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グローバルヘルス・カフェ

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聴く「第10回「世界基金-お金を届けるシゴト-」(2014年12月16日放送分)」


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)
永井:永井 真理(国立国際医療研究センター/医師)

■ オープニング

ヨーコ:お元気ですか? グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。
国際医療協力にかかわる人たちが通うグローバルヘルス・カフェ、ここのマスターはとっても面白いので私、気に入って通っているんです。では、入ってみましょう。


■ 2014年は日本の国際協力60周年

マスター:ヨーコさん、2014年は、日本が国際協力を始めて60周年だって知ってた?

ヨーコ:え、60周年? やっぱり、昔といまでは協力の仕方も変わるんですか?

マスター:昔といまというか、いまもやってるんだけど、たとえば、日本とどこかの国っていう、2国間での協力があるでしょう。そのほかに国際機関、たとえばユニセフとかあるいは世界保健機関WHOとかの協力もありますよね。

ヨーコ:国が集まって協力するということですね。

マスター:そうそう。そのほかにNGOってあるのも知ってると思いますけれど。

ヨーコ:なるほど。

マスター:そのほかに21世紀に入って新しい枠組みができてきたんですよ。

ヨーコ:新しい枠組み?

マスター:そうそう。たとえばその1つに日本が提唱した世界基金というのがあるんですよね。

ヨーコ:世界基金。あんまり聞き慣れない言葉ですね。

マスター:そうですよね。永井さんが今日来ているので、永井さんに話を聞いてみるといいと思いますけどね。彼女はもともと内科医で、国境なき医師団とかで現場を積みながら、その後、国立国際医療研究センターに来て、さらに現場経験を積んで、その仕事をしながら世界基金の仕事もしている人なんですよ。

■ 世界基金は3疾病に対応するための貯金箱

ヨーコ:永井さん、世界基金って初めて聞いたんですけれど、これはどういったものなんでしょうか?

永井:世界基金というのは、エイズと結核とマラリア、この3つの病気を何とかしようと思う人たちが集まってつくったものなんですね。
これは、何とかしようと思った人というのは国でもいいし、個人でもいいし、お金をたくさん持っている財団、それからNGO、何でもいいんですけれど、そういう人たちが自分が出せるお金を貯金箱みたいにして世界基金に出して、それでエイズや結核やマラリアの患者さんがたくさんいる途上国の人たちが「このお金をうちではこうやって使いたいと思います」と、そういうお手紙を世界基金事務所に出すんですね。そうすると、世界基金事務所がその貯金箱からお金をその国に配ると、こういう仕組みの組織なんです。

ヨーコ:なるほど。つまり、いままでは国の集まりとか、NGOとかあったけれど、そういう垣根を取っ払って、お金を出したい人が、どういう人でもいいので出してもらうという形になるわけなんですね。

永井:そうなんですよね。

ヨーコ:けっこうお金は集まってくるものなんですか?

永井:これができ上がってきて、2002年ができた年で、いま2014年ですけど、いままでに3兆円。

ヨーコ:すごいですね。たとえば、日本は出しているものなんでしょうか?

永井:日本は、どういう国が出しているかという国の順番でみると世界第5位出していて、1,800億円なんですね。ちょっとお金の単位が大きすぎてイメージができないんですけれど。

ヨーコ:そうですね。

■ 永井さんの仕事はお手紙を読むこと?!

ヨーコ:すごい、そこで永井さんはどんなお仕事をなさっていらっしゃるんでしょうか?

永井:私がやっている仕事は、さっきちょっとお話したんですけれど、このお金を使いたいと思っている途上国が事務局にお手紙を出しますよね。その手紙を読んで、ここの国にはいくらいくら出してもいいんじゃないですかと、そういって事務局に技術的にアドバイスをする、そういう役割です。

ヨーコ:審査のようなお仕事ということになるわけですか。

永井:はい、そのとおりですね。正式にいうと、テクニカルレビューパネルなので、技術的に審査をする委員会、そういうところの委員です。

ヨーコ:いま永井さんはお手紙とおっしゃったんですけれども、「こういうものに使いたいと思います。よろしくお願いします」みたいな、そういうお手紙が来るわけですか。

永井:そうだったらいいんですけれど、そのお手紙は「いま、うちはこんな大変なことになってます」から始まって、「今度はこういうことをしたいです」と、「そのためには何にいくら使いたい」と。「これだいたい3年から5年くらいかけてこれだけ使いたい」と、長いお手紙で、実はいまちょうどそのお手紙の1つを読み直しているところだったんです。ご覧になります?

ヨーコ:もしかして、この目の前にあるA4の紙にA3の紙も入っていて、これ何ページくらいあるんだろう、マスター。

マスター100ページくらい? もっと?

ヨーコ:大変。全部英語。

マスター:細かいですよね。

永井:はいそうですね。実際は日本でこうして見ているのではなくて、年に何回か世界基金事務局てジュネーブにあるんですけれど、そこに呼ばれて1週間読み続けるんですね、こういうのを。これ1つの国ですけれど、1回にたぶん40カ国とか50カ国からの申請書を40人くらいで読みます。


■ ホテルにカンヅメの1週間  

永井:具体的にいいますと、まずジュネーブに、空港に到着しますよね。そうすると、「ようこそ永井真理さん」っていうボードを書いた人が待っていて、そのまま車に乗せられてそのままホテルに連れて行かれるんですね。
ホテルに入ると、このお手紙の山が、これは「永井真理さんが読む用」とそういって置いてあるんです。「さあ、じゃあこれを読み始めてください」と言われて、だいたい1週間なんですけれど、一晩にお手紙を1つか2つ読んで、同じお手紙を4人が同時に読むんですね。で、次の朝、その4人が集まって、「この手紙について自分はこう思う」と、「この部分はいいんだけど、ここはちょっとまずいんじゃないか」、みんなでディスカッションします。

ヨーコ:そのディスカッションってどんな様子なんですか?

永井:たとえば、そのお手紙がマラリアに関係することだったら、マラリアの専門の人がそこに2人、私は全体を見る係なので、そういう保健システムという全体を見る人は2人いて、マラリアの人はマラリアの視点から、「ここは大事、ここは違う」。でも私はマラリアじゃないので、「マラリアはそうかもしれないけれど、この国全体を見たらこっちは譲れない」って、そういうかなり真剣勝負の議論を続けます。

ヨーコ:なるほど。そこで、「もう絶対私はここ譲れない」というような主張も永井さんはなさるわけですか?

永井:しなければいけないと思うことはしますし、でもここは譲れるとか、ここはそんなに大事じゃないな、どうやって最後まとめるかも非常に大事なので、12時までにまとめて、午後はそういう小さいグループでディスカッションしたことをみんなが全体会議場に持っていって、自分たちはこう思う、と。そこでまた全員でディスカッションし直すんですね。
だから私たち4人で決めたことが、午後、ひっくり返ってもう1回読み直しになることもあります。

ヨーコ:その午後の会議が終わったら、また申請書、お手紙を読むという作業を、どれくらい繰り返すんですか?

永井:1週間。午後会議が終わって、それがたぶん6時、7時に終わって、同じホテルの会議場で会議をしますので、晩御飯も同じ所で用意されたものをかっこんで食べて、夜、その後、自分の部屋に駆け足で戻って、次の日の朝ディスカッションする分を読むと。それが1週間。


■ 10年で見えてきた成果

ヨーコ:どういったところにやりがいというか、があるんだろう。

永井:私の場合は、いままで、これとても援助の上流のほうの話なんですけれども、この仕事そのものは、でもいままでは国境なき医師団や他の医療センターのお仕事では、実際に村とか町のちっちゃな保健センターで人々がどういうふうなことに困っているのか、あるいはそこになんでこの薬がないんだろうとか、このマラリアの人は本当は蚊帳があったらマラリアにならなかったのになって、そういうのがすごくあったんです、いままでの経験で。
いまこの仕事をすると、あ、ここでこういうふうにちゃんとお金を出せば、そこにお金が行くんだと、地道に現場でやっている人たちの助けになるような仕事ができるというのが、やりがいです。

ヨーコ:この世界基金が2002年に設立されて少したっていますけれど、何か見えてきた成果みたいなものはありますか。

永井:なかなか一言で言うのは難しいんですけれども、たとえばセネガルでしたら、ずいぶん昔はたくさんの方がマラリアで亡くなっていたのに、世界基金から定期的に蚊帳がもらえるようになったのですね。
すでに村の人たちは蚊帳があったらマラリアが予防できるという知識はあったんです。で、蚊帳を配る人もいた。でも蚊帳がなかった。そこに世界基金が蚊帳をくれるようになって、マラリアの患者さんの数が減った。あるいはHIV、エイズの患者さんで薬そのものがなかった国、そういうところに薬が届くようになってエイズで亡くなる方が減った。そういう成果ははっきり出ています。


■ 理想は世界基金が必要なくなること

ヨーコ:膨大な申請書と1週間、英語の会議と、その後にはそういったことが出てくるわけなんですね。そのほか、支援されている国の自立というようなこともだんだん見えてきたように思えるんですが。

永井:そうですね、こういう仕事をしていると、本当の理想的な世界というのは、私たちの仕事がなくなることなんですね。それぞれの国が自分の国の人たちの面倒をちゃんと自分で見られるようになると。
今回の審査ですごくうれしかったことが、みなさんよくリゾートで行かれるタイがまだ国としてはこの大量のお金をもらえる資格があるんです。でも、自分たちはもう十分自立できると思う、と。
今回の世界基金からのお金3年分を最後に、次からは自分の国の病気の人は自分の国のお金で面倒を見ますと、そういってジュネーブに連絡してきたんです。それはすごくうれしいと思いました。

ヨーコ:そうやって卒業していく国が増えていくというのもうれしいですよね。


■ ポイントは仕組みづくりと人材育成

ヨーコ:ねえマスター、世界基金の話、はじめて聴いたけど、とっても面白かったです。

マスター:ああ、そうですか。

ヨーコ:これからどうなっていくのかなあ。

マスター:永井さんの例でもそうですけども、新しい仕組みをつくるだけでは、実は、必ずしも現場がよくなるわけではない。やはり地道にやっていかなければいけないのではないかと、そのときに現場も知っていて、その上流にかかわることによってより適切なやり方なり、そういうことが生み出されるという2つが必要なんじゃないかと思いますけれどね。

ヨーコ:なるほどね。世界の状況に応じて仕組みをつくっていくということがすごくひとつ大事であるということと、そこで活躍する人材を地道に育てていくということが、重要ということですね。

マスター:そうですね。

 

ヨーコ国立国際医療研究センター、そしてグローバルヘルス・カフェはホームページがあります。ぜひチェックしてくださいね。
いかがでしたか? 今日は「世界基金―お金を届けるシゴト―」と題して、国立国際医療研究センターの永井真理さんからお話をうかがいました。

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