「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.671~ウエイン・ショーター】
現在のジャズシーンのアイコンの一人とも言えるウエイン・ショーター。その彼がこの3月初めに亡くなってしまった。90才に手が届くと言う年令での大往生とも言えるが、その死因などはしかとはしない。恐らく世界のジャズメン10人を挙げろと言えば、まず間違いなくランクインする筈で、僚友ハービー・ハンコックと並んで、シーンを牽引するビッグネームだった。
ショーターとハンコック、この2人は長年に渡ってジャズシーンの中心役だったが、同時に来日公演も数多く、日本のファンにも最も馴染み深いジャズメンでもあった。この2人の来日公演が多いと言うのは、両者ともにS学会の熱心な信者でもあり、その関連で来日が多かった訳で、この事実に反発するジャズファンも結構いたのだが、まあそれも今となっては良きことと言えるかもしれない。
ショーターと言う人は、大のSFそしてコミック好きでもあり、2018年には3枚組のアルバム『エマノン』を発表したが、この趣向を反映し自身のSFコミック迄アルバムのおまけに付いていた。彼は若い頃から「イーブル(悪魔)」「ジュジュ(祈禱師)」などと言った、黒魔術など神秘主義的で霊的な事象にも深い関心を寄せ、アルバムや曲作りにもその傾向が強く反映されていた。
ところで彼はある意味モダンジャズの王道を歩んだ稀有な人でもあり、アートブレーキ―のJMを皮切りに、帝王マイルスがその才を高く評価しマイルスグループにも参画、その後はジャズフュージョンのトップユニット「ウエザー・レポート」を、キーボード奏者のジョーザビヌルと共に創設、その中心メンバーとして大活躍、時代をリードする役割を担った。その傍らハービーなどとジャズの王道路線を行く、スーパー・ユニット「VSOP」にも加わると言った具合で、マイルスバンド、JM、そしてウエザー・レポート等々、モダンジャズを代表するユニットのほぼ全てに関係した、実に稀有なグレートミュージシャンでもあった。今世紀に入ってからはダニーロ・ペレス(p)ジョン・パティトゥッチ(b)ブライアン・ブレード(ds)と言う卓抜な面々による、自身のカルテットをメインに活動、このカルテットでの迫力ある凄い演奏には、来日公演で何度も驚愕させられたものだった。このカルテットでの最高傑作は、11年のツアーライブを収録した『ウイズアウト・ア・ネット』(BN/13年)で、ぼくもこの年のベストアルバムとして本作を推薦したもの。
テナー吹きとしては、若い頃から独自の世界を構築していった人で、中々に宇宙的と言うかスケールが大きすぎて、少しばかり理解するのが難しい所もあったが、自身のカルテットによるライブなどは、本当に圧巻ものの連続だった。代表的なアルバムとしては今世紀に入ってからは、前述の自身のカルテットライブ作だろうが、もう1枚重要なアルバムがそのブラジリアン趣向を色濃く反映させた佳品『ネイティブ・ダンサー』(CBS/74年)だろう。この作品はアメリカのファンにブラジル最高のシンガー、ミルトン・ナシメントの存在を印象付けたことでも知られる。そして人気バンド「ウエザー・レポート」では『ブラック・マーケット』と言う所か...。だがこのユニットは、ショータ―よりもザビヌル色が強かったように思えるのだが...。そしてその初期の作品では、彼の黒魔術趣向も色濃く漂う『ジュジュ』(BN/64年)、メンバーも強者揃いを挙げることにしようか...。
それにしてもこのジャズ・アイコンの死亡のニュース寂しい限りで、今日は銘盤『ネイティブ・ダンサー』のショーター&ナシメントの共演でも聴きながら、その冥福を祈ることにしようと思います...。
【今週の番組ゲスト:ピアニスト・作曲家の林正樹さん】
『Blur the border』から
M1「Yuragu」
M2「Under the Open Sky」
M3「Cleanse」
M4「Teal」