【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.852~チン鈴木良雄~】
日本を代表するジャズベーシスト、鈴木良雄が亡くなってしまった。享年80才。
寂しくも残念であり無念でもある。家族や親戚、そして少数のジャズ仲間等によって行われた葬儀(堀の内斎場)に、ぼくも参列させてもらった。哲学的とも言えそうな深く静かに瞑想するその穏やかな死顔、いかにもチンならではのものだった。由紀さん(カミさん)にいい死顔だね...と言うと、寂しげにしかし落ち着いて頷いてくれた。
彼は歴史ある我が「テイスト・オブ・ジャズ」の最多出演者で、昨年のジャズ60周年記念特番にも当然メッセージをよこしてくれた。またぼくの最初に制作した音楽特番も貞夫バンド(渡辺貞夫)時代の1時間ものだった。そんな彼とは穴八幡にある早稲田大文学部、その隅に位置する小汚い音楽長屋(音楽関連部の練習場)の入り口で、チンとは初めて出会った。以来60年余り、彼とは本当に長い付き合いだったし、口ゲンカ仲間でもあった。なにせ互いに相容れない、早大ジャズ研の演奏セクション(チン)と鑑賞セクション(ぼく)出身だから、まあこれは致方ない処。チンさんという愛称は、若い頃にジャズ修行に励んだ、本場NYのミュージシャン達も「チン、グッド・フレンド...」などと、何時もその愛称で呼んでいたものだった。その由来については諸説あるのだが、大学のジャズ研時代に付けられたもので、今になってみれば多くの人に愛され続けた、彼のオープンマインドな性格を、良く表した仲々に的確な愛称だったと思う。
長野県の木曽福島町で生まれ、父親はヴァイオリン製作者、叔父は鈴木メソッド(才能教育)で世界的に知られる鈴木鎮一など、まさに音楽一族。ぼくも一時期鈴木ヴァイオリンで習っていたので、小学生時代からチンと関わりは持っていたのだが...。中学時代に杉並に移り住み、その後早稲田大学に進学。モダンジャズ研究会(ジャズ研)に所属、ここでぼくと出くわす訳だが、学生NO1ピアニストとして名を馳せる。サダオさん(渡辺貞夫)のアドバイスも有りピアノからベースに転向。サダオさんのバンドなどに参加した後、1973年に一念発起しアメリカに渡り修業に励み、アート・ブレーキー&JMのメンバーなどにも加わり、チン鈴木の名前を世界に轟かせる。85年に帰国後はMATSURIやBASSTALKなどの自身のバンドで活躍、独自の日本的感性を活かしたジャズを志向する。現在は峰厚介(コウちゃん)等の精鋭を集めたTHE BLENDのリーダー。語りおろし自伝「死ぬまでジャズ」(早稲田学報に書評を書かせてもらった)などもあり、リーダーアルバムなども多数。チンの経歴をざっと記すとこんな感じか...。
彼と増尾好秋(g)、そして鬼才文化人・芸能人、森田一義(タモリ)。この3人によって早稲田大ジャズ研と言う学生音楽サークルは、一時期天下に名を馳せたのは間違いない事実(?)だが、たしかに全国からジャズ研に入る為だけに、早稲田大を受ける...などという奇特な面々も少なからずいて、ジャズが結構沸騰していた良き時代だったのだ。彼との想い出は数多い。2回訪れたNYでの自宅~パフォーミング・アーチストのためのアパート(大規模マンション)での、ぼくのNY初体験歓迎...パーティー(効き目無しでひどく怒られた...)。彼の帰国時に今は無きロッピ(六本木ピット・イン)で大々的なコンサートを自主主催したこと。彼のアルバムの幾つかでライナーノートを担当させてもらったこと。2年程前には新宿ピット・インのステージで、「死ぬまでジャズ」刊行トークイベントをやったこと等など。なかでも今なお目に焼き付いているのは、彼の親友でクラブのマネージャーだった、ウリこと瓜坂正臣(森田一義が最も敬愛する漢)の、亡くなった最後の夜の光景。チンとカミさんが1時間以上に渡って全霊を込め「気」を送り続け、倒れこんでしまったあの濃密な時間(ウリは1時間後に死亡 享年55才)。想い出は尽きないし、寂しくも残念、無念過ぎる。 色々書いても尽きない。出来れば今年の暮れの何処かで、追悼番組をやりたいとも思っている。色々な人達の声も混じえながら...。
最後に彼の葬儀の日に起きた、不思議な体験を...。葬儀の後に仕事関連もあり秩父宮ラグビー場へ...。それが終わり国立の駅からバスで帰宅。40年乗り続けているその国立駅からのバスに、その夜大きなベースを抱えた若い(中年か...)男の人が乗ってきた。40年間でベースを抱えた人を帰宅のバスで見たのは初めてのこと。これはなにか...と言うことで、思い切って彼に「ジャズですか...」と尋ねた。「そうです...」という返事なので、「チンのこと知ってますか...」と尋ねると、「勿論大好きですよ...」。「今日昼間葬儀に参列しましたが,印象深い式でしたよ...」と言うと、「亡くなったんですが、骨折と聞いていましたが、それは...」と大変に驚いている。少し話をしているうちに停留場が近づく。名前も聞かないまま、最後に「追悼の演奏会も予定されているから、是非参加してみてよ...」と言うと頷いてくれ、そのままの別れとなった。 何とも不思議なチンが引き合わせてくれた、"縁"だったのかも知れない。
チン鈴木良雄。好漢の魂へ 合掌!
【今週の番組ゲスト:Jaz.in編集長の佐藤俊太郎さん】
新しく立ち上げたジャズライブの予約サイト『Jaz.in+』をご紹介いただきました。
M1「Tidal / 西山瞳」(『Layer』より)
M2「Bitter Fruit / Halie Loren」(『A Kind Of Wilderness』より)
M3「ゴー・オン / ジョージ大塚」(『GO ON』より)
M4「Beverly / 山中千尋」(『Happy-Go-Lucky』より)







