【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.789~ミロそして現代版画~】
スペインを代表する画家ホアン・ミロが亡くなってはや40年。昨年開かれた大々的なマティス展を見損なってしまい、なんとも悔いの残る限りだったので、今回上野の東京都美術館で開かれているミロ展には、何があっても...と意気込んでいた。だが結局は会期の終わり近く、今月に入ってようやく行くことになってしまった訳だが、見に行けただけでも本当に良かった。
今回の展覧会、ミロ展とだけあって回顧展などとは謳っていない。それだけにそう大々的なものでは無い感じでいたが、実際には回顧展で久しぶりの本格的展覧会とチラシにはあり、やはりそれなりの規模のもの。殆んどは彼の故郷=スペインのカタロニア地域の中心都市、バルセロナにあるミロ美術館の収録品だったが、90才まで生きた世界的な人気を誇る稀有なトーン・ポエム~抽象的詩情の画家、その全体像を知るにはまあ格好の展覧会だったと思う。
入ってまず目を引かれたのは、20代半ばに描かれた自画像。いくらかふっくらとした顔つきの自画像で、南米コロンビアの人気画家ポテロのものにも相通じるユーモラスな感じもする自画像で、これが結構面白かった。これ以降はパリのシュールレアリズムの影響を受けつつ、彼独自の抽象表現を確立して行く訳だが「明けの明星」などの有名な一連の星座シリーズなども、実際見ると単に明るく愉しい世界だけでは無く、かなりペシズムに彩られたものなのに気付かされ、些か驚かされたりもした。しかしこれも無理からぬところで、彼の制作意欲が活発な時代は、ファッシズムが席巻した時代。そのファッシズムも第2次世界大戦が終わって解消、欧州が自由謳歌となっても、故郷スペインは依然として独裁者フランコの君臨する専制世界。ミロはバルセロナから少し離れた、地中海に浮かぶ島に蟄居のような孤独な生活を送りながら、あの独自の詩情溢れる世界を進化・深化させていった。それだけに星座シリーズも一見明るそうに見えながらも、全体の基調は結構ダークな雰囲気も強い。そうした彼の画歴を見ると、特にこの所の世界の右傾化傾向や専制主義の台頭など、悪しき時代に退化しつつある情勢の中、ミロの批評性はこの「今」の時代に、よりその重要度を増している感もある。良いものを見せてもらった感多しです。
都美術館を出てすぐ近く、上野国立博物館表慶館で、伝統木版画技法による現代版画展が開催されており、版画好きとしてはこちらも見逃せない。芸大の学食で昼食を摂った後にそちらに向かう。版画の伝統技法(彫り、摺りなど)を今に引き継ぐ、アダチ版画技法保存在団が主催するこの展覧会、余り人はいないだろうと思ったのだが、さにあらず。インバウンド客や若い人の数も多くびっくりしたが、愉しい展覧会だった。漫画家や横尾忠則など現代画家の版画作品などが、体系的に並べられており、そこら辺りに若い人達も興味を惹かれているのかも知れない...。ぼく自身が最も興味深かったのは、草間彌生の富士山の色違い連作版画を、その完成までの道のり~彫りから摺り迄を見せてくれるドキュメント映像と、その実際の作品展示。これは実に興味深いものだった。
久しぶりに上野の森で半日以上を過ごし、やはりチャンジー(爺さん)とは言え、出不精は良くないと反省しきり。ミロと現代版画、実に良きものを見さして貰った、満腹感と幸せ感でした。
【今週の番組ゲスト:ジャズピアニスト、作曲家、シンガーソングライターの市川 空(そら)さん】
1stアルバム『原石!!!!!!』から
M1「青いサソリの国」
M2「泥中の原石」
M3「星の巡りが悪いなら」
M4「ひどく幸せな夢」




