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グローバルヘルス・カフェ

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※音声はこちらからお聴きいただけます。

■ カフェへようこそ!

香月:お元気ですか?

グローバルヘルス・カフェ。

香月よう子です。

グローバルヘルス。世界の国の人々の健康を守る。

そんな名前の付いたカフェって、ちょっと変わってませんか?

でもここのマスターは、とっても面白い人だし、お客さんも、国際医療協力でいろんな国に行っている人が多いので、私すごく気に入って通っているんです。

今日もマスターはいろんなお話聞かせてくれるかな。

では早速、カフェに入ってみましょう。

■ グローバルヘルスと予防接種

香月:マスターこんばんは。

マスター:ああ、よう子さん、いらっしゃい。

香月:あれ、マスターどうしたの、その腕。

マスター:インフルエンザの予防接種したんですよ。

香月:なるほどね。マスターがインフルエンザになって、お店に来るお客さんにうつしたら大変だもんね。

ところでマスター、グローバルヘルスって、世界の、特に開発途上国の健康問題を考えるってことですよね。開発途上国でも、予防接種ってよく行われているの?

マスター:もちろんですよ。例えば結核とか、ポリオって言われている小児麻痺とか、ジフテリア、百日咳、破傷風、はしか、などがあります。こういうのをね、世界中のいろんなところでやっている。

香月:うーん、世界中でやってる・・・具体的にはちょっと思い浮かべにくいですね。

マスター:じゃあもっと詳しい話は、あそこの蜂矢さんに聞いたらいいよ。彼は国立国際医療研究センターというところで働いていて、元々小児科の先生なんだ。

■ ワクチンを世界の子供に届けるために

マスター:蜂矢さん。

蜂矢:あ、こんにちは。

香月:こんにちは。蜂矢さんは、感染症の予防の専門家で、いろんな国に行かれているんですか?

蜂矢:そうですね。

香月:例えばどんな国に?

蜂矢:アジアでしたら、ラオス、ブータン、中国、モンゴル。アフリカだったらこの間はナイジェリアに行ってきました。

香月:なるほど。でも今日の話は簡単だね。ワクチンを送って、蜂矢さんが注射を打てばいい!ってことですよね。

蜂矢:いやいや。そんな簡単なことじゃないんですよ。この予防接種。ワクチンという薬を使って、人に免疫力をつけて感染症を予防する。これが予防接種ですけれども、これをきちんと世界中の子供たちに届けるというのは、なかなか難しい仕事なんですよ。

■ お金の問題

香月:例えばどういうところが難しいのかなぁ。

蜂矢:ひとつはお金の問題がありますよね。毎年世界で1億3千万人の子供が生まれているんですけども、その子たち全部をカバーするっていうのは、先進国だったらできると思うんですが、財政状況の厳しい開発途上国ではなかなか難しい。これがひとつありますね。

香月:だから、ワクチンを途上国へ送りましょうみたいな運動があって、バスとかもよく送ったりとか、何かを集めてワクチンを送るみたいなことをやっていますけども、そういう感じで?

蜂矢:それはひとつなんですけど、ワクチンを届けたらそこでおしまいというわけではないんですね。

■ ワクチンの役割を理解してもらう

蜂矢:というのはですね、ワクチンで、病気が、感染症が予防できる。先ほどマスターがおっしゃったような、病気が予防できるということを、地域の住民の方に知っていただく。これはなかなか実は難しいんです。

香月:どうしてかなぁ?

蜂矢:日本に普通に住んでいると、日本語でみなさん読み書きをして、ほぼ全員が小学校に入ることができます。しかし開発途上国ではそうではなくて、いろんな民族が住んでいていろんな言葉を話したりするんですね。そうすると、共通語が事実上なかったりする国もあるわけですね。そういうところでは、予防接種の重要性。みんなでワクチンを打ちましょうというメッセージも、なかなか伝わりにくいんです。

香月:私たちは紙とかでお知らせをいただいたりとか、それから広報紙みたいなもので見ればわかるけれども、そうはいかない国がすごくたくさんあるってことですね。

蜂矢:そうなんです。

香月:じゃあどうやって伝えればいいのかな?

蜂矢:新聞ですとか、テレビ・ラジオを使いますけれども、それもひとつの言語ではなくて、いろんな言語で作らなきゃいけない。元々その病気の名前とか、ワクチンという言葉がその言語にあればいいですけども、ないこともよくあるんですね。ですからそこの説明から始めなければいけないとすると、これは結構難しいです。

香月:なるほど!紙だけじゃなくていろんな方法で伝えるっていうことですよね。

■ 予防接種のキャンペーン

蜂矢:例えばこれは東南アジアのラオスという国で、予防接種をみんなで打ちましょう!というキャンペーンをしたときに、子供たちを連れてきて、歌と踊りを披露したんですね。ちょっと見てみましょうね。

香月:子供たちが並んでいてすごくかわいらしい!子供たちが並んで舞台に立って20人くらいで、一緒にダンスを踊っていますよね。

マスター:いくつくらい?

蜂矢:これは5~6歳くらいに見えますね。

香月:マイクを持って歌っていますけど、何を歌っているんでしょうか。

蜂矢:これは「予防接種は大切だよ~みんなで打ちましょうね~」という内容を歌っているそうです。

香月:こんな風に歌にして伝えるという方法もあるわけですね。

蜂矢:そうですね

■ 人材の育成も欠かせない

香月:その他にも問題はありますか?

蜂矢:予防接種というのは、ほとんどが注射器を使って、針を人の体に刺す、という行為ですよね。これ実はハードルが高いんですね。つまり、安全に、しかも確実に注射するというのは、それなりの知識と技術が必要になります。

香月:お医者さんとかじゃないとダメなの?

蜂矢:必ずしもお医者さんでなければならないわけではないと思います。日本ではお医者さんがすることは一般的でしょうが、開発途上国ではお医者さんの数自体が少ないので、他にも健康アシスタントであるとか、そういった人たちがやったりします。

香月:そのワクチンの打ち方をトレーニングするとか、トレーニングの養成方法を考えるというのも、蜂矢さんたちの活動のひとつ?

蜂矢:そうですね。必ず、我々が開発途上国へ行ったら、そこの国の厚生労働省のお役人さんみたいな方々、そういう方々と一緒に計画を練って、トレーニングならトレーニングの日程表を作ったり、トレーニングに必要な品々を準備したり、そういったことを一緒にやります。

香月:なるほど。予防接種を打つ人と、打つことがわかるように言葉や歌で伝えることができたら、結構オッケー?

蜂矢:いえいえ。まだまだあるんですよ。

香月:結構大変ですね、これね。

■ ワクチンの在庫管理、そして運搬・保管方法を考える

蜂矢:予防接種って、先ほど言いましたように、毎年1億3千万人生まれる子供に打つわけですよね。国によって人口は違いますけれども、数十万人・数百万人生まれる子供たちに、きちんと打つ。それなりの量になります。

香月:ワクチンがですね。

蜂矢:ワクチン、それから注射器。それから溶解液という、ワクチンの入っている粉を溶かす水ですね。これも別に保存しなければいけなくて、これをきちんと必要な分だけ届ける。運搬という作業は結構大変です。というのはですね、普通の車やトラックで運べるものではなくて、温度管理が必要なんです。

丁度、我々がスーパーマーケットで買う卵を思い浮かべていただくといいと思います。卵は養鶏場で採られてから、まずきれいに洗って、市場に出て、そこから小売店へ。そして最後には家庭の冷蔵庫に入るわけです。

同じようにワクチンも、大抵これは開発途上国ではないところで作られますけれども、それを飛行機で空輸して、そしてその国の首都の冷蔵庫に保管して、そこから州に下り、県に下り、最後には村まで行くわけです。その間、常に冷やしておかなければいけない。

香月:そうなんですか!

蜂矢:これが結構手間なんですね。

香月:その、村に届けるまでというのが、意外と大変なんじゃないですか?

蜂矢:そうなんですよ。届けることも大変ですし、その村に予防接種担当の人がいたとして、あと一月くらいしたら、このワクチンが無くなるというのを予想して、そろそろ無くなりそうだから、次の在庫くださいと言ったりですね、そういう計算方法も。

香月:在庫管理っていう考え方ですね。

蜂矢:そうです。これもそれなりの技術が必要です。

香月:村に届けるまでというのは、ヘリコプターか何かでぴゅっと持っていったりするんですか?

蜂矢:ヘリコプターはかなり高額ですので、トラックなどで送ったりするんですが、それもただのトラックではなくて、冷蔵運搬車といって、中に冷凍庫と冷蔵庫が両方入っているようなものを使います。

香月:輸送の手段を考えていくのも、蜂矢さんたちの活動のひとつということなんですね。

■ 本日のコーヒー:飲みやすいボリビアのコーヒー

香月:ところでマスター。今日の飲み物はなんですか?

マスター:これはね、ボリビアのコーヒー。

香月:ボリビアのコーヒー?なんか、私たちが普段飲むコーヒーにすごく似ていて飲みやすい感じがする。ね。

マスター:あまり特徴がないといえば特徴がないんだけど。まぁそこが特徴かもね。

香月:そういう特徴があるんですね。

マスター:ボリビアではユンガスっていう地方がコーヒーの産地で、黒人系の人が多いところなんですけども、そういうところで作ってる。

香月:マスターは見たことある?

マスター:私はそこじゃなくてもうちょっと南のほうで、南というか低地のほうで見たんです。村に行くと、お水を入れたタライというかな、その中にコーヒー豆をぼんぼん入れて、コーヒー豆の周りを腐らすんですよね。で、中の種のところだけ取って、天日干しにして、それがコーヒーになるわけですね。

香月:そこまで聞いちゃうと、薫り高い感じがしますね。

マスター:なんとなく村の感じがするでしょ?

■ 現場を見て仕組みを作ることが重要な仕事

香月:私ね、蜂矢さんが予防接種しに行ってると思ってたんだよね、マスター?

マスター:うんうん。そうね、グローバルヘルスっていうとね、なんとなく・・・例えば治療するとか、或いは注射をするとか、そういうことを、そのものをやりに行くって思いがちなんですけど。どっちかというと、そういうことがうまくように。仕組みを作っていくことも重要な仕事というか、分野なんです。

香月:ふーん。

マスター:蜂矢さんもね、地方を見て回ることが多いはずなんで、蜂矢さんにその辺は聞いてみてもいいけどね。

香月:地方を見て回るってどうして?

蜂矢:やっぱりですね、現場を知るというのが一番大切だと私は思うんですね。どこの国の厚生労働省にも、きちんとした法律を作る人がいて、「こうしなさい、ああしなさい」ということを村の人々に訴えたりするんですが、実は法律が立派でも、それを実行することができないという状況があるわけですね。

香月:さっきみたいに字が読めないとか。

蜂矢:そうです。或いは人がいないとか、設備がそもそもないとかですね。或いはお金がないから、ワクチンを届けるバイクのガソリン代がない、とか。そいうのがとてもよくあって。そうすると、実情に合ったように変えていかなきゃいけないんですね。でも、実情がどうなのかっていうを、しばしば政府の役人が知らなかったりするんですね。

香月:じゃあそれを蜂矢さんが見て、こうしたらいいとかこうしなさいって言う役目になるわけですね。

蜂矢:いえいえ。そうではなくて。実際に一緒にその政府の役人と、村まで行くってことです。行って、そこの村の、例えば保健担当者の方とディスカッションをして、うちの村ではここが問題なんです、ということを直接お話してもらうんですね。じゃあどうしたらいいだろう、ということを、みんなで考える。そういうプロセスがとても重要だと思います。

■ ラオスの村でのエピソード

香月:なんか一晩語り合ったみたいですね。

蜂矢:そうですね。ラオスの村にたまたま調査に行きまして。思ったより目的の村が遠くて、帰れなくなりまして。仕方なく、近くの家をコンコンと叩いたら、そこがたまたま健康ボランティアさんの家で、泊めていただいたんです。おかげで一晩ゆっくり、村の状況を聞くことができました。

それまで予防接種チームが村に来ていて、その健康ボランティアさんがアレンジをしていたんです。しかし実は、予防接種で、ワクチンで、感染症を予防できるということを知らない、ということがわかりました。10年以上その仕事をしているのにその人は、子供がはしかになったりするのは、神様が決めたからだとずっと思っていたんですね。そうじゃないんですよと。そうじゃなくて、子供の感染症をこうやったら守れますよということを、一緒に説明しました。

香月:厚生省の人もいろいろわかったんじゃないですか?

蜂矢:そうですね。それはとても良かったと思います。

香月:なんかすごく興味深いなぁって思いました。

蜂矢:詳しいことは、国立国際医療研究センターのホームページに、写真とか、載せていますので、是非ご覧ください。

■ おわりに

香月:マスター、今日もいろんなお話聞くことができてすごく楽しかったです!

マスター:それはよかった。蜂矢さんね、ああ見えてもね、コーヒーが詳しい。

香月:ええ!じゃあ今度は蜂谷さんのコーヒーも飲まないとね。

マスター:そうそう。ぜひ。

 

香月:グローバルヘルス・カフェ。いかがでしたでしょうか。今回は、「ワクチン~命を守るクスリ」と題して、感染症予防をテーマに、国立国際医療研究センターの蜂矢正彦さんからお話を伺いました。お相手は、香月よう子でした。それではまた、お会いしましょう。

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