「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.667~うまいパン屋が増えた】
ぼくと同世代即ち齢70以上のチャンジー(爺さん)世代にとって、パンとはまず皆が貧しかった第2次大戦後~昭和20年代の頃の小学校の給食、ここで出されていた味気ないコッペパンを直ぐに思い浮かべてしまい、ジャーマンパンとかフランスパンなどと言った最近の主流になっている洒落たパンの数々は、余りお呼びで無い...と言った感じなのでは...とも思う。だがそれでも朝はパン食オンリー...等とのたまう同世代の連中もそれなりにいるので、パンとは疎遠などと勝手に決めつけてしまうのも良くないのだろうが、ジャズを趣味と半分生業にもしているぼく自身、朝は(朝だけでもないが...)頑なにご飯に終始する和食派のご飯党の一員なのである。
そんな「ご飯党」のぼくをしても、最近次々に出現する旨いパン屋の数々にはかなり驚かされており、やはりちょっと覗いて買い求めたくもなる...ものでもある。そうしたパン~フランスパンに惹かれるようになったのは、信濃追分の山荘の周辺に数年前から、次々と新手のパン屋が登場して来たこと...が大きい。それまでは軽井沢のパン屋と言えば、老舗の浅野屋(東京にも進出している)と、今は亡きジョン・レノン御用達の軽井沢ベイカリーの2店舗ぐらいだったが、歯科医の奥さんが始めたパン屋や神戸の3つ星フランス料理店によるパン屋‥等、数店が一挙に開業し、以前にもこのコラムで記したように、一挙に軽井沢パン屋戦争勃発の様相を呈し出したのである。まあこれらの店はどれもぼくのご飯党の信条を揺るがすほどのかなりな美味揃い。ここら辺からフランスパンも中々に良いものだと思い始めたのだった。
そんな折、我が家の直ぐ近く、住宅街の中にあるバス停の傍に1年程前に新しいパン屋が誕生、余り気にしていなかったのだが狭い店ながらも、かなり若い人達も集まっている様子。これは一度...と思ってフランスパンの基本とも言える「バケット」を買い求めてみた。住宅街の中にある小さなパン屋、こんな店なんぼのものじゃい...と思いながら食してみると、これがジャスト大当たり。ここ数年避暑地の軽井沢・追分周辺に次々と誕生した、あの小洒落たパン屋の数々をも凌駕する旨さ。完全に脱帽ものでした。
「アルマンデ・ヒロ」と言うこのお店は、住居の一部を拡げて作られた感じの小さな店なのだが、肝心のバケットもその本来あるうまさが凝縮された感じ。それからは週に一度はここのバケットを昼食に買い求めるようになり、すっかりこの店に嵌ってしまった。服部と言う腕の立つここのパン職人(社長)に聞くと、この店は彼が生まれ育った実家を拡げて作ったもので、今の彼の家は千葉にあるとのこと。父親の具合が悪くなりその様子を見守るために、パンを作りながらこちらには週5日ほどいて、月曜と火曜の2日間は千葉の家に戻る生活だと言う。それにしても見事なパン職人仕事で、口コミも直ぐに近隣に廣まってお客も絶えることの無い、隠れ人気店になっている様子。お目当てのバケットも売り切れてしまうことも度々。店主と親しくなったので取り置きもしてくれるようになったが,週に一度はここのバケットを食べないと...と言ったある種の禁断状態になってしまったのには、我ながら驚いている。
誠実に好い仕事をしている店には、やはり客がつくもの。まあ半分引退の身だから余り偉そうなことも言えないが、ラジオなどの番組制作にも通じる仕事の根本原則が、ここに在るようにも思われる。「たかがフランスパン作りだが、されどフランスパン作りでもある...」のだろう。色々と考えさせられる。貴方の住む地域の直ぐ近くにも、人知れず好い店が埋まっているかもですよ...
【今週の番組ゲスト:作曲家でギタリスト、アニメーション作家の大柴 拓さん】
『楽園』『Flowing out』から
M1「盆」
M2「花の成長」
M3「静かな東京」
M4「水鏡」