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音楽と羽生結弦~音をつかむ氷上のアスリート

             text by 松原孝臣

 

 フィギュアスケートに不可欠なものに、
音楽がある。音楽なくしてフィギュアスケ
―トのプログラムは成立しない。フィギュ
アスケートが表現という側面を持ち、芸術
的な部分を含むスポーツであるのも、音楽
あればこそだ。曲調をつかみ、そこに込め
られた思いを感じ取り、どのように表現す
るか――音楽に対する感性は、だからこそ、
フィギュアスケーターにとって欠かすこと
のできない要素である。

 その点で秀でたスケーターに、羽生結弦
がいる。スケート人生において、曲との調
和を存分に示したプログラムを披露してきた。

 近いところであげれば、2021-20
22シーズンのショートプログラム『序奏
とロンド・カプリチオーソ』もその1つだ。

 初めて披露されたのは2021年12
の全日本選手権。そこで見せたのは、音楽
と動作が融合した演技だった。ピアノの一
音一音と符合した動作、音の強弱に呼応す
る振り付け......。ピアノの音の中に、情感
と情熱が豊かに立ち昇る。音楽との調和を
大切にする、その本質を捉えることができ
る羽生ならではの滑りが氷上に展開される。
フィニッシュの瞬間、観客席は揺れた。堰
を切るように立ち上がった人々が拍手で称
える光景があった。

 忘れてならないのは、競技としてのフ
ィギュアスケートでは、行うべきジャンプ
やスピン、ステップの数などに決まりがあ
ることだ。それらが演技において妨げにな
ることがある。特にジャンプでは跳ぶ準備
として助走を長くとるなどして流れを損な
うことがままある。だがそれらの要素を取
り込みつつ、演じきったのだ。

「ジャンプも表現の一つにしたい、そうあ
るべきだと思うんです」

 それを体現するところに、羽生の真骨頂
がある。

 音楽に対する感性や理解の深さを思わせ
るのは、氷上での演技にとどまらない。

 羽生はプログラムの製作過程の一端に
触れている。

「(選曲は)かなり悩んで、ピアノ曲をす
ごく探してきて、自分の中で羽生結弦っぽ
い表現、羽生結弦でしかできない表現のあ
るショートプログラムがどんなものがある
のかなと思ってずっと探していました」

 その末に行き着いたのは、「自分が昔か
らやりたいなと思っていた」曲だった。

 本来、この曲はバイオリンとオーケス
トラの演奏が知られるが、自分らしい表現
を追求していくうちに「ピアノのバージョ
ンにしよう」と考えた。『春よ、来い』の
演奏などで親交のあるピアニスト清塚信也
氏に編曲と演奏を依頼しオリジナルのバー
ジョンに仕上げた。プロデュース力をも思
わせるその土台には、音楽に対する繊細な
感覚がある。

 そして羽生の感性については、これま
でに多くの人が触れてきた。スポーツ誌
「Number」で音楽に携わる数名の
方々に話をうかがう機会があったが、数例、
紹介したい。

 2012年のアイスショー「ファンタジ
ー・オン・アイス」で共演したミュージシ
ャンの指田フミヤ氏は、同年のNHK杯エ
キシビションで羽生の演技を観客席から見
た。指田自身の曲『花になれ』で滑る姿を
こう語っている。

「感動して泣きましたね。歌っているのも
演奏しているのも自分なんだけど、曲が一
人歩きして、彼のものになっているし、そ
の場にいるみんなのものになっている。彼
が踊ってくれることによって歌詞、曲が目
で見えるように、立体的になっている。歌
っているみたいに滑っているな、と感じま
した」

 2020年、「羽生結弦プログラムコン
サート」が開催された。各年代のプログラ
ムをオーケストラが演奏、そこに映像を交
える公演において指揮を務めた指揮者の
永峰大輔氏の言葉も印象深い。

「だいたいの選手の場合、『音を聴いて踊
っている』、そんな感覚を受けます。音に
反応してから動作が始まると言うのでしょ
うか。でも羽生選手の場合、動作のタイミ
ングがもう少し早い気がします。僕らもコ
ンサートがうまくいったときは『魔法使い
みたいだった』とお客様が言うくらい、指
揮と音が一致するのですが、同じような感
覚でしたね」

「演奏中、コンサートの大きなスクリーン
で演技を観て気づいたこともあります。音
に触っているような手の動きをしていて、
まるで『指の先まで感じて踊っているな』
という印象を受けたのです。伸ばした手に
音がついている、と表現することもできる
でしょうか。ほかの選手はもう少し大づか
みな感じがありますが、羽生選手だけは違
う表現を観ている感覚がありました」

「曲が目で見えるように、立体的になって
いる」「指の先まで感じて踊っている」―
―彼らの言葉に通底するのは、羽生の音や
音楽に対する鋭さにほかならない。それが
羽生の数々の名演技を支えている。

 羽生は音楽を真摯にそして誠実に受け止
め、魅力ある音楽の世界を氷上に表してき
た。演技と音楽がぴたりと符合するから、
プログラムで使用された曲を聴けばその演
技を容易に思い起こすこともできる。

 プログラムの曲を聴いたとき、そこから
演技を脳裏に描き、たどっていく楽しみを
もたらすのも、羽生結弦ならではであり、
フィギュアスケートの意味、魅力を体現す
るスケーターであることをあらためて思わ
せる。

 プロフィギュアスケーターとして歩み始
めた今、音楽の理解と感性はより研ぎ澄ま
され、より豊かに表現していくだろう。

 

ラジオNIKKEIからのお知らせ/

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フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、プロ転向した羽生結弦さん。11月からは自らが演出した単独アイスショー「プロローグ」に出演しました。これを記念してラジオNIKKEIでは、『こだわりセットリスト特別編・羽生結弦選手特集』を19 (月・祝)に放送します。今回は「番外編」として、スポーツライターの松原孝臣さんをスタジオに迎えて、藤原菜々花アナウンサーの進行でお送りします。ショーの演目の曲構成を振り返りながら、「プロローグ」で魅せた羽生選手のプロスケーターとしての新たな姿に迫ります。2月には東京ドーム公演「GIFT」開催を控えます。氷上で進化を続ける羽生選手と音楽のストーリー。番組にもご期待ください。

写真右から
スポーツライター 松原孝臣さん
ラジオNIKKEI 藤原菜々花アナウンサー

 

放送予定/

ラジオNIKKEI1

13日(火)第2弾のアンコール放送  17:1018:30
・1月9日(月)ゲストが出演する番外編  17:10~17:40

 

ラジコ(radiko)で全国無料にてお聴きいただけます。
放送後1週間はタイムフリー機能で番組を聴取できます。

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