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阿部菜々実,篠原望,鈴木亮,栗林さみ

ラストアイドルの最大の魅力は「勁さ」だと、前々回の当コラムで書いた。もう1つ、ラスアイの魅力を語るとすれば、それはメンバーが「Good losers 美しき敗者たち」であることだろう。
デビュー前から繰り広げられたバトルの数々、その後も表題曲をかけたバトルや選抜バトルなど、ラスアイは常に戦いを強いられていた。戦いに勝敗は付きもの。敗れた者はポジションやチャンスを失う。

ラスアイバトルの中で、「アイドル史上、最高の名勝負」と今も語り継がれるのが、この日のゲストで来てくれた阿部菜々美さんが暫定センター間島和奏さんに挑戦した回だ。そしてファンが最も胸を熱くしたのが、もう1人のゲスト、篠原望さんが橋本桃呼さんの挑戦を受けた回だった。
2期生センターだった篠原さんが破れた瞬間、本人より先にメンバーたちが泣き崩れた。篠原さんは自分に言い聞かせるように何度もうなずき、静かに会場を去って行った。その後ろ姿に全国のラスアイファンが涙した。篠原さんのコメントがまた泣かせた。「私がセンターでいいのかと、ずっと思っていた」。
ファンを代表して言おう。「のんちゃん、君はセンターにふさわしい人だよ」と。

アイドルグループのセンターは、いろいろなタイプがいていい。阿部さんのように、私の背中をみてとばかりに、歌とダンスでチームを引っ張る、絶対的なセンターがいる。間島さんは、学級委員長のような統率力でメンバーをまとめ上げるセンターだった。そして篠原さんのセンター像は、ひと言で言えば「慈愛」。聖母マリアのような慈愛でメンバーを包み込む。篠原さんがいるだけで、メンバーは安心する。そんなセンターだ。

バトルでセンターの座を明け渡した間島さん、篠原さんは、紛れもないGood loser、美しき敗者だった。そしてラスアイがいいのは、ドラマがここで終わらないこと。キャッチコピーが心憎い。「私がいるはずだったあの場所で。別の子が歌って踊っている。でもそれは終わりではなく、新しいスタートだった」。 間島さんはSomeday Somewhereのセンターとして輝き、篠原さんは2期生アンダーのセンターとして、メンバーにきょうも慈愛の眼差しを向ける。数あるラスアイの曲の中で、私が「Again&Again」と「サブリミナル作戦」が好きなのは、そんなドラマが秘められているからだ。

10曲目のシングルで、不動のセンター阿部さんが西村歩乃果さんにその座を譲った。阿部さんもまた、Good loser、美しき敗者だった。「西村さんが新しいラスアイのセンター像を見せてくれると想う。とても楽しみ」。

Good loser、美しき敗者たち。ラスアイのファンは自らを照らし合わせ、共感する。社会に出ると競争の毎日だ。ライバル企業との争い、社内では人事をめぐるバトルが続く。新規プロジェクトのリーダー、次の課長や部長の椅子、同期で誰が最初に役員になるか、などなどサラリーマンの世界は日々、バトルが続く。自分がなるはずだったあの地位に、同期のライバルが、後輩が就いている。 サラリーマンなら誰でも、そんな経験があるだろう。いざその時、私たちはGood loser、美しき敗者でいられただろうか。

(日本経済新聞 編集委員 鈴木亮)


鈴木亮

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