【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.280~川上さとみ】
1970年代の半ば頃からジャズの花形楽器(と言うよりもジャズ界全体をリードする)楽器は、それまでのトランペットやサックスと言った吹奏金管楽器から、鍵盤楽器のピアノに移行したと言える。そしてこのピアノ全盛時代は現在までかなり長い間続いており、今や我が国ではジャズアルバムと言えば、ピアノものしか売れないと迄言われる程、少しばかり歪な状態にもなっている。
そんなJジャズピアノの世界では、御大の秋吉敏子さんを筆頭に、山下洋輔、小曽根真等と言ったベテランを除くと、女性陣の方が元気がいいようである。その筆頭格は国際的なスケールで世界中を飛び回っている真のワールドワイドなスター、上原ひろみ。そしてそれに続く山中千尋と何かと女性の名前が出て来る。
そんな多士済々の女性陣に番組ではスポットを当てようと言う事で、今最も忙しい一人、片倉真由子(ラジオデビューはラジオたんぱ)を先々週スタジオに招き、5年振りになる新作『エコーズ・オブ・スリー』を紹介して貰った。中村恭士、カーマン・イントーレと言うバークリー音楽院時代からの仲間を伴ったこのアルバムは、彼女らしい覇気に溢れた力感溢れるアルバムで、オリジナル中心でぐいぐい迫ってくる辺りも大きな魅力だった。
そして今週は美形のピアニストとしても知られる川上さとみをスタジオに招いた。彼女も今回4年振りになる新作を発表、こちらも殆どが自身のオリジナルと言う自信作で、タイトルは『バレリーナ』。この新作は彼女にとって6枚目のアルバムだが、デビューの時に今は亡き巨匠ハンク・ジョーンズにその才能を絶賛されたことで一躍注目を集めた彼女も、一時ピアニスト生命が危ぶまれるような難病を患い、そこから見事復活し堂々のピアニスズムを披露しており、その努力はやはり素晴らしいものである。タイトルにはそうした彼女の心境も反映されているようで、一面華やかなバレリーナの内面を鋭敏にしかも優美に描き出した、如何にも彼女ならではの世界。「水面に広がる波紋のように美しいピアノの響き」とアルバムのキャッチにあるが、そのとおりと言った感じの深遠で優美な川上ワールドが全編で展開され、最近聴いたピアノアルバムの中でも強く印象に残る一篇である。彼女にそのことを伝えると、いささか恥ずかしそうに微笑んでくれたが、その所作も美形の彼女ならではの優雅さ。多くの男性ファンを虜にするのも至極当然と言った感じだが、かなりきっぱりとした男っぽい性格のようでもある。
アルバムのオープニングナンバーは「ダマスカス・ローゼズ」で、絶世の美女と謳われたクレオパトラも愛した香水のこととも言われるが、こちらとはとんと縁がなく良く分からない。その他にも「パールズ」「サファイア・ブルー」などと、セレブ色の濃いタイトルのナンバーが続くが、彼女だとピッタリと言う感じなのも美人の得する所だが、その実力、アルバム内容の秀逸さも保証済み。
そう言えば彼女、自身の姿には大分自信がある様で、今作も含め全てのアルバムが自身の少しセクシーなポートレート。力量があり美形、恵まれた才媛ですので、アルバム共々その語り口の優雅さも是非お愉しみあれ。
【今週の番組ゲスト:ジャズピアニストの川上さとみさん】
M1「Damask Rose」
M2「Ballerina」
M3「Nostalgia」
M4「Sapphir Blue」