「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.657~22年今年の1枚】
いよいよ2022年も終わりに近づいて来たが、今年ほど世界の終末も近いのでは...と思わせる年は無かった様に思う。と言うよりもこの半世紀以上の間、ぼくがものごごろ付いてからのことだが、まずそんなことは考えもしなかった。だが何よりロシアのウクライナ侵攻、コロナ禍の相変わらずの蔓延継続、更には中国の習近平体制の強化等々、予想不能な事態が次々と起こり、明るい未来を描けない感じなのだ(まあ元々そう長くも無い人生だから...)。まあそんな折に能天気にも今年のジャズ界の1枚...などを挙げてみても、どうなのか...等と言う根本的問題は置いておいて、例年通りジャズの専門誌などではこの手のベスト選出特集が組まれ、その依頼にはかなり頭を悩ますものなのである。と言うことで今年も又「この1枚」選定の時期になったし、このコラムでも一応そんなテーマで書いているので、また今年印象深かったジャズアルバムを挙げてみたいと思う。今回はまず国内編から...。これは3枚挙げた候補作の全てが、今年ジャズ番組「テイスト・オブ・ジャズ」でも取り上げ、ゲストにも来てもらった人のアルバムばかり。
まずは今年の春に出された、ぼくの早稲田大のジャズ研仲間でもある本邦随一の人気・実力のベーシスト、チンさんこと鈴木良雄のニューバンド「ザ・ブレンド」のデビュー作『ファイブ・ダンス』。峰厚介、本田珠也などJ-ジャズシーンの中核が集まったこの新バンドは、チンさんが久々に本格的ジャズに再挑戦した(それ迄はアンサンブル重視のユニット作がメイン)力感溢れる2枚組意欲作で、J-ジャズのメッカ、新宿「ピット・イン」でのライブをそのままアルバム化したもの。古い友人のよしみで頼まれてアルバムライナーからフライヤー(PR誌&紙)等、最大限の協力をした色々と思いある1作でJ-ジャズの底力を示した秀作。ジャズ関係者の評価も高かったのも望外の喜び。
そしてもう1枚は、チンとは正反対の弱冠21才の若手バリバリの女性トロンボーン奏者、治田七海のデビュー作『Ⅱ』。札幌市出身で中学生の時からプロとして現地のクラブなどで活躍、札幌に大器がいると大評判を集め、昨年の初めに上京し始めて吹き込んだデビューアルバム。この難楽器を軽々と吹き熟し、噂通りの大器振りを強く印象付ける快演を聴かせてくれる。若くしてプロとして活躍しながらも、少しもすれた所の無い感じの良い素敵な女性。デビュー作のタイトルが『Ⅱ』とはこれ如何に...と言った感じだが、なんと彼女の最も好きな数字だそうである。
そしてラストの作品は、純生ジャズとは言い難いのだが素晴らしいものである。メゾ・ソプラノ歌手の波多野睦美と気鋭のバンドネオン奏者.北村聡のデュオアルバム『想いの届く日』。「マイ・フェイバリット・シングス」などのスタンダードナンバーも取り上げているが、大部分はタンゴや中南米の有名なポピュラーナンバーで、その他に中世の宗教化などもある。タイトルはタンゴの名歌手カルロス・ガルデルの書いた銘曲で「オブリビオン」などのピアソラナンバーも数曲と結構タンゴ色も濃い。スタジオにはタンゴバンドネオン奏者の第一人者、小松亮太の一番弟子でもある北村くんが遊びに来て、このアルバムを紹介してくれたのだが、タンゴ・中南米音楽。更にはジャズなどの要素も入り混じった、不思議な存在感と説得力を持つこのアルバムに魅了されてしまい、直ぐに今年のベストなのでは、と思うようになった。中南米からアメリカ、ヨーロッパ等々、様々な地域や領域を軽々と飛翔する、この2人の対話は実に素晴らしいものだが、中でも嬉しいのはぼくの最も好きな中南米の銘曲「アルフォンシーナと海」を取り上げて、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げてくれていること。
鈴木チン、治田七海、波多野&北村、この3人のアルバムが22年最も印象に残った候補作だが、その中でベストの1枚となると「アルフォンシーナと海」の魅力が勝り、やはり波多野&北村チームに軍配を上げることにした。今年の国内盤はこれで決まりです。
【今週の番組ゲスト:アウルウイングレコード 代表 の荒武裕一朗さん】
M2「Minton Blues / 本田竹彦」
M3「わたすげ / 田中信正」