「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.730~坂本龍一・音楽の歴史~】
「教授」の愛称で知られた音楽家坂本龍一。この当代きっての作・編曲家、ピアニスト&キーボード奏者、環境問題や憲法などを論じる社会思想家、更には映画俳優、世界中を席巻したYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の一員等々、様々な顔を誇るこの時代の寵児がその生を閉じたのは、昨年(23年)の3月28日のことだった・享年71。
彼の最後のエッセイ集のタイトルが「ぼくはあと何回満月を見るだろう...」(新潮社)と言うものだったのは、何とも象徴的だしもの哀しい思いも強い。ただ癌と言う重い病と闘っていた彼には、そのままの心境だった筈である。彼の死を報じたニュースではその最後の言葉として有名な「芸術は長く、人生は短い...」が記されていたとあったが、これもまた彼の偽らざる心境だったと思う。71才という生涯、昔ならばいざ知らず今では本当に若死になだけに、自身も無念だったことは想像に難くない。
そんな彼について何かを書きたいと思いつつも、デビュー作の『千のナイフ』やYMOのアルバムなど位しか聞いていない余り熱心な聴き手ではないだけに、いささか躊躇したままに今に至ってしまっていた。そんな折、図書館で一冊の音楽書を見つけた。「坂本龍一・音楽の歴史」。彼のエッセイや対談は雑誌などで読んでいるが、一冊にまとまった本などは今までになかった。かつてバッハやドビッシーなど彼の敬愛する作曲家について、彼が奏し論じたCD付きの音楽ムック全集本が出ていたのだが、1巻が確か1万円以上と高価で手を出せなかっただけに、彼が音楽史を縦横に語る本ならば...これはいい機会だと思い直ぐに借り出した。しかししかしである...。この本は彼の書く音楽史などでは無く、吉村栄一と言うフリーライターでコピーライターの人による坂本龍一と言う音楽家の史伝というべきもの。どうするかなーと思ったが読み始めるとこれが仲々に面白い。有名な文芸誌編集長の坂本一亀の息子に生まれ、都内有数の進学校の新宿高校に進み更に東京芸大の作曲科に入学...と、典型的な音楽エリートの道を歩みながらも、高校では新宿のジャズ喫茶に入り浸る一方で学生運動にも関わり、その武勇伝で名を馳せる。芸大時代は授業などほっぽり出して伝説のテナー・マン阿部薫や洋輔さん(山下洋輔)等とジャムセッションに励む...など、長髪のヒッピー然とした小汚い格好でかなり破天荒な青春時代を送っていたと言う。考えてみれば新宿やジャズなど結構ぼくと重なるところ有りだったようにも思えるし、特にこの青春篇に登場する需要な人物にはジャズや演劇関連などの知り合いもいて(吉田日出子や柄本明等々)、あの激動の時代を思い出させてくれて大いに愉しめた。
何より彼は現代音楽とポップス(ジャズを含む)の間を自在に往来しながら音楽活動を続け、それ等の統合体とも言える映画音楽の分野では世界的な評価を得て(アカデミー賞の作曲賞を日本人で初めて受賞)、一方YMOに象徴される圧倒的なポップ人気を獲得する等、その活躍は群を抜いたものだったのが本書からも良く分かる。ただこの音楽史伝、未だ彼の存命時に書かれたものだけに、坂本の音楽歴に徹底しておりかみさんのアッ子ちゃんこと矢野顕子との結婚なども少し触れているだけだし、新たな女性を連れてのNY移住などのトラブル(?)も全くスルーしている等、私生活には殆どノータッチ、そこら辺がもしかしたら史伝としても評価の分かれる処かも知れないが、それはそれで良しなのだろう。
坂本龍一と言う音楽家の凄い...と言うか立派な所は、日本の音楽家にしては珍しく政治や憲法などの問題に、真摯に向き合い直截に発言し続けた所だろう。そのためにネット右翼などの標的になり、色々嫌がらせなども受けたとも聞く。本書でもそうした社会・政治発言などにも触れているが、行動する音楽家、正義感の持ち主だと言う点は、音楽は政治などとは無関係等とほざく連中とは一線を画しており、素晴らしいことだとも思う。そう言えばぼくの大学の後輩が、大島渚監督の映画「戦場のメリー・クリスマス」(坂本も出演し映画の音楽も担当)にアシスタントとして参加、ニュージーランドロケにも同行したのだが、帰国して一緒に飲んだ時に色々なエピソードを教えてくれたことを今思い出す。タケちゃん(北野武)は凄い読書家で、撮影の合間は部屋に閉じこもって読書三昧だったとか、坂本龍一は結構気さくな男で、主役のデビッド・ボウイとも仲良く毎晩飲みあかしていたなど...。
好漢坂本龍一の魂に 改めて献杯!
【今週の番組ゲスト:Spice of Life代表 プロデューサーの佐々智樹さん】
5月29日(水)から3日間開催される『Sweden Jazz Week2024』をご紹介。
Sweden Jazz Week2024





