【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.830~ジャズを歌う医師~】
医者という職業は、皆様も良くご存知のように大変に重要な仕事だし、それになるのもまた大変な知力と努力が必要とされる。と言うことをまず記したのは、ぼく自身が医者の息子で、おふくろの家系も兵庫県の北部~但馬地方で、明治時代に最初に創設された病院(小出病院、今は廃院だが建物は県の重要文化財)の創設家...と言う、医者にはなにかと関係深い出自。だが能力に欠ける為におよそ医師になると言った選択肢を持たなかった、持てなかった男だけに、その難しさ、大変さが身に沁みており、同時に親父などからは、医者を目指そうともしない駄目な...などと、何時も思われ続けて来た、コンプレックスの持ち主でもある。
そんなぼくだけに、医師でもありジャズも良くものするひとは、かなり尊敬に値する...と思っており、本場のアメリカでもそうした人物として挙げられるのは、ピアノのダニー・ゼイトリンとトランペッターのエディー・ヘンダーソンの2名位なもの。その他にも未だいるだろうが、プロミュージシャンとして知られた人は、殆んどいない筈。
一方我が国では、ぼくの良く知る人がいる。有名な女性心療内科医でシンガーでもある海原純子さん。彼女は心療内科医の傍ら、既に2枚ほどのジャズアルバムも発表、ライブ活動も毎月コンスタントに続けている。その海原女史とぼくとは、もう半世紀に近い長い付き合いになるのだが、知り合ったきっかけはラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)の深夜のニュース番組(「ニュース・オールナイト」)だった。深夜に1時間の生放送でニュース紹介をし、それを夜中リピートして流すという当時としては新機軸のニュース番組で、そのキャスター役を公募で集まった10名程の女性陣が務めると言った趣向。そのキャスターの面々はかなりユニークで、大学講師や活弁士等もいたがその一人が、当時大学の勤務医だった純子女史だった。ぼくもこのニュース番組担当の一人で、深夜の収録終わりに雑談をしていて、彼女が大学生時代に学費稼ぎでジャズを歌い、既にアルバムも出していることも知り、なにかと親しくなった。そしてこのニュース番組が2年ほどで終了した後、彼女は日本で初の女性専門クリニックを青山に設立、今でこそあふれるほど女性専門医院はあるが、その端緒を切ったのが彼女で、各マスコミからは大注目。一躍その容姿なども相俟って、TV出演などマスコミの寵児へと躍り出たのだった。忙しくなった彼女とは、その後余り連絡は取らなかったが、ある時健康関連の目玉新番組を...と言う局の編成セクションの提案で、その候補に彼女の名前が出て、再び彼女と関わりを持つことになり、彼女がジャズを再度歌い出すようになってからは、色々とジャズハウスのオーナーやジャズ関係者を紹介したり...と、ジャズを通じての付き合いは今でも続いている。
その彼女が先日、ぼくの大好きな神保町の「アデュロン・ダック」で、これもぼくのご贔屓のピアニストの一人、石井彰氏と初めてデュオを組みライブをやるので是非に...と、半強制とも言えそうな連絡を頂いた。そこで久々に彼女の歌声を...とも思い神保町に向かう。20数名程で満杯になる小ぢんまりとした気持ち良いスペースのアデュロンは、純子女史のファンで既に満杯、外国人の客も数名いる盛況振り。ライブは日本のビル・エヴァンスの呼び声も高い石井氏とのデュオだけに、バラードがメインの選曲で中々に歌いこなしも難しそう。一時はシャンソン歌唱にも力を入れていた彼女だけに、どうもシャンソン風な感情過多な情緒表現が目立ち、いささか軽やかさや爽やかさに欠ける歌い口だが、曲によっては結構ハマるものも有り、それなりに愉しむことは出来た。何時もは強気で自信満々な彼女だが、実力派の石井氏との初顔合わせだけに、珍しく緊張気味でそこは仲々に可愛らしいくもあった。終わってもう少しナチュラルさが出れば...等と偉そうに意見したが、これも長い付き合いだからこそのもの...。そう言えばジャズボーカルに精通した御大=寺島靖国師が珍しく顔を見せており、彼もなにかアドバイスしていたが、寺島師をも惹きつけるだけの何かの魅力を持っていること、永年の友人としても嬉しくは思った。
石井氏とはこれからも共演したい意向のようなので、ビル・エバンス・スペシャルといった感じで、彼のオリジナル(詞がついたものも有り)や、彼が取り上げたスタンダードナンバーなど、エバンス関連でライブプログラムを纏めるのも一興では...と、別れ際に彼女に伝えたが、自信家の彼女が果たしてこの意見を聞き入れるのか、しかとはしませんが...。まあこれからも宜しくお付き合いのほど...、純子先生。
【今週の番組ゲスト:ジャズピアニストの永武幹子さん】
新譜「LIVE AT NARDIS tribute to Cecil Taylor」より
M1「Lono」
M2「This Nearly Was Mine」
M3「Improvisation #1 Pt.2 Storying」
M4「Improvisation #2」




