【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.806~ミシェル・ルグラン~】
映画音楽の世界で3人を...と聞かれたらば、ぼくは躊躇無くイタリアのエンリオ・モリコーニ、アメリカからはヘンリー・マンシーニ、そしてフランスの巨星ミシェル・ルグランの名前を挙げる。この他にも坂本龍一、ニーノ・ロータなどの名前も忘れがたいが、やはりベストと言われればこの3人だ。 その内の一人、ぼくの最も好きな映画音楽作家、そして卓抜なジャズピアニスト(&シンガー)でもある、ミシェル・ルグランのドキュメント映画「ミシェル・ルグラン世界を変えた映画音楽家」がちょうど今公開されている。これを見逃しては...という事で、新宿の武蔵野館に行ってきた。最近は映画館に行く...と言うことも、殆ど無くなってしまい、公開のスケジュールも良く分からないのだが,このドキュメンタリー映画も一日一回きりの公開で、午後2時過ぎの回に間に合った。武蔵野館も本当に久々で、10数年振り位だと思うが、スクリーンが4つほどあり、それぞれ別の作品を上映している。こんな上映システムも今は常識だが、チャンジー(爺さん)の身にはなんとも慣れないし興味ふかい。
さてそのルグラン・ドキュメント映画だが、結論から言うとこうしたジャズメンなどの音楽家を扱う、音楽ドキュメンタリー映画としてはかなり興味深いもので、出来も良かったと思う。何より主役のルグランが、映画音楽作家だけでなく、卓越したジャズピアニストでシンガーなど...と、様々な分野で活躍する興味深い存在ということも有り、映画もその多才振りを追うだけで、様になる感もあった。
彼の父親レイモンは、フランスの有名なバンドリーダーだが、洒脱な浮気者で4回ほど結婚を繰り返し、ルグランはこの父親を大分嫌っていた様子で、そこら辺も興味深い処。幼少期から音楽の才は圧倒的で、あのピアソラも師事した有名な音楽教師ナディア・プーランジェに習い、彼女はルグランの才を高く評価し、自身の元に長く留めていたとも言われるが、彼の関心はジャズなどポップスに向かい、クラシックの路を断念、映画の世界に進む事となる。この当時はフランス映画の新潮流、ヌーベルバーグの始まった頃で、ジャン=リュック・ゴダール等と友情を深め、彼らの音楽を担当する。中でもジャック・ドミーと仲が良く、あの「シェルブールの雨傘」などを共作するがこの時代がドキュメント映画でもハイライトとなっており、実に華やかで愉しい。特にこの時代の彼のシンガーとしての画像、余り見たことも無いだけに興味深いもの。またジャズピアニストとしての姿も結構登場し、ルグランの多面的な姿もかなり浮き彫りにされていた。
映画のクライマックスは、死の1年程前に行われた彼のラストコンサート。そのリハーサルでも、厳しくも気難しいその姿が描かれ、コンサート本番では高齢も有り、どうにか指揮をする痛々しい姿も克明に捉えられていたが、中々に感動的なシーンだった。ぼくが印象深かったのは、ヌーベルバーグのひとりでもある女流監督アニュエス・バルダの「5時から7時までのクレオ」の1シーンが挿入されていたこと。これはシンガーでもあるクレオの数時間を記録した素晴らしい作品なのだが、そのワンシーンにゴダールとルグランが一緒に登場、ルグランのピアノをバックに歌手のクレオが唄うシーンがあり、この唄がまた素晴らしい。だが惜しいことにこのドキュメント映画ではカット。この1シーンでぼくは、ミシェル・ルグランと言う偉大な存在を、強く意識したものだった。
ルグランは『ルグラン・ジャズ』と言う名盤を、1950年代にマイルス・デイビスなどと発表、これは間違いなくジャズ史を飾る1枚。また自身のトリオ作も素晴らしいものを数多く出している。彼のベスト曲といえば、ぼくは「ホワット・アー・ユー・ドゥーイング・ザ・レスト・オブ・ユア・ライフ(これからの人生)」を挙げるが、その他にも名曲は多数。彼の作品集を出すジャズシンガーも数多いが、中でも圧倒的なベスト作は、北欧の名花~カーリン・クローグが唄うミッシェル・ルグラン集だ。欧州の作曲家の作品はやはり欧州の歌手が唄うのが最適で、ぼく自身は全てのジャズボーカル作品の中でも、これはベストの1枚と信じている。ルグランのドキュメンタリー映画、ぜひ見てほしいとも思う仲々の傑品ですから...。
【今週の番組ゲスト:ジャズヴォーカリストの平賀マリカさん】
新譜『BRESA』から
M1「the Song Is You」
M2「Tsubasa」
M3「The Show Must Go On」
M4「Danny Boy」




