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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.327~ノーベル文学賞】

 
このところの音楽界の話題は、非クラシックいやクラシック関連者も含めてかも知れないが、"ボブ・ディランがノーベル文学賞受賞したというニュースに尽きるだろう。またまた受賞を逃した我が村上春樹師(彼がかつてジャズ喫茶を開いていた、千駄ヶ谷界隈は受賞に向け大盛り上がりだったようだが...)も、あのボブ・ディランが受賞となれば、本音はどうあれこのニュース歓迎と言わざるを得ないだろう。音楽界でのノーベル賞受賞は当然初めてのことで、それもディランが受賞となっただけに、長い間彼を認めなかったアメリカのエスタブリッシュメント層もこれには脱帽なはずである。ノーベル賞受賞ニュースの翌日、用事があり新宿に出てタワー・レコードとディスク・ユニオンの新宿店を覗いてみると、彼のアルバムが平台に山積みになっており、店内で流れる音楽もディラン一色で、かなりのアルバム数がはけており、店にとってはこのCD不況時代に、時ならぬ救いの神の到来といった感じでもあった。

 まあ街はかなりなディラン・ブームといった感じもある訳だが、ではお前はどうなのか...と聞かれれば実のところ長い間彼の音楽とはほとんど無関係に過ごしてきた(「風に吹かれて」など初期の頃の作品は結構聞いたものだが...)だけに、喜ばしいことではあってもそう拍手喝采という訳でもない。そういえばこのディラン、わが局のラジオ日経でも、10数年程前のラジオたんぱ時代に、「ボブ・ディラン・クラブ」という確か30分の音楽番組が2年程続いており、パーソナリティーはディラン通の音楽評論家の鈴木カツさん、ディレクターは今は定年退職してしまったディラン好きのT君で(早稲田大の学生時代はブルーグラスバンドを組んでいた)、ディラン好きの間では結構評判になった番組だった。確か番組終了後には、鈴木氏が著者で番組を基にした同タイトルのディラン本も出たはずである。 

 ところでそのディランだが、皆様ご承知の通りフォークの神様ともいえる存在で、ジャズとは余り関係なし。しいて言えばあのキース・ジャレットが彼の代表曲の一つ「マイ・バック・ページ」を取り上げ(『サムホエア・ビフォー』Atl/68年)、これが名演としてかなりな評判を呼び日本でも人気になったこと位か...。そのジャズとは殆ど関係のなかったディランも、このところ年を取ったせいもあってかアメリカのスタンダードソングを歌うようになり、そのアルバムも日本でも出され結構評判を呼んでいる。まあジャズ業界関係者としては、やはりこの評判アルバム聞かざるを得ない...ということで、今年初め久々にディランの渋いしわがれ声と向き合うこととなった。そのスタンダードアルバムとは15年に発売された『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』、そして今年出された『フォーリング・エンジェル』の2枚。このうちぼくが聞いたのは今年出た後者のほうだが、両者ともほぼ同じ様な内容で、独特な魅力あるだみ声でスタンダードソングを淡々と歌っているというもの。『シャドウズ...』の方は「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」から「ザット・ラッキー・オールド・サン」まで全10曲。「枯葉」や「魅惑の宵」など有名ナンバー揃いで、アルバムタイトルはポピュラーシンガーの大御所、フランク・シナトラの名作『ストレンジャー・イン・ザ・ナイト』を意識した感がありあり。一方ぼくの聞いた『フォーリン・エンジェル』の方も、「スカイラーク」「ヤング・アット・ハート」「カム・レイン・オア・カム・サンシャイン」などこちらもおなじみの名曲が12曲で、スティールギターも含めたいささかカントリータッチの内容で、淡々としかも味わい深く名品を歌い上げている。
 
 ディラン自身は、「スタンダードソングを取り上げたこれらのアルバムを作ることは、本当に名誉なことだった。こうしたものをずっと前からやりたいと思っていたんだ...」と語り、「私の作業はこれ迄カバーされ過ぎて埋もれてしまっている、こうしたスタンダードソングの覆いを外し、埋められた墓場から掘り起こし、もう一度それらに光を与えることなんだ...」とディランならではの言い廻わしでその創作動機を明かしているが、決して肩に力が入った意欲的な姿勢ではなく、淡々と飄々と枯淡にしてしかも力強く歌い上げながら、これらのスタンダードソングを目一杯愛しんでいる、その様子がなんとも心地よくまた格好良くもあるのだ。  カントリーミュージックの第一人者、ウイリー・ネルソンやロック・スターのロッド・スチュワート等々、ポップスター達も齢を重ねるとスタンダードソングに回帰する傾向が見え、ディランもその例に漏れないのかも知れないが、そこはノーベル賞歌手ディランのこと、全き自身の世界を構築している所は流石だと言えるだろう。ディランの過去のアルバムはどれも文学賞という大追い風に乗って、わが国でもかなりな再ヒットを記録しているようだが、最近の2枚のスタンダードソングアルバムもそれに便乗して売れ行きを伸ばしてくれればと思う。そしてスタンダードソングからジャズへとアルバムを購入した方達が、その音楽の道筋を伸ばしてくれれば...ジャズ関係者の一員としても、望外の喜びでもあるのだ。 
【今週の番組ゲスト:ティートックレコーズ代表、シンガーソングライターの金野貴明さんと琴奏者の渡邊香澄さん】
M1CHA-LA HEAD-CHA-LA / 金野貴明」
M2
「未来への扉 / 金野貴明」
M3
LIBERTANGO / 渡邊香澄」
M4
REMEXENDO /熊本尚美ショーロクインテット」



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