【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.826~ジャズ・アット・リンカーンセンター・オーケストラ~】
ウイントン・マルサリス率いるジャズ・アット・リンカーンセンター・オーケストラ(JLCO)が、ほぼ20年振りという来日コンサートを、東京・大阪の2都市でこの3月末に敢行した。その後には韓国公演も控えていたようだが、ウイントンのライブを聴くのは久々だし、会場のすみだトリフォニーホールも...ということで、結構愉しみにして錦糸町の会場に向かった。そう言えば先月末には、守屋純子オーケストラ、そして今月はウイントン・ウイズ・リンカーンセンター・オーケストラと、滅多にないジャズオーケストラの連ちゃん鑑賞...などと、よしな事を考えながら会場に到着。入口付近でジャズ関係者の知り合いと出会い、次々と挨拶を交わすが、連中はこの久々の公演にほぼ期待半分、幾ばくかの不安もまた...といった感じ。と言うのもこのオーケストの創設者にしてリーダー&音楽監督でもある、ウイントンが40年間のリーダーとしての職務を、来年夏には終了するというニュースが、この1月末にNYから伝わって来たばかりだったから...。となると今回の公演が、ウイントンの日本に於けるこのジャズオケ最後になるのは間違いなさそうで、それへの期待と不安といった感じ...も加味されているのだろう。
まあ始まるまでになんやかんやあったのだが、ウイントンと15名のJLCOの大会場もほぼ満杯で、流石はウイントンである。ただぼくの持ったある不満は、かつてはNYと言うよりも全米から集めた綺羅星のようなスター軍団ジャズオーケストラだったのに対し、今回は公演パンフレットなどを見ると、大分メンバーが小粒化した感も免れない。ぼくの知っている面子は、ペットのライアン・カイザーとマーカス・プリンタップ、それにピアノのダン・ニマーぐらいで、いささか残念な処。但しそこは巨匠ウイントンのお眼鏡に合った実力派揃いだけに、その腕前は確かでオケのアンサンブルもバッチリ。完璧とも言えるもので(ソロはスターの少なさで幾分物足りない感もあり)、40年間の実績も伊達では無い...趣きもありあり。会場にはフルバンド経験者の若いファンもかなりいたが、皆それなりに満足だったと思う。
それではお前はこの公演、満足したのか...と問われれば、やはり今イチだった...と答えるしか無い。ウイントンの説教臭さと言うか、どうもジャズ教育者や普及者と言った側面が押し出され、ぴしっとまとまったオーケストラの素晴らしさに、ジャズへの取り組みの真摯さなどはあるが、その演奏からはジャズが本源的に持つ、自由さや愉しさ、余裕など...と言ったものが、余り感じ取れ無かったのも、また事実である。言わば遊び心に欠けているのである。ジャズをより多くの人に...と言うその気持は、充分に尊重されるべきものだが、こう畏まった形で伝えられても一寸...と言った感もまたある。かつて時代の寵児として、マイルス亡き後のジャズを担う存在役を担い、次々に新作を発表し続けた若武者=ウイントンの姿はここでは影を潜め、63才という威厳あるジャズ教授としての姿があった。どうもジャズの伝統継承と普及...と言う大きなテーマに絡め取られてしまい、ジャズ守旧派の御大としての彼の姿が、いささか目立った...と言うのが、このオーケストラ公演を聴いての、ぼくの実感だった。ウイントンのトランペットプレーは、往年と変わらず艷やかで輝いており、彼自身は相変わらず、素晴らしいミュージシャンだし、伝統継承者としてのウイントンの姿も、確かに意味あるもの。ただぼくやその仲間が彼に期待するもの、それはもう少し違った姿では無かったかとも思う。...と書きながらも、やはりそこは一流のジャズ・オーケストラ、立派な演奏でしたね。
【今週の番組ゲスト:アルトサックス奏者の江澤茜さん】
新譜 ピアニストDavid BryantさんとのDuoアルバム『I Still Don't Know』から
M1「Midnight Mood」
M2「I Still Don't Know」
M3「How Deep Is the Ocean」
M4「Photograph」
右下「radikoで聴く」をclick♪(2026.3.29)




