【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.851~ラテンアメリカ心の調べ~】
どうもぼくの様なチャンジー(爺さん)にとっては、年齢と共に出不精になってしまう傾向も強いようだ。特に渋谷や新宿と言った昔とは大きく様相が変わってしまった街には、外出恐怖症と言った感じさえあり足が向かない。そうしたある意味恐ろしい街の一つが、かつてはアングラ芝居見物やレコード店漁りなどで、ちょくちょく通っていたシモキタこと下北沢である。小田急と井の頭線が交差するこの街では、まあ渋谷ほど駅構内でウロウロ...などと言う惨めなことは無いが、小田急の線路が地下化された影響で、駅前も大きく変わり果て、店もどんどんと変わり...ということで、やはり大いに戸惑ってしまう。
そんな恐ろしきシモキタの街で、先日久しぶりに人と会うことになり、そのヤボ用が済んだ後は、この処封印していたレコード屋探訪を久々に行ってみることにした。そうなると訪れるのは、当然ディスクユニオン下北沢店である。シモキタらしく少しゴチャゴチャした猥雑感が好きで、この店には結構通ったものだったが、今はかなりスッキリと落ちついた店になっており、いささか失望ではあった。ただやはりユニオンに来ると、アルバム漁りの癖が露出してしまう。早速ラテンなどのコーナーを覗いてみると、大部分がもうお馴染みのもので、今回は見送りか...と思っていた。ところがなんと幸運なことに、掘り出し物らしきアルバムをかなり安価で見つけ出すことが出来た。やはり昔取った杵柄なのだろうか...。
と言っても見つけたのは、ぼくの好きなラテンジャズものでは無く、ラテンはラテンでも「ラテンアメリカ心の調べ」と言う、ある意味クラシックのピアノ作品。ただサブタイトルに「珠玉のハバネラ、ミロンガ、タンゴ」と銘打っており、この3つを扱ったクラシックのピアノ作品である。アルバムはハバネラやタンゴの小品が、全部で21曲収められている小品集と言った趣きなのだが、そこで選ばれている作曲者が何とも凄いのだ。ストラビンスキーからダリウス・ミヨー、アルベニスなどの近代の大作曲家の名前が並び、更にエリック・サティ、ヒナステラ(アルゼンティンの大作曲家)等など。こんな偉人達のタンゴやハバネラ曲、食指が動かない筈も無く、極め付けがタンゴの巨匠アストル・ピアソラのタンゴ銘曲「アディオス・ノニーノ」と来れば、もうこれは手に入れるしか無いだろう。
という事で直ぐに店で買い入れ、帰宅してアルバムのライナーノートを読む。すると主役の美形にして秀麗なピアニスト、ホリー・フェルマンは南米ウルグアイの人(同国の代表的ピアニスト)とある。ただこの人我が日本にも関係の深い人と分かり、いささかびっくり。と云うのもこのアルバムが出された1990年代の後半には、彼女は駐日アルゼンチン大使夫人として、数年間日本に駐在していたのである。確かに大使夫人らしい優雅なお顔付きで、その演奏もまた優雅そのもの。ラテン音楽のハバネラやミロンガ、タンゴが、彼女なりの優雅な解釈と演奏で、美しく奏でられており、これはこれでラテンのまた違った息吹きを感じさせるものだつた。ピアソラの大作はいささか優雅過ぎて、峻厳さに欠け少しばかり物足りなさもあった。だが残りはどれも3分以内の小品だけに、それなりに愉しめて聴けた。特に興味深かったのは、あの「3文オペラ」で知られるドイツの作曲家クルト・ワイルの、寂しげなハバネラナンバー「ユーカリ」と、ヒナステラスの書いたそのものズバリの"ミロンガ"の2曲。今ひそかに日本の某所で、日本をラテンの陽気さで埋め尽くす...と言った、日本ラテン化計画が進行しているやにも聞くが、その面々は果たしてこのアルバムの存在、知っているのだろうか...。知らないならばすぐに教えてやらないと...。
【今週の番組ゲスト:ジャズシンガー しげのゆうこ さん】
M2「Long Train Runnin'」
M3「A Time For Love」
M4「Come On A My House」




