「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週日曜19:00~19:30で放送中(再放送は毎週金曜日 18:30~19:00 ※特別番組放送により休止の場合あり)。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。
【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.654~和タンゴの俊才】
ぼくの昔からの趣向なのだが、アコーディオンやハーモニカ等と言ったジャズに於ける傍流の楽器...、これらのジャズアルバムをレコード店の棚で見つけると、直ぐに手が出てしまうのである。特にタンゴの専門楽器とも言えるバンドネオン、この難楽器によるジャズ...とは言い難いが、ジャズ的な匂いを感じさせるようなアルバム、これには目が無い。
このバンドネオンの名匠と言えば、今は亡き現代タンゴの巨星、アストル・ピアソラと言うことになり、実際彼はジャズメンとも多くの共演アルバムを残している。そのピアソラの流れを汲む日本の代表格が小松亮太で、彼が日本の現代タンゴ界を牽引しているのは間違いないことである。我がジャズ番組にも数回登場してくれている彼は、若くしてこの楽器の第一人者でもあり、また師匠格として弟子も抱えている。その彼の元から巣立って、今や彼を凌駕する様な目覚ましい活躍を示しているのが、関西出身の北村聡である。
北村はタンゴをメイン舞台に活躍しているが、その守備範囲は広くクラシックやポップス、シャンソン、更にはジャズプレーヤー等とも活動を共にしており、どれも素晴らしい成果を上げており、何時かはスタジオに呼びたい...と思っていた。その彼が有名なメゾ・ソプラノ歌手で、北村同様にジャンルにこだわらない活動を展開している波多野睦美。その彼女と2人で、ピアソラのタンゴから宗教歌、「マイ・フェイバリット・シングス」などのポップス迄様々な歌を取り上げたアルバムを作ったと言う話を聞き、是非スタジオにと思い...思い切って知り合いを通して声を掛けてみた。最初はジャズ番組と言うことで敷居が高いと遠慮していた彼だが、ジャズ番組ながらタンゴもシャンソンもポップスも取り上げる、雑食音楽番組だと言う説明をしてようやく納得してもらい、今回スタジオに登場と言うことになった。
師匠である小松亮太との出会い、大学卒業時にバンドネオン奏者としてプロになる決断をするまでや、タンゴだけでなく様々な音楽に積極的に挑戦するその姿勢等々、今注目の若きバンドネオンの若き匠が、その音楽経歴・音楽観などを忌憚なく話してくれている。一見取っ付きにくい職人気質のプレーヤーにみえるが、実にユーモア精神にも富んだ面白味のある好漢だった。
波多野とのアルバムはそのタイトルが『想いの届く日』。タンゴ界最高・最大の歌手兼作曲家として知られる故カルロス・ガルデル(1935年没)の不朽の銘曲で、アルバムの冒頭に収められており、その他「オブリビオン」などのピアソラ・ナンバーも数曲収められており、そのどれもが素晴らしい共演なのだが、ぼくが最もこのアルバムに惹かれたのは、ぼくの最も好きなラテンの名曲「アルフォンシーナと海」を取り上げていること。バンドネオンやハーモニカなどの傍流楽器ジャズと共に、この「アルフォンシーナ...」が入ったアルバムも、どれも手に入れたくなってしまうほど惚れ込んでいる曲なのだ。波多野の哀切な歌声を盛り立てる、北村の優しくも鋭いバンドネオンの音色。グッドです、泣けてきます。今年お勧めの一編です。是非皆様も一度彼のバンドネオン聴いてみて下さい。
【今週の番組ゲスト:バンドネオン奏者の北村聡さん】
M1「私のお気に入り / 波多野睦・北村聡」『想いの届く日 El día que me quieras』より
M2「Ostinato / 喜多直毅 クアルテット」『Winter In A Vision 』より
M3「Lily / 福盛進也」『Another Story』より
M4「想いの届く日 / 波多野睦・北村聡」『想いの届く日 El día que me quieras』より