お知らせ:

テイスト・オブ・ジャズ

番組へのお便りはこちら
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.252~あるピアニストの死~】

 医者でジャズメンと言うのは結構例があり、有名なのはピアニストのダニー・ザイトリン、トランぺッターのエディー・ヘンダーソンと言った辺りだと思うが、この2人とも精神科の医師だと言うのも興味深い所。歯科医となると結構多く、ぼくの知る所でも数人いて一人はドラマー、もう一人はヴァイブ奏者、そして残りはピアニストである。全員が開業医だけにかなり収入も良く忙しいはずなのだが、そこは結構うまく時間をやりくりしてライブの時間を捻出して愉しんでいる様子。なんとも羨ましい限りである。

 ところでそんな医師にしてピアニストだったある人物が昨年亡くなった。家人も知らなかった自宅でひそかに録音されていたソロピアノ演奏が死後偶然に見つかり、彼の仲間や関係者の努力で、この度その演奏が日の目を見る事になった。ピアニストにして内科医のその人は入江宏。アルバムタイトルは『メモリアルアルバム1955~2014 入江宏』。このタイトルからも分かるように還暦前に彼は亡くなってしまった訳だが、自宅で誰かに聴かせるためでなく弾き綴ったソロ演奏が、こうした形で世に出されることになったのは、何とも不思議なもので草葉の陰で彼がどう感じているのか...。と言ってもぼくは彼とは面識がなかったし、名前はかすかに記憶していた覚えもあるのだが、それも定かでは無い。

 この遺作アルバムは2枚組で、1枚はその自宅でのソロ演奏が12曲、そしてもう1枚は彼が医師見習い時代にプロのバンドに参加していた頃の演奏が7曲収められており、その1曲がジョージ大塚(ds)のバンド「マラカイボ」によるもので、これはかつてぼくもよく聴いていたものだけに、その名前はうっすらと記憶にあった訳なのである。
 あるジャズ専門誌の新譜レビューでこのアルバムがぼくの所に廻って来て初めてそのソロ演奏を耳にしたのだが、穏やかだが芯のあるいいソロと評価した。そしてこのアルバムが世に出るきっかけを作った(アルバムライナーノートも担当)のが、鳥取出身の入江氏の幼少時代からの友人で、ぼくも数回居酒屋でご一緒したことのある米沢伸弥氏だと知り、彼にこの入江宏と言う知られざるピアニストを紹介してもらおうとスタジオに遊びに来てもらうことにした。

 米ちゃんこと米沢氏は元々大手出版社の編集者だったが、期するところがあり独立、現在は湘南で古本屋をしていると言う洒脱な趣味人。入江氏との付き合いも長いだけに、彼が積極的にレコード会社などに持ちかけアルバムが日の目を見た次第で、その友情も素晴らしい。「このソロ演奏は孤絶した音楽だ。しかし冷ややかな孤独な印象では無く、ほんのりと暖かく湿ったせいの手触りである...」と彼は記しているが、その通りのいい感触のソロ演奏なのである。自身の死への恐れを秘めながらも淡々とピアノと向き合う。その心境は凛とした透明感に溢れており、仲々にいい演奏である。アルバムにはかつて入江と演奏の場を共にした、ジョージ大塚、山口真文、神崎ひさあきなどが追悼の言葉を寄せているが、入江氏はある意味幸せなジャズ人生と医師人生だった、と言えるのではないだろうか...。
 人知れずジャズに命を捧げた人(晩年は医院のある鳥取から、東京に終末通ってライブを続けていたとも聞く)がここに居たと言う事を、多くに皆さんに知ってもらえたら...。
【今週の番組ゲスト:音楽プロデューサーの米澤伸弥さん】
昨年亡くなったジャズピアニスト入江宏さんのメモリアルアルバムをご紹介頂きました。
M1『Last Night When We Were Young』
M2『ホコ』
M3『Up Jumped Spring』
M4『Stardust』

 

お知らせ

お知らせ一覧