【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.845~信濃追分日記2026年 柚木麻子「バター」~】
信濃追分の山荘生活ではTVも新聞も無し。そこで必然的に体力維持のウオーキング、知的活動としての読書・音楽(ジャズ)鑑賞がここでのメインとなる。但し自身のチャンジー(爺さん)化に伴い、ここ数年で山荘のアルバムの断捨離を大胆に敢行、1000枚を越すCDやアルバムも、必聴盤以外は余り手元に残っていない。また本の方も大分整理してしまい、こちらも残册少なし。まあ無い々尽くしの山荘生活だが、それもまた仲々に良しではあります。
さてその山荘での読書生活だが、こちらは軽井沢や御代田、小諸と言った東信地区の公立図書館を最大限に活用、様々な本を読み漁っている。本読みと言えばぼくの好きなのは、ハードボイルド小説のディック(私立探偵)もの。但しこの分野残念なことに、ジャズ同様に余り元気無しの様相。そんな折、あの筒井康隆大先生が文芸誌の「文學界」に、「デトロイトからの殺し屋」など3ヶ月立て続けで、ハードボイルド風な中編の探偵ものを発表している。今頃筒井氏が何故⋯とは思ったが、これは是非にも⋯と思い直し、全部を借り出して読んでみた。その結果だが、残念なことにこれはいささかハズレだった。ハードボイルド風な意匠のディックものだけに、背景の音楽も嬉しいことに当然ジャズの銘品が並ぶ。また話のテンポもまあまあ。ただこの探偵もの、本格的なハードボイルド小説とも、アガサ・クリスティー風な謎解きもの(ぼくはこれ嫌いです)とも言えない、大家らしからぬいささか中途半端なもので、残念ながら期待には及ばずだった。
そこで口直しにと、前から是非読みたいと思っていた、柚木麻子の話題の作品(と言ってもいささか古いか⋯)「バター」を読むことに⋯。今やハルキ(村上春樹)を凌ぐ勢いで、欧米各国を席巻しているらしい、日本の女流作家群の中でも、随一とも言えそうな存在の柚木麻子。その彼女の作品で、世界50カ国近くで翻訳され、発行部数はなんと200万部とも噂される、話題の「バター」である。柚木麻子は「マジカル・グランマザ」という、元女優が主人公の痛快老女物語に痛く刺激を受け、その代表作とも呼べそうな「バター」には、期待する処大だった。そして読み終わって、これは一気読みも当然な久々の大満足の痛快作と確信した。犯罪・サスペンス小説でグルメものでもあり、ジェンダー自立問題から女性同士の友情談等など、様々な学びや考えさせられる処も多々な、懐の深い傑作小説でもあった。
この小説のモチーフは、10数年前に実際に起き世間の注視を集めた、あの連続殺人事件。何故に余りパットしない太めの中年女性が、お金持ちの初老男性達を誑かし、遂には連続殺人で金品を奪えたのか⋯、と言う世間の注目を、様々要素も更に盛り込みつつ、実に巧みなサスペンス小説へと昇華させて行く。その手並みは真にアッパレと言った趣きで、真夏の盛りに読むにはピッタリな一編。柚木の力量にも感嘆すること必定な、お勧めの逸品です。
そしてもう1冊、これも前から読みたいと思っていたものだが、王谷晶の「ババヤガの夜」。柚木麻子の「バター」とゴールド・ダガー賞(推理・ミステリー小説世界的賞)を争い、こちらが僅差で日本人として始めてこの賞の翻訳部門を受賞したと言う、これも記念すべき一作。帯にハードバイオレンス小説の極とあり、キル・ビルやたけし(北野武)のヤクザもの好きには堪らない...とあるが、確かに一気に読み通せるシスターバイオレンス小説で、女性とヤクザ一家との抗争など、筋書きはまあ面白いのだが...。このバイオレンス小説を読む迄に、この人の作品を幾つか読んだのだが、どれも今イチぴんとこなかった。かなり話題になっているし国際的な賞も獲得しているので...、とまあ一気に読んだのだがやはりピンとこなかった。この人とは余り相性が良く無いようである。そう長くない小説なのでまあ一気には読めるのだが...。イギリス人の審査委員長が、たけしのバイオレンス映画を引き合いに出して、この小説を褒めていたが、北野武とは似て非なるものといった感も強かった。それにしてもたけしの影響力は欧州では圧倒的だ。こちらも今の日本の女流作家の力量が分かるものとして、一読を勧めたい小説ではあります。
【今週の番組ゲスト:夏のラテン特集第3回。ゲストは東京キューバンボーイズの大高實さん】
M1「Peanut Vendor / 見砂直照と東京キューバン・ボーイズ」(『ラスト・コンサート』より)
M2「La Bikina / 見砂和照と東京キューバンボーイズ 」(『WITHOUT YOU〜世紀のキューバン・ビート〜』より)
M3「Si Yo Fuera Como Tú / Pancho Amat」(『De San Antonio a Maisí』より)
M4「Vamos a Tocar / オルケスタ・カリビアンブリーズ」(『La Brisa Caribeña』







