【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.795~追分通信2025 読書三昧~】
信濃追分の山荘にいると、TVは無いし新聞も無し。2年ほど前からは、オーディオ機器や千枚を超えるCDも、個人的事情から廃棄したりプレゼントしてしまったりで、今は殆ど何も無しの状態。まあこうなるとここでの愉しみは、必然的に早朝のウオーキング、歩きとバスでの買い物(生活に必須...)、軽井沢と御代田の町立図書館からの貸し出し読書...ということになる。早朝ウオーキングは、いつものようにヨーロッパの運河地域を思い起こさせる(と言う触れ込みだが、行ったことなく実際は...)、御影用水脇をメイン周回にした5~6千歩の散策だが、ここの良点はなんと言っても用水で遊ぶ鴨達。着いた日には一羽も見かけず、今年はいないのか...といささかがっかり...したが、翌日には早朝になんと10数羽が群れ遊んでいて和ませてくれた。以降は大体10数羽が群れており、まあそれをウオーキングの傍ら眺めているだけで、ホッと落ち着いた安心した気分になれる。但しウオーキングは日増しにチャンジー(爺さん)度が増し、もう殆ど無理が利かない。特に今年は超絶熱波日続きだとさらに駄目で、今までなんてことも無かった処も、すぐにヘタってしまいもう青息吐息。
一方これに反し読書の方は、かなりな好調振り。東京にいると気持ちはあっても余り読めないものだが、こちらではやることも少ないだけに数はかなりこなせる。音楽モノからハードボイルド、短編集、山岳紀行、エッセイ、画集等など、正に雑食で乱読傾向そのもの。ただ経済関連とか哲学書、実用書の類は全くダメで、つくづく役に立たない読書なのだと自覚する。
音楽モノではまずは「NEIRO よい音色とは何か」と言う横川理彦と言う人の音楽本、タイトルにつられて読んだ。コンピューターと生楽器を両立させるミュージシャンで、音楽プロダクションの代表も務めている人のようで、音の3要素のうちの音色に焦点を絞り、楽器や肉声、アンサンブルなど多方面から音色について述べたもの。音楽の大きな魅力である音色の秘密を解き明かすと言ったものだが、わかりやすくクラシックからジャズ、ロック、ワールドミュージック迄、その目配りの広さ、細やかさ等、かなり示唆に富む、教えられる処も大の興味深いものだった。
そしてもう1冊は、2年前に惜しくも亡くなった天才、坂本龍一の「ピアノへの旅」と言うトーク本。伊藤伸宏と言う音楽学者が教授こと坂本龍一に、色々と質問する形式の音楽本。彼がピアノと音楽について率直に語る興味深い内容で、「アルテス・パブリッシング」と言うクラシックがメインの音楽出版社から出されている。この意欲的出版社の代表には、以前に我がジャズ番組にも登場してもらったこともあるが、「静かで弱い音楽へ...」というサブ書きがあるとおり、教授の音楽への考え方、ピアニスト(下手なピアニストとして自嘲しているが...)作曲家としての彼の音楽観が、特に静かで弱いという視点で率直に語られていて、かなり面白かった。彼には医師から、癌で余命を宣言されてからの毎日を綴った、あと何回ぼくは満月を見るだろう、という哀切な音楽エッセイ集がありこれもお勧めだが、バッハからショパン、ドビッシー、そしてジャズ、ワールドミュージックまで、ピアノを基軸に縦横に語り尽くすその語り口も抜群。ピアニストとして彼のお墨付きは、グレン・グールドそしてミケランジェリ。ジャズではビル・エヴァンスだと言う。一方彼が受け付けないのが、クラシックのルービンシュタインとジャズのオスカー・ピーターソン。共に屈指の弾き手だが、静かで弱い...の対極に位置するピアニストだけに、彼の言いたいこと、感じ方も良く理解できる、示唆に富んだピアノ音楽本である。教授のピアノ本につられて文芸別冊の「グレン・グールド」も同時に読む。何回か改定された別冊書だが、こちらでは思想家の浅田彰と対談でグールドの魅力を語っていて、前述書も加えそのグルードへの傾斜ぶりも面白い。
一方、小説本ではぼくが大好きで、唯一と言って良いほぼ全編読破している女流作家、井上荒野(戦後の代表的作家・井上光晴の娘)の新刊「私達が轢かなかった鹿」(Ù-NEXT)を...。現代短編小説の最上位に位置する名手とも言える、その新刊は同じ出来事をその2人の当事者同士の視点で描く...と言う新機軸の短編集。6篇ほどが収められており、その筆致は流石という出来栄えで感服した。他にも面白本多々あるのだが、それらはいずれまたの機会に紹介させて貰おう。
【今週の番組ゲスト:ディスクユニオン の新レーベル『SPOON』担当 吉田綾さん】
M1「Hello! How Are You? / Caity Gyorgy」(『ハロー・ケイティ!』より)
M2「Baubles, Bangles and Beads / Caity Gyorgy」(『ハロー・ケイティ!』より)
M3「 (They Long to Be) Close to You / Diana Panton」(『soft winds and roses / カヴァーズ~私の好きな歌』より)
M4「 The Shadow of Your Smile / Carol Welsman」(『This Is Carol Love Song 20』より)






