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ラストアイドル

ラジオiNEWSによくご登場いただくラストアイドルの皆さんが出演された舞台「球詠(たまよみ)」を、番組相棒の栗林さみさんと一緒に拝観した。これまでの人生で、そう多くの舞台や芝居を見てきたわけではないが、「球詠」は今まで見た芝居の中で最も面白かった。筆者が野球好きということもあるが、見終わった直後に、「これなら、もう2,3回見たい」と思ったし、上映時間の90分があれほど短く感じたことはなかった。

まず特筆すべきは、一人ひとりの演技の完成度の高さだ。バットスイングや投球、送球のフォームが素晴らしい。小学校時代、体育のソフトボールで女子の、ボールを迎えに行くような手だけのスイング、いわゆるお嬢様スイングをするようなメンバーは一人もいない。全員腰が入り、シャープに振り切るスイングだった。投げ方も軸がしっかりしており、大きく腕を振っていた。相当な練習を積んだに違いないが、短時間であそこまで完成度を上げるのは容易なことではない。

そこで思い出すのが、ラスアイの積み重ねてきた試練の数々だ。「青春トレイン」の最高難度ダンスで鍛えた身のこなしは、華麗なグラブ捌きや軽やかな走塁に通じるし、「何人も」で木刀を振り続けて鍛えた背筋が、鋭いバットスイングを生んだ。ラスアイだからこそ、あそこまでレベルの高い芝居に仕上がったのだろう。

もう1つ挙げておきたいのが、キャスティングの妙だ。ラスアイメンバーの実像を知り抜いているかのような配役の巧みさに、うなってしまった。取材したところ、特にラスアイ側から希望や推薦リストを出したわけではなく、演出側が独自に決めたのだという。それにしては、あまりにも、はまり役が多いので驚いた。

手足が長く、すらりとした大森莉緒さんは、まさにピッチャー体型。オーラ漂う佇まいは、まさにエースの風格だ。「いつかラスアイのセンターを取りたい」と目を輝かせていた大森さん、芝居で一足早く、センターポジションを獲得したようなものだ。

捕手役の長月翠さんも、心憎いほどはまっていた。持ち前のスター性ゆえ、これまで中心にいることが多かったが、以前インタビューで「本当は裏からメンバーを支えるのが性に合っている」と語っていた。捕手というポジションはまさに裏方、光が当たるエースを地味に支える存在だ。長月さんがいきいきと演じているよう見えたのは、自分のキャラクターに合った役どころだったゆえか。

キャプテン役の間島和奏さん、いつでもどこでも、SomedaySomewhere、間島さんはキャプテンであり、リーダーであり、まとめ役だ。これほどリーダーが似合う人もいない。間島さんのスイングも秀逸だった。右足に重心を残し、ボールを呼び込む。まさに4番のスイングだった。

篠原望さんもまた、ドンぴしゃはまり役だった。そこにいてくれるだけでメンバーは安心する。そんな慈愛の女神、篠原さん、芝居でも間島キャプテンに寄り添い、横に立っているだけでキャプテンは安心していた。こんな副キャプテンがいるチームは強い。

捕球、送球の動作で、ため息が出るほど上手かったのが畑美紗起さんだ。ショートというポジションは内野の要、併殺が取れるかどうかは、ショートの動きの俊敏さにかかっている。畑さんのショートストップは、これまたはまり役。バレエで鍛えた軽やかな身のこなし、ゴロ捕球からファースト送球への流れるような一連の所作は、優美で可憐だった。

小澤愛実さんのバットスイングも素晴らしかった。元々は右利きなのに、左打席から、まったく違和感ない強い振りを見せてくれた。最後に迷いを吹っ切って、思い切りスイングした場面の表情が、すごく良かった。小澤さんの芯の強さが垣間見えた。

他にも、ラジオiNEWSにこれまで来てくれたメンバーたち、大場結女さん、松本ももなさん、この日が誕生日だった鈴木遥夏さん、奥村優希さんなど、いずれも素晴らしい演技で、まだまだ書き足りないのだが、きりがないのでこのへんで止めておく。もしラスアイのことを知らない人が、いきなり「球詠」を見て、演じている人たちは、実はアイドルが本業で、専門の舞台女優ではないと知ったら、さぞ驚くことだろう。それくらい、ラスアイの「球詠」は完成度が高く、見応えがあった。一緒に鑑賞した栗林さんも同意見だった。

終演後、舞台挨拶が終わり、引ける直前、長月さんがこの日が最後の出演となる松本さん、畑さん、大場さんを呼び止め、大森さんとの間に3人を挟んで、もう一度光を当てるシーンがあった。あそこで、あのような行動を自然に取れる長月さんは本当に素晴らしい。まもなく卒業する長月さん、ラスアイにとって、いかに大きな存在なのか、あのワンシーンを見ただけでよくわかった。

出演者全員がラスアイメンバーの舞台「球詠」。10回の公演で終わってしまうのが、実にもったいない。運悪く見ることができなかった方は、いずれDVD化されるようなので、ぜひご覧になることをお勧めする。

(日本経済新聞 編集委員 鈴木亮)


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