【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.855~村野ミロと桐野夏生~】
ハードボイルド探偵(ディック)ものを読みたくて仕方ないのだが、このところこれと言ったものが無い。ハードボイルド小説はその変形ものとして、英国のゴールド・ダガー賞を日本人で初めて取ったことで評判になった、女流作家、大谷晶の「ババヤガの夜」があるが、これは映画「キルビル」にも通じる、ヤクザを題材にしたバイオレンス小説で、欧米には日本趣味な作品として受けても、ハードボイルド小説としてはかなり趣きが違うもので、ぼくは余り感心しなかった。
女性のディック(私立探偵)が活躍するハードボイルド小説は、欧米ではかなりあるのだが、日本では数少ない。この分野ではやはり若竹七海と桐生夏生、この2人が抜きん出ており、ぼくも大好きだ。若竹の探偵は葉村晶、そして桐生の方が村野ミロ。どちらもタフで不遜で魅力タップリな女性探偵と思っていた。だが今や現代日本文学の中でも頂点にも位置する桐生が描く村野ミロは、女探偵を飛び出し凄まじい遍歴の道を辿リ、単なるハードボイルド探偵ものを軽々と飛び越えた、まさにハードボイルド~人としての生き方、死に方そのものへと変形していく。そのミロ・シリーズの恐らく最後になると思われ、前作「ダーク」から20数年振りに書かれた「ダークネス」を、少し前に読み終え本当に圧倒されてしまった。
ミロ・シリーズは短編集の「ローズ・ガーデン」を含め全部で6冊。93年のミロ・デビュー作になる「顔にかかる雨」は、そのまま作家桐野夏生のデビュー作であり、ある意味彼女はミロとともに成長して来たとも言える。今回ぼくはチャンジー特有の毎日が日曜日にまかせ、ミロとは直接関係ない第3作を除く作品群を、再度読んでから完結作とも言える「ダークネス」に向かった。これが良かったのか、20代から60代までの村野ミロの成長と破滅振りがつぶさに読み取れ面白かったし、短編集も彼女の成長と破滅を側面から描き出し、短編を混じえながら読むとより立体的なミロ像が浮かび上がり興味も増した。
この「ダーク」と「ダークネス」は20年を越す対の作品で、探偵ではなく殺人者として飲み路が主役。関係したヤクザや元の仲間に追われるミロの姿、レイプから生まれた我が子ハルキとの日常、逃走、別離は、本当に寂しくも鋭く胸に迫ってくる。疫病神とも言えそうなミロは、「制御の効かない破壊衝動のようなものに突き動かされた私は、何という波乱の人生を送っているのだろうか。全ての因果を背負ったのか、私の周辺は皆不幸(死...)になる」と呟く、60才の一人の憤怒に満ちた怒れる老女である。願わくばこの「ダークネス」以降の彼女を描いた、本当の完結編をチャンジーのぼくはなど読みたくなる。しかしそれは叶わない望みなのかも知れないが...。
最後に傑品「ダークネス」の中で、最も印象に残った一文を...「本物の成熟には、永遠の若さと伸びしろがある」。自戒も込めて、本当にその通りですね。なお成蹊大学出身の彼女は、ジャズの街~吉城寺の主、寺島靖国師の有名ジャズ喫茶「メグ」で勤務していたことも、かなり知られたジャズ関連あるあるです。
【今週の番組ゲスト:ジャズボーカリストのランデル洋子さん】
新譜『Windmills』から
M1「Stomping At The Savoy」
M2「The Windmills Of Your Mind」
M3「Ellie My Love」
M4「Desperado」




