
再燃する米中貿易戦争、真の敗者はどっち?
日本経済新聞編集委員で前の中国総局長の高橋哲史氏が、中国の政治経済を音声で読み解く番組「NIKKEIで深読み 中国経済の真相」。今回は日本経済新聞 中国総局長の桃井裕理さんにお話を伺いました。
※2025年1月15日収録。
音声文字起こし・要約機能を活用しています。
Topics from China
中国、止まらぬ金利低下 20年債も日本を下回る (2025年1月8日 11:15)
高橋氏:
前回の配信でも触れましたが、中国共産党が昨年12月に金融政策を緩和すると表明して以来、中国の金利低下が止まらず、不動産不況を背景に経済は低迷しています。そのため、さらに利下げが予想される状況です。これによって、行き場を失った資金が国際市場に流れ込み、金利低下でアメリカとの金利差が広がる中、資金が人民元からドルに流れている構図です。その結果、人民元の対ドルレートは17年ぶりの安値水準に近づき、海外への資金流出リスクや人民元売りの加速が懸念されています。
一方で、人民元の安値は輸出を後押しする効果もあります。たとえば、トランプ氏が中国製品に関税を課しても、人民元が大幅に安くなれば、その影響を相殺できるという見方もあるのです。このような状況の中で、中国が意図的に人民元を安くする政策をとっているのではないかという声も市場で聞かれるようになっていますが、桃井さんはどのように見ていますか?
桃井氏:
確かに人民元の対ドルレートは昨年から下がり続けており、年初には当面の防衛ラインとされていた1ドル7.3元を割り込んだため、中国が対ドルレートを引き下げる方針にある、あるいは習近平氏が大胆な切り下げに踏み切るのではないかという見方が広まっています。ただ、現地の状況を見る限り、そこまで意図的に人民元を安くするとは思えません。
人民元の下落は、米中金利差の拡大や米国の利下げ期待の後退、中国経済の基本的な状況によるものと考えられます。もともと人民元は他の新興国通貨と比べて割高で、中国当局も一定の人民元安は容認しているようですが、7.5元や7.6元まで下がる可能性があるにしても、為替切り下げという大胆な政策は中国にとってメリットが少ないと考えます。
例えば、対トランプ氏への対抗策として人民元を切り下げることは、中国の貿易黒字が過去最高水準にある今、さらに報復措置を招くリスクがあります。また、中国は資源や食料の輸入国でもあるため、人民元安によるコスト増は戦略的にマイナスだと思います。
さらに、金融緩和についてですが、これからも続ける方針のようです。ただし、現状のデフレは供給過剰が原因であり、金融緩和がどれほど効果を発揮するのか疑問があります。生産が増えすぎて価格が下がる中、金融緩和によって中小企業への融資が拡大すれば、さらに供給過剰を助長し、デフレが悪化しかねません。このような状況では、むしろ財政政策で消費支援に力を入れるべきではないかと考えています。
CESから消えたファーウェイ 分断が促す中国発の革新
(2025年1月10日 11:00)
高橋氏:
私が気になったのは、「米中分断が中国を巨大なガラパゴス市場へと変え、中国のテック企業の急成長を後押ししている」という指摘です。この観点は非常に的を射ていると感じます。
例えば、ファーウェイはトランプ政権下でアメリカの制裁を受け、最先端の半導体が手に入らなくなり、一時はスマホ生産が完全に止まった状況に追い込まれました。しかし、彼らは独自に高性能の半導体を開発し、スマホ市場での人気を取り戻しました。そして今では、EV(電気自動車)市場にも進出し、成長を続けています。
孫子の兵法に「囲む師匠には必ず欠く」という言葉があります。これは、敵を包囲しても逃げ道を作れ、追い詰めすぎると敵の反撃を招くからだ、という教訓です。この言葉は、アメリカの中国制裁政策にも当てはまるのではないかと考えることがあります。ファーウェイの復活を目の当たりにすると、この視点を改めて感じざるを得ません。
桃井氏:
ファーウェイのスマホは復活して以来、中国国内で非常に人気が高いです。ブランドとしてのイメージももともと高く、製品がクールで、多くの中国人にリスペクトされています。さらに、今の中国では国産ブランドブームが続いており、これは「国産品の方がクールだから選ぶ」というトレンドになっています。
ただし、ファーウェイは単に中国国内の市場で育ったわけではありません。もともとは海外市場で通信システムや5G基地局などを展開し、技術力を武器に成長した企業です。そのため、中国人にとっても誇り高いブランドです。
最近ファーウェイの店舗に行ったのですが、アップルストアに似た洗練された空間で、多くの人で賑わっていました。スマホだけでなく、そこにはEVも展示されています。このEVは高級ラインで、後部座席には大きなスクリーンが設置されており、まるでエンターテインメント空間のような仕様です。展示車に座ってみたところ、革張りの座席が非常に心地よく、降りたくないと思うほどでした。
また、今年話題の三つ折りスマホも非常に魅力的です。屏風のように折りたたまれたデザインを開くと、大きな画面が広がります。ただ、価格が高く、さらにセキュリティ面での懸念があるため、購入は控えています。もし同様のクールなユーザーインターフェースを備えた製品が日本やアメリカで登場すれば、ぜひ使いたいと思います。
中国、トランプ氏就任式に特使派遣 習氏見送りで
フィナンシャル・タイムズ報道 (2025年1月11日 5:40)
高橋氏:
トランプ氏が大統領就任式に習近平国家主席を招待していたという報道がありましたが、やはり習近平さんの出席はありませんでしたね。習近平さんは2017年11月に、トランプ氏を国賓待遇で北京に招き、故宮を貸し切るなど特別な接待を行ったことで知られています。この時のトランプ氏は大満足だったと言われています。 そのため、習近平さんとしては次にアメリカを訪れる際も当然国賓待遇を期待していたでしょうし、大統領就任式という外交プロトコルにはそぐわない場に招待されること自体が適切ではないと考えていたはずです。
それでも、トランプ氏と習氏が意外と馬が合うのではないかという話はよく耳にします。昨年7月のトランプ氏が銃撃された事件の際には、習近平さんが「美しい手紙」と呼ばれるお見舞いの手紙を送ったことを、トランプ氏がわざわざ明らかにしました。こういった交流からも、両者の関係には一定の信頼や好意が感じられるのではないでしょうか。
桃井氏:
私は、トランプさんが習近平さんのことを好きなんだと思いますね。昨年のインタビューでも、トランプさんは習さんについて「あいつは鉄拳で国を支配しているすごい奴だ」と褒めていました。トランプさんはマッチョなリーダーが好きなんだと思います。
一方で、トランプさんが大統領就任式に習近平さんを招待したという件、これには驚きました。正式に発表されたわけではないですが、この報道を見ると、やっぱりトランプさんはすごい人だなと思います。習さんがアメリカの大統領就任式に来ることは、プロトコル的にも物理的にもあり得ないのに、トランプさんはこの「無理筋の手」をあえて投じましたよね。その結果、習近平さんが断った形になり、まるで貸しを作ったような状況を演出する。この発想と実行力には感心しました。
習さんの外遊には中国外務省が膨大な準備を行い、特別な待遇を要求します。国賓待遇のレベルに加えて、細部に至るまで完璧さを求めるので、訪問国の負担は非常に大きいです。特に秦剛さんという外交官がアレンジをしていた頃の外遊は、習さんからも高く評価されていました。例えば、イギリス訪問時には黄金の馬車を使ったパレードを実現し、秦剛さんは大いに評価されました。こうした背景を知ると、今回のトランプさんの「招待」という一手がいかに戦略的かがよく分かります。
トランプさんのこのような「勝負感」には学ぶところが多いですね。私もこういう手法をいつか真似してみたいですが、なかなかその場面がないのが残念です。
本編 - 再燃する米中貿易戦争、真の敗者はどっち?
中国、2024年貿易黒字最大 国内不振でEVなど輸出頼み
(2025年1月13日 17:02)
高橋氏:
私は、中国の貿易統計を見て、日本向け輸出が減少する一方で、アメリカ向け輸出が増加している点に注目しています。この背景には、アメリカの対中政策や市場の変化が影響していると考えられます。また、トランプ前大統領が掲げていた関税政策が、再び強化される可能性について議論しました。トランプ氏が60%の関税を導入すると中国経済に大きな打撃を与える可能性がありますが、それが長期的にどのような影響をもたらすのか疑問です。
さらに、アメリカ国内での物価上昇やインフレ再燃が、トランプ氏の支持層にとって不利に働く可能性も考えられます。そのため、このような政策がアメリカ自体にどのような影響を与えるのか、慎重に見極める必要があると思います。また、「プラザ合意2.0」の可能性についても、中国にとって一見悪いようで実は利点があるかもしれないという視点が新鮮で、非常に興味深いと感じました。
桃井氏:
中国の貿易動向を見ると、日本向け輸出の減少は、新型コロナウイルスや人件費の上昇、中国規制の影響などで、日本企業が「チャイナプラスワン」戦略を進めた結果だと思います。一方、アメリカ向けの輸出増加には、トランプ氏就任前の駆け込み需要や、中国の越境ECサイトを利用した個人輸入の増加が寄与しており、これは免税制度の影響も大きいです。ただし、これらの輸出増加は一時的な要因であり、長期的なトレンドとしては、中国の貿易構造がASEANへのシフトを加速させています。
また、仮にトランプ氏が60%の関税を課した場合、中国に一時的な打撃はあるものの、貿易構造転換や生産拠点の多国籍化によって対応可能だと考えています。ASEANとの貿易拡大は、中国製品の迂回輸出や現地生産の増加が背景にあります。例えば、タイでは電気自動車関連の生産が急拡大し、中国企業が現地市場に深く根ざしつつある状況です。
さらに、「プラザ合意2.0」の議論については、これが実現すれば中国にとってメリットも考えられます。ドル安が進めば、中国は資源や食料を安く輸入でき、人民元の国際的地位向上にもつながる可能性があります。このような動きが、米中間の緊張を和らげる契機となるかもしれません。
最終的に、米中間の経済戦争には勝者はいないと言われますが、特にアメリカの消費者や低所得層が大きな影響を受けるでしょう。トランプ氏の政策がどのように展開されるか注視していきたいです。
番組の感想はXで #中国経済の真相 をつけてポスト!次回は2025年1月23日の配信です。お楽しみに!

