「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.669~ニーナ・シモン復権】
先日嬉しいジャズニュースを耳にした。個性的な弾き語りの名手にしてブラック(アフロ)アメリカンの静かなる闘士でもあった、伝説とも言えるジャズ唄者のニーナ・シモン。彼女の存在に今またスポットが当たっているらしいのである。若い連中に人気のTikTokやインスタグラムなどで、彼女の動画がかなりな人気を博しており、再生回数はなんと全世界で6億回を超すと言う、ある意味天文学的な数値を記録しているのだそうだ。その為にワールドワイドで音楽業界を占有している、ビッグ音楽カンパニーの「ユニバーサル」は急遽、傘下の名門「ヴァーブ」の諸作品からのベストコンピレーションアルバムを近々出すのだとも聞く。本当に久々に熱い拍手を送りたくなるグッドニュースです。
2003年4月にフランスで亡くなった彼女。今年はちょうど没後20年目で、その周年にまた大々的に彼女にスポットが当たるとは、実に喜ばしいこと。かつてローリング・ストーン誌が世界の偉大なシンガーを100名選出していたが、その中にも入っており確か30位辺りだったと思う。ジャズという範疇を超えた凄い存在なのであり、本人の紹介文にはジャズシンガーとあるが、その後にフォーク、ブルース、ゴスペルの歌い手でピアニストでもあると記される。そしてシンガーと同時に黒人公民権運動家、社会活動家と言った肩書もそれに付加されている。
ニーナ・シモンの本名は何とユニース・キャサリン・ウエイモン。それがプロとして歌い出した辺りで、敬愛していたフランスの実力派女優、シモーヌ・シニヨレに因んで、芸名をニーナ・シモン(シモーヌ)にしたと言う。シモーヌは歌手のイブ・モンタンの奥さんでもあり社会運動家としても知られていただけに、単なる憧れを超えその生き方にも共鳴していたに違いない。元々はクラシックのピアニストを目指しており、ジュリアード音楽院でレッスンを受けたりして有名音楽大学を目出していたのだが、黒人と言うハンディも禍して入学は叶わず、ジャズの世界へ...と言う経緯だが、その弾き語りのピアノ技はクラシック譲りの本格派で、他の凡百の弾き語り歌い手とはかなり違う。彼女のベスト期はカーネギーホールやヴィレッジゲイトなどでの好ライブアルバムなどを出した「コルピックス」時代だと思うが、晩年の歌唱も素晴らしいものだった。ジャズだけでなくフォークからゴスペルなど、アフロアメリカンとしての出自にも強く目覚めた音楽を展開した彼女が、今になってまた再評価されているらしいことは実に喜ばしい。
かつてぼくの若かりし頃、どの街にもジャズを聞かせるジャズ喫茶が溢れていた時代(60~80年初め位)、リクエストされるのはコルトレーンやマイルス等のインストものが大部分でボーカルものは殆ど無かった。その例外がニーナ・シモンでもう一人がヘレン・メリル(こちらはバックのクリフォード・ブラウンのペットプレーに惹かれた面が濃い)。まあ色々な意味でニーナと言うのは、当時の日本の小難しいジャズ状況の中でも別格の存在だったが、それがいま復権しつつある、それも世界的な規模でなのだから、盛大な拍手を送りたくなるのも至極当然とも言える。
数年ほど前にローリン・ヒルやグレゴリー・ポッター等と言った、アフロアメリカン有名シンガー達が彼女のトリビュートアルバムに加わり、その持ち歌を歌った素晴らしいアルバムがあり、ぼくもすぐに手に入れたものだが、それとほぼ同時に彼女のドキュメントフィルムも公開され(ぼくは未見)、これもかなりな評判を呼んだが、このあたりからニーナ・シモンと言う素晴らしい歌手の再評価が始まり、没後20年と言う記念年にある極点を迎えつつある様な事、繰り返し言いますが、これは本当に嬉しいニュースです。
【今週の番組ゲスト:Spice of Lifeのプロデューサーでイベントプロデューサーの佐々智樹さん】
今年のビッグイベント
『Seiko Summer Jazz Camp 2023』
『Sweden Jazz Week』をご紹介頂きました。
M1「U.R.B. / 中村 海斗」(『BLAQUE DAWN』より)
M2「Sea Raccoon / 平倉初音」(『Tears』より)
M3「Isn ́t it romantic / Isabella Lundgren(『Songs To Watch The Moon』より)
M4「Everything I Love /Lars Jansson Trio with Ove Ingemarsso」
(『Everything I Love』より)