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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.296~最高のジャズ・ディーバ】

 ジャズシーンが元気が無いということは、このコラムでも何度か触れたが、ボーカルの分野(女性ボーカル)だけはいささか例外とも言えそうだ。毎月なにがしかのアルバムが出され、初めて耳にするような新進も次々登場と、一見すると快調のようでもある。だがこれには少し訳もあり、このところジャズボーカルを趣味として学びたいと言うOLの方達がかなり増えており、こうしたボーカル教室の卒業生がジャズクラブに頼み込み、セミプロとして時々ステージに立つようになり、数年すると名刺代わりにアルバムを1枚...となるケースも少なくないのである。

 
このところ登場するボーカリストが全てこんな状態とは言えないが、日本のボーカル界は今や玉石混交状態にあることは間違いない。そんな中にあって抜群の歌唱力と存在感を誇るジャズディーバがいる。大野えり。大ベテランの彼女、もう還暦を迎えた年令のはずだが、その深く、若々しく、力強い歌唱は、ますますその輝きを放っている。もともと彼女は同志社大学のジャズ研出身で(向井滋春など数多くの俊才を輩出した西の名門クラブ)、大学時代から注目を集め、卒業後すぐにデビュー作を発表し、若手人気シンガーとして活躍した。はじけ捲るような若さ溢れる歌唱は、かなり魅力的だったが、如何せん拠点が関西と言うことと、いい意味でかなり生意気だという噂もあり、いつかは番組に出てもらいたいと思いながらも、その機会は無かった。そのうち彼女は表舞台に出ることも少なくなり、ボーカルを学び直すためアメリカに渡った...などと言う話も耳にしたのだが、その歌声に接することも無くなってしまった。それが7~8年前、彼女の新作でNY録音の『スイート・ラブ』を、ジャズ雑誌のアルバムレビュー(アルバム評)担当の為聴くこととなり、久しぶりにその歌声に接したのだった。そこにはスタンダードソングだけでなく、自身が作曲・作詞した日本語によるオリジナルソングも数曲含まれており、そのどれもが圧倒的な表現力で心底驚き、最高点として評価したものだった。それから直ぐにスタジオに来てもらい、正式にご対面となったが、チャーミングな女性で直ぐにファンになってしまった。

 
そして今回久しぶりのアルバムを出し、これがまた素晴らしいとの評判。そこで彼女と連絡を取りこの新作を紹介してもらうことにした。ビル・エバンスの名演で知られる「ハウ・マイ・ハート・シングス」をアルバムタイトルにしたこの作品もNY録音で、彼女自身のレーベル(K・Ⅰ・A)から出されている。バスター・ウイリアムス、アル・フォスターと言う彼女お気に入りの大物たちに、ピアノは彼女がこのところよく共演している若干30才の若井優也。タイトル曲のほかマイルス・デイビスの「オール・ブルース」や「ブルー・イン・グリーン」、チャーリー・パーカーの「コンファメーション」等のジャズ名曲や、バスターのオリジナルなど選曲もバッチリで、自身のオリジナルは「カム・アラウンド・ラブ」1曲のみ。

 ところでこのアルバム誕生も、実は偶然の産物と言うことで、彼女はNYに敬愛するシーラ・ジョーダン(えりさんと並ぶ圧巻のシンガー)のライブを聞きに行ったところ、日にちを間違えもうライブは終了していた。仕方ないので旧知のバスターに電話したところ、彼から「レコーディングしたら」と持ち掛けられアルバムが実現してしまったのだと言う。こんなケースもあるのだから不思議なもので、それがJ-ボーカルの中でも際立った1枚として立ち現れるのだから、大野えりの力量たるや恐るべしである。彼女が信頼を寄せている若い逸材、若井くんのピアノも抜群で、彼女に「本当に素晴らしいアルバムだね...」と褒めると素直に喜んでいた。

 シーラ・ジョーダン(米)、カーリン・クローグ(スウェーデン)、そして大野えり。この3人がアフロアメリカン(黒人)以外の女性シンガーのワールドベスト3だとぼくは思っているが、その彼女にまたスタジオに遊びに来てもらえたのは、こちらも幸運でした。このアルバム、彼女のプロダクションの作品と言うことで、流通やPRがいささか行き届いていない感もあり残念なのですが、是非皆さんにお勧めしたい傑品だと信じています。  
【今週の番組ゲスト:ジャズシンガーの大野えりさん 
M1「Confirmation」
M2「Come Around Love」
M3「How My Heart Sings」
M4「Love You Madly」

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