【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.342~ジャズVSカントリー】
いよいよ「マッドドッグ」トランプの時代が始まった。日本の代議士や御用マスコミなどは、彼は一流ビジネスマンなので大統領になればそれなりに常識的な施策を...等と宣っていたが、肝心のトランプ本人はそんな甘い予測をあざ笑うように、TPPからの離脱、延期になっていた石油パイプライン施行(ネイティブアメリカン達の居住地を通過させる)、果てはメキシコ国境での壁の建設と、矢継ぎ早やに悪施法を決めてしまった。突然の(と言うより予測通りの)この暗雲来襲でなんとも落ち着かない毎日だし、アメリカの非白人層などは本当にやるせない毎日だと同情する。ただこれも一つ間違えればあの悪名高き人種差別団体、"KKK(クー・クラックス・クラン)"にもイエスを挙げてしまうだろう彼の多くの支持者達、ディープサウスや中西部に住みこれまでは物言わぬとされてきた一般白人層(貧困層も多いとされる)には、まさに天にも昇る心地良さなのだろう。あと数か月もすればこうした白人層とアフロアメリカンやラテン系アメリカン、そしてネイティブアメリカンなどとの亀裂・対立は埋めがたいものになっていくだろうし、それをただ口を咥えてみるしかない今の心境、大変に心苦しいものがある。
ところでこの「マッド」トランプの登場は、世界の~そして当然日本の子供達にも大きな悪影響を及ぼすことは間違いない。ちょうど今TVでは、横浜市長が被災地から移転してきた子供へのいじめに対する、市の対応の拙さを謝罪している所だが、トランプ流の自己中心思考が蔓延ればこんなことで謝る市=行政が悪い、などと言う意見もまかり通りことになるだろうし、差別的言動が子供達に一般化のする恐れさえある。恐ろしきポピュリズム時代、差別時代の到来の悪しき予感すらしてしまう。
そんな差別時代の到来は、当然音楽の世界にもいろいろな形で影響を及ぼすに違いない。多くの有名シンガーやミュージシャンンがボイコットしたマッドトランプ就任直前のウエルカムコンサート。ここで幅を利かせていたのが、テキサス州やミズーリー州などアメリカ南部や中西部から来た(日本ではほぼ無名の)カントリーアンドウエスタン(Ⅽ&W)シンガー達。日本ではウイリー・ネルソンなど何人かを除いては、ほとんど話題にもならないⅭ&Wだが、アメリカでは根強い...と言うよりもジャズなどをはるかに凌駕する勢いを誇っており、右寄りの政治屋等が登場するときにはいつもそれをバックアップする一大勢力を形成する。一方ジャズはその誕生の経緯やその歴史から、その対極に位置する(享楽的側面も勿論あるのだが...)音楽として、その存在意義があったとぼくは信じている。ただこの所は残念なことにそうした力を失ってしまっている。しかし今またその対立構図が復活しつつある。長年NYに拠点を据えていたマッドドッグが、どんな音楽趣向を持っているのかは定かではないが、彼の支持母体は間違いなくカントリー音楽志向。ジャズvsカントリー、もっと言えばカントリーvs非カントリーアメリカンミュージック(ソウル、ラテン、ヒップホップ等々)。この音楽対立はマッドドッグの在任中は続くに違いない。そしてぼく達もその経過をしっかり見つめ続ける必要がありそうだ。
と言うことで今日の1枚は、今は亡き名ベーシスト、チャーリー・ヘイドンがスペイン内乱での自由市民軍の行動を称え結成したユニット「リベレーション・ミュージック・オーケストラ」の同名アルバムと言うことにしたい。限りない音楽の自由を称える彼らの演奏は間違いなく聞く者の心を打つ筈だ。
【今週の番組ゲスト:「ジャズのお勉強」音楽評論家の青木和富さん】
M1「Grease Piece / The Brecker Brothers」
M2「Dance With Me / Earl Klugh」
M3「Captain Caribe / Lee Ritenour & Gentle Thoughts」
M4「Soul Shadows / The Crusaders」