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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.321~ジャズ・ハーモニカの巨匠】

 2回続いた「追分山荘通信」でも記したように、この8月は東京を離れておりTVも新聞とも無縁な信州の追分山荘暮らし。世間での出来事などは殆んど関心外と言うよりも分からなかった。そして月末に自宅へ戻ると、あるジャズ媒体の編集長から「トゥーツ・シールマンスが亡くなったので、追悼文を頼みたい...」と言う依頼メールがあった。ジャズ・ハーモニカと言う分野を確立したこのベルギー出身の偉大なジャズミュージシャンは、新聞をめくると確かに8月22日に生地ベルギーのブリュッセルで亡くなっている。記事では大往生とあり、享年94才、合掌!
 
と言うことでその追悼文はどうにかまとめ上げたのだが、それを基に今回のこのコラムも仕上げている所。

 さてそのトゥーツだが、その本名はジャン・パティスト・フレデリック・イシドール「トゥーツ」シールマンスと言う異様に長いもの。愛称のトゥーツは、トゥーツ・カマラータと言う欧州で人気だったトランぺッター&バンドリーダーが彼のアイドルだったことに由来する様だ。彼はその音楽的功績により、2001年にバロン=男爵の爵位を授けられており、ジャズ界では稀有な高貴的存在になったが、日本で言えば大正生まれで考えられない御年。その死亡ニュースでは、「ハーモニカの世界的巨匠」と言う形容句が使われていたが、中には「伝説のハーモニカ名手...」とか「音楽界の人間国宝」等ともあった。ぼくならば「ジャズ・ハーモニカ(=トゥーツ)を世界に認識させた真のイノベーター」とでも書きたい所。

 
彼は最小楽器(ハーモニカ)を自在に扱い心行くまで唄わせ、多くの人の心を捉えてしまう、最大の成果を引き出した音楽の達人であり、ジャズだけでなくポップスやロックなど、世界中の様々な分野のミュージシャンやシンガー達からこよなく愛され(あのジョン・レノンも影響を受けたとされる)、自身のアルバムのゲストに迎えようと図った垂涎の人でもあり、いま注目のグレゴリー・マレットを始め、ヘンドリック・ミュールケンス、続木力等々、内外のジャズ・ハーモニカ奏者のほぼ全員が、その薫陶を受けているとも言える偉大な存在でもあった。一方ジャズを愉しむ余裕のあるファンならば、ほぼ例外なくこのハーモニカ親父(爺さん)の愛称を持つ名匠(口笛の名手でもある)の音楽が好きで、ぼくの周辺で彼を嫌いだなと言う輩には、まだお目にかかったことが無い。そういった意味でもジャズ界で珍しい誰からも愛される存在でもあった。

 
1970年代以降の彼は、ジャズ・ハーモニカの巨匠として世界中から認められ、クロマティック・ハーモニカと言う極小な器の中で、恬淡としながらも最大限の情感表現を描き出すことに腐心、ハートウオーミングにしてそこはかとないサウダージを漂わせた、独特で唯一無二なハーモニカ・ワールドを確立したのだった。数年前91才の折、現役引退を宣言、多くのファンを悲しませた彼だが、その生涯に30枚を超すリーダーアルバムを発表、ゲスト参加した作品は数知れず...、当然そこには駄作とされる様なものは一切無い。中でもぼくが好きなのは、イヴァン・リンス、ミルトン・ナシメント等、ブラジルのMPBのスター達と共演した2枚の『ブラジル・プロジェクト①&②』(92・93年/RCA)。彼のハーモニカとブラジル音楽、この絶妙なマッチング、まさに応えられないもの。その他のアルバムもどれも珠玉と言った表現がぴったりな素敵なものばかりで、是非皆様も一度はお聞き頂きたい。いずれにせよジャズシーンは、また一人惜しい好人物&名職人を永遠に失ってしまった。再度、合掌! 
【今週はテイスト・オブ・ジャズプロデューサーの小西啓一氏による木全信氏追悼特集でお送りしました】
M1
「Killer Joe/Benny Golson
M2「巴里 北駅 印象Kenny Drew」
M3「My Funny Valentine/European Jazz Trio
M4「アルハンブラの想い出/Charlie Mariano 

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