というのが得るのは難しかったので、自分の血を使って......
ヨーコ:自分の血というのは、橋本さんの血を?
橋本:はい。それを採って、それを同じ時間に同じように保存したやつを、ほとんど同じ時間に、たとえば対象検査室が3つあったとしたら、3つの検査室に測ってもらって、同じ項目で、同じ機器で。そうすると、やっぱりどれくらい値が違うというのがわかるんですね。
ヨーコ:けっこう一目瞭然になる?
橋本:一目瞭然でわかります。
ヨーコ:じゃあ、こんなにいろいろ違うのはどうしてだかわからないから、自分の血を使ってやってみてください、みたいな感じになったわけですか?
橋本:はい。
ヨーコ:そうしたら、ぱっとわかったと。
橋本:はい。
ヨーコ:なるほど。現地への人の溶け込み方というか、そういうところがすごいですね。
橋本:やっぱり真剣さを、ただ検査室を訪問して紙の上でこれが悪い、あれが悪いとチェックして、10分くらいで「はい、さようなら」じゃ、向こうもそれだけで終わっちゃう。
橋本:やっぱり検査技師としての存在価値は精度管理にあると思うので、それが回り回って患者さんの命、それを担保するものだから、それはやっぱりどんな国にせよ、この業界で働くには鉄則なんです。それはやっぱりわかってほしいということで、真剣にとらえてほしいので、それだけ自分の血を使って測ったというのもあります。で、一番わかりやすいのは、「これハシモトの血なんだ」と言うと、みんなちゃんと「あっ」という感じで真剣に測ってみますね。
ヨーコ:なるほどね。ちょっと行って視察して「はいどうも」っていうんじゃなくて、もう「ハシモトの血を使え」と、その熱さで精度管理の重要性を説いていく。現地の人に溶け込んで、自分の身体を使ってまで、現地の人たちのスキルを上げることにこだわるというのは、やっぱりそういうところにあるんですか?
橋本:はい、そのとおりです。

■ 「援助から自立へ」が目標

ヨーコ:そのほかにも、やっぱりそこから広がっていく国の発展ということも見えたりするものですか?
橋本:はい、保健医療はやっぱりその途上国の医療に使えるお金というのは限られているし、やっぱり自立していかなければいけないんです、将来はね。そのためには、こういう援助も必要ですけれども、彼らが自活して生きる、それはやっぱり雇用ということも考えるんですね。こういう保健衛生と雇用って一見何にも関係ないようですけれど、ちゃんとみんなが職があって、働けるようになったら、それなりに税金も回ってある程度のお金も、医療に使えるお金も増えるし、あとは特に若い世代はそうなんですけれど、ちゃんとみんなに認められる日常やる仕事があるというのは非常に精神的にも保健衛生でもいいことなんですね。それは、そういうのがないと逆にアルコールに走ったりとか薬に走ったりとか悪いことに走ったりとか、よくない性行為に走ったりとか、そういうのもあるんで、2つの意味で雇用を増やす、特に保健医療の裾野分野では単に医療従事者だけじゃなくて、たとえば物をきっちり供給するとか、その温度管理のこととか、あと電気とか水のインフラも悪いんで、それを強化するようなことの裾野を広げるという意味でも雇用を増やしていって、それでできるだけ多くの人がなるべく安定して、まともな仕事、法律を侵さない、ちゃんとみんなに認めてもらえる仕事に就いてやっていくことが、私は最終的には重要なことだと思います。

ヨーコ:なんか日本だと当たり前にできているようなことが、やはりそういった国のすべてのことということも非常に大事だし、その個々の検査技師のスキルを上げていくということも重要なんですね。

■ 臨床検査技師は医療を支える裏方

ヨーコ:マスター、なんか今日はいつもとはちょっと違った視点の国際協力だったような気がするんですけれども。
マスター:そうですね、かなり違いますよね。
ヨーコ:検査技師というのは、私、初めてお話した気がします。
マスター:ああ、そうですね。病院、医療というと、どっちかというと医者とか看護師さんとか助産師さんとか、直接患者さんに関わる方たちが目に見える、あるいはそういう人たちの活躍が目につくということだと思いますけども、先ほどお話したように裏方というか、裏では検査をして正確な値を出してくれる、そういう臨床検査技師さんとか放射線の技師さんとかほかの方たちもそうです。そういう方たちの活躍なくしては正しい、あるいはより適切な医療なりは提供できないという状況だと思います。
ヨーコ:検査の機械もどんどん高度になっていくから、これからますます重要なお仕事ですよね。
マスター:そうですね。

ヨーコ:いかがでしたか? 今回は「アフリカでの検査技師活動-精度管理を充実させるために」をテーマに、国立国際医療研究センターの橋本尚文さんからお話をうかがいました。お相手は、
マスター:マスターの明石秀親と、
ヨーコ:香月よう子でした。それではまた来月、第3火曜日午後5時10分にお会いしましょう。この番組は、生きる力をともに創る、国立研究開発法人 NCGM国立国際医療研究センターの協力でお送りしました。

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