「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.668~ジャズ・イズ・ポップ】
雑誌「ブルータス」がジャズの特集を組んだと言うので、さっそく拝読することにした。タイトルは「ジャズ・イズ・ポップ」。いまは雑誌も冬の時代、かつての「ポップ知」の代表格だったブルータスが、今どきの少しインテレクチュアルな若い連中や、その上の世代にどれほど受けているのかはしかとはしないが、ぼくらチャンジー世代にもそれなりに読みがいのある雑誌媒体であることは間違いない。そのブルータスがジャズ特集...と来れば、ジャズ関係者としても嬉しい限り。そう言えば文芸誌「文学界」もジャズ特集を組んでいたことともあり、これらの媒体のジャズ贔屓がこれからも続いてくれることを切望する。
ところでジャズと言えば相変わらず小難しい音楽、あるいは成熟した大人が聞く高尚なもの等々、こんなレッテルが貼られている気がするが、そうしたムードと言うか認識を少しでも変えたい...と言う意図に沿った雑誌の企画だと思われる。中身は星野源などそれこそポップ畑の人気歌手から、菊池成孔と言ったジャズ畑のミュージシャン、大御所・山下洋輔先生もフリージャズについて語るなど、少しでもジャズに興味が有ったり、それに関わっている音楽家達が、それぞれのジャズ感やお勧めアルバムなどを語っており、それはそれで結構興味深い内容。更にあの話題のジャズ漫画「ブルー・ジャイアンツ」の書下ろしも加わると言うのだから、かなり豪華なジャズてんこ盛りと言った感じ。
ただこのジャズ企画も10年ほど前迄ならば、「ジャズ・イズ・バック」と言ったもう少し威勢の良い感じでジャズ復権を印象付けるものだったに違いない。だが今ジャズはポップミュージックなのだから、決して小難しい音楽ではありませんよ...、と言ったやんわりとした啓蒙色も匂う。
まあ今回のポップという言葉の意味合いにも、ブラックアメリカン達の日常音楽であるラップやヒップホップがあるポイントとなっている感もあり、それ等をジャズと融合させ色々な展開を図っている、鬼才ロバート・グラスパーや彼と関係するもミュージシャン達(その拡がりはポップスの世界ではかなり大きいものだが...)の音楽が、そのメイン対象になっている様でもある。もう一点J-ジャズの現在を担っている若手ドラマー、石若駿にもスポットが当てられているが...。
さてその「ジャズ・イズ・ポップ」と言った感覚、これはブラックアメリカンだけでなく日本そしてヨーロッパ、ある意味世界中の若者達にもかなりアピールするだろうということは、これも頭では良く理解できる。そう「ジャズ・イズ・ポップ」なのである。ただ残念なことにチャンジーのぼくには、このラップ&ヒップホップと言うものの面白さ、これが皮膚感覚として余り分からない。当然ながらぼく自身がもうポップでは無いのである。チャンジーだけにこれは致し方ない所だが、同じアフロでもアフロイングリッシュ(英)やアフロフレンチ(仏)のジャズ、あるいはその周辺音楽には心惹かれるものも多く(その音楽にはアフリカとか中南米、カリブ等の要素がダイレクトに混在している所もポイント...)、特にイギリスのサウスロンドンを拠点にしたジャズムーブメント~ロンドンジャズのメインに位置するシャバカ・ハッチングスやヌエーバ・ガルシアなどは大好きで、彼ら・彼女らのジャズにこそこれからのある方向性が見えるのでは...と、大いなる期待を抱いてもいるのだ。
だからグラスパー一派(?)のジャズに今一つ興味が沸かなくても、ぼく自身は構わないものと思っている。ジャズライターの片割れとしてはこの点些か気になる所もあるが、なにせジャズはポップ音楽...であるのだから、各人がそれを好きに受け止めれば良いのであって、自身の皮膚感覚に合わないジャズがあっても至極当然なことだとも思う。まあこんな考えはさて置いて、今回のブルータスのジャズ特集、中々に興味深いものですから、是非皆様もご一読を...。
そして今週の「テイスト・オブ・ジャズ」だが、ブルータス特集にも特別編が載ったジャズ漫画「ブルー・ジャイアント」のアニメ映画化作品と、ジャズ界きっての歌姫レディー・デイことビリー・ホリディのステージを再現した映画「ビリー・ホリディ物語」。最近公開の2つのジャズフィルムについて、「コテコテ」の愛称で知られる音楽ライター、原田和典氏をゲストに迎え、その魅力を語っていただく予定にしている。両作品ともにジャズの魅力をよく伝えている魅力的なもの。原田氏のコテコテ解説と共にお愉しみ下さい。
【今週の番組ゲスト:音楽ライターの原田和典さん】
話題の映画2作品
M1「Don't Explain / Audra McDonald」
M2「God Bless' The Child / Audra McDonald」
M3「Ain't Nobody's Business / Billie Holiday」