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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜22:30~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.438~ドキュメント映画「ピアソラ」】

 皆さんは「MPB」と言う言葉ご存じだろうか...。「ムジカ・ポピュレイラ・ブラジレイラ」と言うポルトガル語の略語で、このコラムで取り上げるのだからどうやら音楽に関する用語だとはお分かりだろうが、その通りでブラジルのポピュラー音楽全般を意味する言葉。唄の国ブラジルを象徴するアントニオ・カルロス・ジョビンからイバン・リンス、カエターノ・ベローゾなど、多くのブラジリアンシンガー&ミュージシャンがこの言葉には含まれている。そんなMPBはジャズを含む世界中のポピュラー音楽に大きな影響を与えている訳だが、ぼく自身にとってMPBとは、自身の音楽観の根幹をなす重要な3人の音楽家達を指しており、本来のこの言葉の意味合いとは大きく異なっている。
 
 
そのぼくのMPBとは、まずMはマイルス・デイビス。モダンジャズの歴史を体現化した余りにも有名な巨星。そしてPはモダンタンゴの創始者にして革命児とも言われた鬼才アストル・ピアソラ。そして最後のB、これは言うまでも無く楽聖J・S・バッハのこと。この3人こそぼくの音楽原点を形作った存在とも言えるし、実際に彼らに関したアルバム(CD&アナログ盤)だけで優に150枚を越した数を所持していると思うのだが、それだけ重要な音楽家達なのである。その中のPことタンゴ界の偉才、作曲家にして世界最高のバンドネオン奏者でもあるピアソラに関するドキュメンタリーフィルムが公開されると音楽関係者から教えられ、早速配給会社などを調べ、その試写会に出かけることにした。
 ドキュメントフィルムの邦タイトルは「ピアソラ~永遠のリベルタンゴ」、12月初頭から渋谷の「ル・シネマ」等で公開予定とのことで、彼の銘曲「リベル・タンゴ」をサブタイトルに織り込む辺りは、日本人受けするように...と言った配給会社の配慮が見え隠れするが、原題は「ザ・イヤー・オブ・シャーク=鮫の日々」と言ういささか物騒なもの。これは彼が鮫釣り(!)が大好きだったこと(映画にも鮫釣り場面が出て来る)、また時に世の偏見に対し鮫のように獰猛になる彼の性格を象徴しているものとも思われる。

 
昨年2017年は彼の没後25周年。それを記念して大々的な回顧展なども故郷のアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたようだが、同時にその25周年を記念して息子のダニエルが、監督に彼のドキュメンタリーフィルムの制作を依頼、そこでダニエルの父親アストル・ピアソラへの回想を中心に描かれたのがこのフィルムと言う訳。監督はピアソラの後継者とも目されるバンドネオン奏者ディノ・サルシのドキュメントフィルムも作っており、それを見た息子が彼に委嘱したようだ。「情熱と哀愁の音の魔術師、ピアソラの素顔とは...」と映画の惹句にあるが、これは息子のダニエルの目を通したピアソラ像。彼はダニエルの母親とは離婚しその後出会う女性歌手や2番目の奥方との関係も大変に重要なのだが、そこら辺がスルーされている辺りいささか残念ではあるが、昔の8ミリフィルムなども挿入されかなり多角的にこの鬼才の全貌が伺え興味深いものだった。なにより実際の彼の演奏フィルムがかなり沢山挿入されている辺りも嬉しい限り。フィギュアスケートのバックミュージックなどでも数多く使われ、かなりポピュラーになった「リベルタンゴ」を始め、父親の死を悼んだ「アディオスノニーノ」、彼の名前を一躍有名にした「ロコへのバラード」など、代表曲の数々が画面に登場、それだけでもファンとしては堪えられない。彼は伝統的タンゴの破壊者として見られ、アルゼンチン本国では不当に低い評価に甘んじなければならなかったが、世界的チェリストのロストロポーヴィッチやヨー・ヨー・マ、またジャズバリトン奏者のジェリー・マリガンなど、多くの有名音楽家達が積極的に彼を擁護、彼とアルバムを作る(マリガンとの共演作でぼくは彼の存在を知った)などして、その功績を高く評価したため、本国でも評価は一変したと言う曰く付きの革新的音楽家。映画の中でも息子のダニエルが、強烈に印象に残っている父親の言葉として「過去を振り返るな、昨日成したことはゴミだ..」を上げているが、言葉は少し違うがまさにマイルス・デイビスも同じ内容の言葉を語っている。天才の天才たる所以でもあるし、音楽上の革命者はまさにそうでそうなければならないのである。

 
かれはその晩年~80年台の末に数回程来日を果たしているが、幸いなことにぼくはその内の2回ほどを聴きに行っている。まさに感涙ものの素晴らしいコンサートで、間違いなくぼくのライブ体験のベスト5に入るものだったが、漢(男)としても実に魅力的な人だった。改めてピアソラの偉大さを確認するには、この映画は格好のドキュメンタリー映画だと思うし、この偉才の業績を再度多くの人が見つめ直して欲しいものでもある。

【今週の番組ゲスト:ラテンピアニストの仲田美穂さん】
4年ぶりのリーダーアルバム『Vontade』から4
M1Melancia
M2Amar a Maria
M3Take Five
M4Capllichosos De La Havana



















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