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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日22:00-22:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.202~ガルシアマルケス死す~】

 先日新聞を見ていたら「ガルシア・マルケス死す」と記事にあった。この20年ぐらい住んでいたメキシコで亡くなったようで、享年87才とのこと。マルケスと言っても若い人達で、その名前を知っている人はそう多くは無いかもしれないが、一頃かなりなブームとなった中南米文学を代表する大作家。1982年にはノーベル文学賞も受賞している。コロンビア出身のこの大作家の存在は知らなくても、九州の焼酎銘柄、一寸変わった名前の「百年の孤独」は聞いたことがある、という方もいるだろう。その「百年の孤独」の作家がマルケスなのである。マジック・リアリズムとも評されるその表現手法は、大江健三郎、中上健次、寺山修司など、新たな表現手法に心掛ける意欲的な作家達に、大きな影響を及ぼしたのだが、如何せん「百年」や「族長の秋」など、どの作品も大長編で読み通すのが一苦労。「族長」などは20年位前に買ったのだが、恥ずかしながら未だに読み通していない。ただこの人の凄い所は、新潮社から全作品集が出されている点。10年ほど前に彼の最新作が出されたのを契機に、全作品集が組まれたようなのだが、日本の作家や欧米の人気作家は別として、中南米の作家の全集とは凄いことで、それだけ熱狂的なファンが付いている証だろう。

 彼の作品の中でぼくの最もお気に入りは、映画化もされた「コレラの時代の愛」。SF風な作品と思われがちだが、これはコレラがコロンビアなど中南米各地で猛威をふるっていた時代、19世紀後半から、20世紀半ばまで80年近い時代を経た、2人の男女の愛の物語。まだ幼い頃ヒロインの美女に恋してしまった男が、70代の終わりになって寡婦となったばかりの彼女と結ばれると言う、気の遠くなるような狂想・幻想の壮大な愛の物語で、狂乱のコロンビアの歴史の中で翻弄される2人の生き様が、正にマジック・レアリズムの眩惑・蠱惑的手法で描き出される大長編。アマゾンの船(成功した男が彼女の為に買った豪華客船)の中で、高齢になった2人が結ばれるシーンは、まさにロマンティシズムの極致で泣けてくるほど印象的。本当に長い作品だが実に面白いので、ぜひ皆様も読んで欲しいもの。

 マルケスのこうした文学手法は、ジャズ、特に中南米のジャズメンたちにも間接的に影響を与えているようにも思える。「百年の孤独」は中南米の多くの国で、熱狂的に支持されているだけに、ジャズメンの多くもこの本を読んでおり、その重厚でスピーディー、目まぐるしく変化するような文体は、中南米の意欲的ミュージシャン達の演奏手法にも相通じる所も多い。最後は認知症を患らっていたとも言われるマルケスだが、本当に偉大な作家だった。合掌!

 そして物故と言えばもう一人、あの「あまちゃん」の爺さん役で人気も高かった蟹江敬三。石橋蓮司(彼も今の朝ドラで爺さん役だが...)と共に演劇集団「桜社」を結成、蜷川演出で数々の意欲的な芝居をやり続けたが、30数年ほど前、ぼくがラジオドラマを時々作っていた頃良く出て貰っていた、懐かしい顔でもある。年令は彼の方が一つ上のはずだが実にいい男だった。その後時々ゴールデン街でも一緒になったりもしたのだが、その彼も亡くなってしまった。どんどん好漢・硬漢がいなくなってしまう。何とも寂しい。日本は瀬戸内寂聴師が危惧する通り、暗愚な首相が無茶をし続ける、つまらなくも危険な時代になりつつあるようだ。

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