【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.810~上橋菜穂子のハイ・ファンタジー小説読破~】
ファンタジー小説と言えば、トールキンの「指輪物語」を筆頭に、アシュラ・ル・グインの「ゲド戦記」、CSルイスの「ナルニア国物語」など、そして最近では大ヒット作のハリー・ポッター・シリーズなどもこの分野に入る訳だが、多くはジュブナイル~児童書として位置付けられ、大人が読むことは比較的少ない。ぼく自身は好きな分野で、ハリー・ポッター・シリーズ以外は結構読んでいるのだが、チャンジー(爺さん)年代になってからは、余り読む機会も無くなってしまった。しかしこの分野、単なる児童向け書では決して無く、「指輪物語」(全編は未読)などは正に大部の大河小説の趣で、児童にはいささか難物...と言った感も濃い。そんなファンタジー小説は、やはり欧米の小説家の独壇場ではあるが、どっこい日本でも、この分野で傑出した成果を挙げている人がいる。文化人類学者と言う顔も持つ上橋菜穂子さんである。彼女は最近香りに対し独特な感性を持つ女性を主人公にした、「香君」と言うファンタジー小説を出し話題を読んだが、元々はもっと骨太の冒険小説風なファンタジーを書く人で、この分野の最高権威「国際アンデルセン賞」も受賞している。
龍使いの話「獣の奏者」、大鹿の話「鹿の王」など、どれも正に血湧き肉躍る...と言った感じの秀作揃いだが、なんといってもその代表作は、大部の「守り人」シリーズだろう。「精霊の守り人」で始まったこのシリーズは、女用心棒バルサと父親の皇帝に嫌われ皇宮を追われた皇太子チャグムの逃亡劇シリーズで、6冊ほどのシリーズもの。綾瀬はるかの主役でNHKでドラマ化されたので、見た方もおられるかも知れない。ぼくもこのシリーズ小説が出て直ぐに読んだのだが、バルサとまだ幼いチャグムの逃亡遍歴小説であると同時に、幼い皇太子の成長に連れてなにかバディー(友人・仲間)小説的な興味もあり、大好きなシリーズだった。
守り人シリーズの一応の終わりは、当然用心棒バルサとチャグムの別れ、チャグムは自身の皇国に戻る...という設定である終末を迎え、ぼくも満足して読了したものだった。もう20年ほど前のことだと思う。それが先日図書館に行きある絵本を探しているときに、上橋コーナーが設けられているのを見たが、そこには"守り人"シリーズではない"旅人"編があった。それは別離以降の皇太子チャグムの遍歴を追ったものだと知り早速読んだ。するとこれがかなりスケールの大きな歴史ファンタジーの要素を含んだ傑作(2冊)で、これに続く3巻の「天と地の守り人」が、これに続くものと知り、続けて一気に読破。ようやくこの「守り人」シリーズの最後を3日間ほどで読み切り、改めて上橋菜穂子と言う作家の凄さを思い知らされた。最後の「天と地の守り人」3巻で、長い困難な旅にあるチャグムと、彼を懸命に探すバルサがようやく出会い、そこには悲惨な戦争なども絡み、最後はどうにか皇帝になったチャグムと一介の用心棒のままのバルサとの別れ...など、一応の大円段を迎えるのだが...。
上橋は「天と地...」の後書きで、「長く書き継いでいると、バルサもチャグムもただの作中人物では無くなり、自分であり自分でない不思議な人格になっていますから、二人の再会はわたし自身にとっても他人事ではなかったのです」と...。この2人の再会からまたまた一気に話は広がり、スケール豊かなものになっていき、感動のクライマックスを迎える。20年近く経って久しぶりにシリーズを読んで、相変わらず実に爽快な読後感だった。未だこのシリーズを読まれていない方、正に老若男女の方達に、日本にもこんな凄い作品があるのだと...、誇りに思えるファンタジー・シリーズ。本当にお勧め本です。
今週は「ポーランドジャズスペシャル」
番組プロデューサーの小西啓一の解説でお送りしています。
M1「Naima / Paulina Przybysz」(『Insides』より)
M2「Leszy / EABS」 (『Slavic Spirits』より)
M3「mazur 1v2 / Aga Derlak」(『Neurodivergent』より)
M4「Prelude In E Minor / Andrzej Jagodzinski」(『Chopin 'Les brillantes'』より)






