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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.455~ハードボイルド小説】

 年を取る~チャンジー度が高くなると、どうも集中力や忍耐力の衰えが激しく成るようで、
本を読むスピードも遅くなり、中々一冊を読み切れない。このためこのところ大好きなハードボイルドものやプライベートアイ(私立探偵)ものも、残念ながら余り読んでいない。これにはぼく自身の加齢問題も関係しているのは間違いないが、同時にハードボイルド系(私立探偵ものも含め)小説の衰退傾向、端的に言えば余り面白い作品が無くなりつつある元気喪失傾向が顕著で、代わりにぼくの大嫌いな警察小説が幅を利かせていると言う事情も、大いに関係しているのかも知れない。
 ハードボイルドで最近読んだのは、各方面で評判の高い原尞の14年振りの新作、探偵沢木シリーズの「それまでの明日」。各書評などで絶賛されていたのだが、事件らしき事件も余り起こらず、それを淡々と処理する探偵、沢木の姿勢・心根。これには原氏の枯れ具合が加速されているようで、それなりに面白いのだが、期待が大きすぎただけにいささか残念な思いで読んだものだった。原尞は九州大出身で亡くなったピアニスト、辛島文雄と九州大でほぼ同学年。辛島が王道のピアノ路線を行ったのに対し、原の方はフリージャズの道に進み数年で引退、故郷の佐賀に戻り文筆業を始めたと言う経歴。それだけにジャズの対する愛着は半端ない作家でもある。そして今や最も活躍しているハードボイルド作家で、「探偵はバーに居る」等で知られる札幌在住の東直己、彼も大のジャズ好きで色々なミュージシャンやシンガーの名前が作品には登場する。この2人を代表格に結構ハードボイルド作家はいるのだが、イマイチ元気がないのは事実だ。

 
そんな中でぼくのおススメの一人が、異色のハードボイルド作家...と言うよりもピカレスク(悪漢)作家と表現した方が適切な、直木賞作家の黒川博行である。コテコテの大阪弁が飛び交う彼の関西ハードボイルド小説には2系列あり、一つは大阪府警の堀内・伊達コンビが活躍するマル暴シリーズ(両者とも悪事がばれクビになり東京に流れて来るのだが...)。そしてもう一つが、映画化やTVドラマ化され大人気の疫病神シリーズ、イケイケの武闘派やくざでいつも喧嘩三昧の桑原(疫病神)と、親父がやくざで自身は建設コンサルをしている二宮(彼は喧嘩の弱い堅気)のコンビによる作品群で、関西流ハードボイルドとでも言えそうなものなのだが、これがめっぽう面白い。凄惨なリンチやカチコミ(抗争)シーンでも、何かそこに関西流のユーモアが漂い飽きさせないのだ。その疫病神シリーズの最新刊「泥濘」も期待通りの面白さだった。これは週刊文春に連載されていたもので、今流行り(?)のオレオレ詐欺とその裏で糸を引く警察OBや桑原と敵対するやくざ組織の若頭の抗争を描いたもので、テンポよくストーリーが展開される。このシリーズ今までに「疫病神」「破門」など10冊近くが出されており、最高作は北朝鮮に侵入し散々な目に合う2人を描いた「国境」だと思うが、どれも秀逸で一度読むと何とも魅力的なこの2人のコンビにとにかく惹かれる。自分勝手で相手を嫌いつつもどこか好きあっており、持ちつ持たれつの関係にあるこの2人に感情移入してしまうのだ。
 その最新刊ではなんと桑原のジャズ好きが判明する。大阪のカラオケ屋(桑原の愛人が経営する)に繰り込んだ2人、イケイケ武闘派の桑原がリクエストして歌うのがなんとあのヘレン・メリルの銘品「ユード・ビー・ソー・ナイス...(帰ってくれたら嬉しいは)」。これには笑わされると同時に驚かされもする。「歌、うたえ」二宮に言う。「ズージャーや、ヘレン・メリル」「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ...」桑原は小さく歌った。「それ聞いたことある」「わしが唄う。入れてくれ」「ほら入れんか」「タイトルは」「歌手で検索せい」「ヘレン・メメリルストリーブね...」桑原は1曲歌った。ざっとこんな感じである。カラオケで「ユード・ビー...」を歌う、それも大阪やくざがである。
 そしてもう一つ、この凸凹コンビならではの面白会話を御紹介しよう。スマホの動画を使って相手やくざを脅かす策を桑原が披露する。それに対しコンサルの二宮は「その案なるほどスリランカですは...」「なんじゃスリランカとは」「正論(セイロン)です」「二宮君寒いギャグはやめとけや...」桑原は笑いもしない。
この洒脱感応えられません。そして登場するヘレン・メリルストリーブ。黒川流コテコテ・ハードボイルドの真髄、世界中に紹介されるべきものとぼくは信じています。 

【今週の番組ゲスト:音楽評論家の青木和富先生
今週はジャズトーク、 ライブ録音特集でお話し頂きました。

M1「Lester Leaps In / JATP」 (1944年 Jazz at the Philharmonic のライブ録音)
M2「 KOKO / Charlie Parker」( 1948年  Royal Roost のライブ録音)
M3「Comin' Home Baby /
Herbie Mann」(1961年 The Village Gate のライブ録音)
M4「Cubano Chant / Ray Bryant」(1972年 Montreux jazz Festival のライブ録音)
M5「The Köln Concert / Keith Jarrett」(1975年 ケルン、オペラ劇場のライヴ録音)

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