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テイスト・オブ・ジャズ

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テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.568~ストイックに生きる】

  独特な光彩を放つニヒルでコミカルな俳優、田村正和が先日亡くなった。ぼくなどよりも少し年上だがほぼ同世代である。昭和の名優バンツマこと坂東妻三郎の次男にして、高廣、亮と言う3人兄弟は役者としても良く知られる存在。フジTVで放映された「古畑任三郎」などコミカルな役でも人気を博したが、元々は時代劇の大スター、バンツマの息子だけに、時代劇を得意とする役者で、「眠狂四郎」「大菩薩峠」などの当たり役を数多く持っていた。

 その彼当然ながら、一介のラジオ屋のぼくなどとは接点はないし、どんな人物かも良く知らない。しかし一度だけその実像に接したことがある。六本木にある高級居酒屋(=料亭)で、店の名前はもう忘れてしまったが、確か当時付き合いのあった電通の営業マンが、連れて行ってくれたのだと思う。その店は全体に明かりも薄暗く、隠微な雰囲気が漂っており、真ん中に大きな囲炉裏がある店だった。その一角にいかにも銀座かどこかの、高級クラブに勤めている感の派手な女性がいて、その彼女を横に侍らせ静かにお酒を飲んでいる一人の男性がいる。いかにもな雰囲気でこちらも同席が躊躇われるほどだったが、独特なオーラを放つ男性だった。顔を背けていたので分からなかったが、タバコを吸い出すと彼が田村正和だと判明した。2人はほとんど会話もせず黙ってお酒(日本酒)を嗜んでいたが、一つ一つの動作が、所作とも言えそうな優雅さを帯びており、何とも蠱惑的だったのが今でも忘れられない。

 店はその後何人かが入って来て、いささかうるさくなって来たので、御両人は早々に退散していったが、流石大スターと言うオーラを伴った立ち振る舞い、素晴らしく様になっていた。電通の彼も感心して「田村正和ってやはり凄いなー」と感嘆の声しきり。まあそれ以来このスターとは当然の様に、顔を合わせることは無かったが、今でもかなり強烈な思い出の一つではある。
 今回彼の死去のニュースが流れ、その秘密のベールに包まれた私生活なども話題になっているが、その人生は徹底したストイックな生き方、秘密主義、そして役者バカ精神に貫かれていたらしい。役が決まると母屋と別棟(あるらしい)の自宅では、別棟に一人籠もり食事も一人ですると言った徹底ぶり。家族との団らんはNYなど海外旅行の折だけだとも言われる。

 こうしたストイックな役者人生は、偉大なるスター、坂妻の生き方を範としたものと思われるが、バンツマさんが亡くなったのは彼が5歳の折だと聞く。それだけに色々な人から話などを聞き役者の生き様、そのスタイルを作り上げていたのだろうが、あの六本木の料亭での一瞬の邂逅でも、彼のストイック人生は垣間見れた気がする。ある意味役者、特に名優とも言われる存在は怖いものである。人になりきる...。その為には名優ロバート・デニーロなども、ボクサーに扮すれば毎日食べ体重を何ポンドも上げ、老人に...となれば自分の歯迄抜いてしまう。この執念たるや恐るべきもので、田村正和もその私生活を一切明かさない...と言うのも、そのなりきる執念・信念の賜物なのだと思う。

 少し前に田中邦衛が亡くなり、今は田村正和。対照的にも思えるこの2人は、役者魂と言う点では共通するものも多く持っていたはずである。ぼくのような市井の小心もののチャンジーにとっては考えられないほど、名優と呼ばれる人物は執念と集中力の持ち主なのだろうが、まあぼくのような凡人人生も、また良しとも思える今日この頃なのです。

【今週の番組ゲスト:ビブラフォン、マリンバ奏者のYUKARIさん プロデューサーの赤松敏弘さん】
M1「Sparkling Eyes」
M2「The Theme From Lilly」
M3「Little By Little」
M4「The Night Has A Thousand Eyes」


 

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